第18話 徹路の結婚《連載小説》在る鉄道マンの半生 69年間待ち続けた男
※<本稿は01/01/2008に旧サイトで初稿公開した小説のお引っ越し掲載です>
ー 阪神・近鉄友情物語 ー 第18話
阿倍野の近鉄本社内に出来た大阪高速鉄道は活気にあふれていた、少ないスタッフは徹路を筆頭に全て20代の若者達だった。
毎朝早くから、夜遅くまで時には激論を戦わせながら、全員一丸となって戦後復興、大阪復興の為に良い仕事をしようと頑張った。
そんな毎日を過ごしていたある日、実家から一通の手紙が届いた。
{"9月1日の日曜日に近くのお宮様で式を挙げる、披露宴は自宅で身内の物だけを招いてささやかに行う。ついては、新居を探しておけ、準備が必要だったら、寿美を差し向ける"}
という内容だった。
取りあえず、そのことを、上司である山本本部長に報告した。
『そうか、君もやっと結婚するか。や、おめでとう、式には俺も出席するからな』
『有り難う御座います...それが...、本部長、時節柄式は実家で身内だけで行う事になりまして...』
『そうか...』
『まあ、お祝いだけはさせて貰おう』
『有り難う御座います』
『で...、新居はどうする?』
『ハイ、それが、ご存知の通り大阪高速鉄道の準備で忙しい物で...』
『そうか...、判ったワシから、総務部長に社宅を準備するように言っておいてやろう』
『申し訳ありません、有り難う御座います。』
部長の骨折りで、若江岩田駅に隣接した社宅に入れることになった。
8月の初め、母寿美が準備に来阪した。
空き屋だった、社宅は荒れていたが、窓ガラスと屋根と床だけは修繕してくれていて、雨風(あめかぜ)は防げる状態だった。
御影石で出来た流しのついた4畳半の台所と、4畳半の居間、それに6畳間、それに便所。
風呂など当然無い、近くの銭湯を利用することになる。
入居の準備と言っても、終戦間もない頃今のように町中に物があふれている時代ではない。
母は独身寮の、徹路の部屋に泊まって慣れない大阪で布施や、鶴橋の闇市を回って、鍋釜・食器、盥、洗濯板などの日用品を集めてくれた。
8月25日の日曜日に、妻となる梨花が校長に連れられて、製材所のトラックに乗って荷物を運んでやってきた。
荷物と言っても、タンスと鏡台とみずやと布団と身の回りの物だけ。
梨花は相変わらずの笑顔で少し照れながら荷物を運び込んだ。
3時間ほどいただけで、吉野に帰っていった。
当時は舗装もしていないような酷いガタガタ道。往復に9時間近く掛かっての大仕事であった。
9月1日前日から実家に帰っていた徹路は、紋付き袴姿。
梨花は文金高島田というおきまりのスタイルで式を挙げ、実家に帰ってささやかな宴を張った。
その晩は実家に泊まり、翌朝一番電車で阿倍野の本社に出社した。
妻梨花は母寿美に連れられて、電車で翌日に新居に入った。
<続く>
公開:2008年1月 1日
更新:2022年9月 5日
投稿者:デジタヌ
第17話 縁談話《連載小説》在る鉄道マンの半生 69年間待ち続けた男< TOP >第19話 初めての帰宅と新婚生活《連載小説》在る鉄道マンの半生 69年間待ち続けた男
▲デジタヌ作小説コーナーへ戻る