狸穴ジャーナル『タヌキがゆく』

連載《 アメリカの鉄道網がどのようにして"再建・復興" 出来たか?についての考察 》ー第6回ー

第6回 20世紀後半の全米あげての鉄道網のrestructuringで

20世紀後半に、国内空路の追い上げで、旅客営業が衰退して、貨物営業一本に絞り込んだ各鉄道会社が、企業合併とカタカナ英語で言うアライアンス(広範囲な提携)関係で、お互いに重複する無駄な設備(路線)を"断捨離"して、「儲かる体質」を目指した結果が、現在の「鉄道事業の再生」に繋がったわけです。

結果1919年当時各社が、まだ鉄道各社で覇権を競っていた時代に、全米に40万Km!もあった"個別路線"が、2006年には約23万Kmと約半分まで"断捨離"出来たのには、こういった「"重複路線"の統廃合」の背景があったわけです!

皮肉なことに、単純路線延長は各社ともに約半減しましたが、貨物輸送量は当時とは比べ物にならない程増加しています!

(※この辺りが、トラック輸送に押されて、年々貨物輸送量が低下した、旧国鉄、新生JR貨物と大きく異なるわけです。)

これにより、各社の営業路線の軌道設備の維持管理・設備更新費が大幅に削減できました!

つまり儲けが生まれてきたわけです!

例えば、現在BNSFでは延べ24,000mire(約39,000 km)の及ぶ4つのtranscontinental railroad、maine lineを保有していて、この4本だけで、総重量2万トン!にも及ぶマイルトレインを1日当たり150本!も運行しています。

つまりこれらの幹線のtransit cargo transportation(通過貨物)だけで300万トン(10万トンコンテナ船30隻分)の貨物が毎日USAを走行しているわけです!

更に、regional line(地方交通線)、やMining line(鉱山鉄道)などのbranch line(支線)と前途したTrackage rights 路線を加えた総営業距離は58,000mile(約93,000km)にも及び、膨大な貨物量を捌いているわけです。

特にドル箱路線は、BN時代の1972年にmining lineとして新規開業したPowder River Basin地図中小豆色のエリアがパウダーリバー盆地)のbranch line(支線)で、この路線だけで開業当初から年間64,116百万ton・mileの輸送密度を記録し、1979年には年間135,004百万ton・mileとなり、21世紀の現在に至っても、輸送密度を維持し続けています!

背景となるPowder River Basin炭田

後述するように、USAの電力は意外や「石炭火力発電」が支えています!

Powder River Basin炭田だけで10山以上の露天掘り炭鉱があり、USA国内40ケ」所近い発電所(発電会社)とセメント工場に供給しており、更には北部のtranscontinental railroadを経由して西海岸から東南アジアの発展途上国に輸出されています。

嘗て栄華を極めた、北海道、常磐、筑豊の炭鉱関係者が、往時を忍んで悔し涙にむせぶことでしょう。

第1項 Double-stack rail transportと超大編成化がキーに

西部のロッキー越えや東部のアパラチア山脈ルートなどの山間部ルートを除き、"トンネルの少ない路線網は"車両限界を拡張してDouble-stack rail transportを実現するのに都合よく働きました。

transcontinental cargo transportation(大陸横断貨物輸送)言い換えれば大洋間輸送 inter-ocean cargo transportationを急成長させて、赤字解消どころか莫大な利益を生むようになったのです!

勿論中西部の穀倉地帯と東西の大都市間を結ぶInter-City(都市間)やinterstate(州間)のcargo transportationもありますが、やはり各州を通過するtransit cargo transportation(通過貨物)が大部分を占めているわけです!

この点が、小さな大陸「北海道」とは大きく異なる部分で、大量貨物輸送のNeedsが無い北海道では、貨物専業鉄道事業が成立できない要因の一つともなります!

アメリカでは100両連結総延長1.6Km以上総重量2万トン!に近い大量の貨物が"陸蒸気"によって、大西洋・太平洋間のinter-ocean を日に十本以上も運行されているわけです!

せいぜい1列車Max1,300 ton全長400m程度のJR貨物コンテナ列車が、東海道本線・山陽本線でさえ日に10本にも満たない状況とは大きく輸送量が異なるわけです。

※、瀬戸内海運河?が発達した日本だけでは無く、ヨーロッパも、日本同様に船舶輸送(水運・海運)が発達していて、張り巡らされた運河網やドナウ河、地中海が、速達性を必要としない、原材料(石炭・鉱産物・木材チップ)関係の輸送に大活躍しているわけです。

なので、シンプロントンネルで有名なアルプス越えの貨物輸送は日本同様にかなり限られた物となっています。

第2項 キーワードは1万トン輸送!と、Double-stack rail transport 

アメリカ鉄道網(鉄道事業者)の再生には、1列車当たり1万トン!の貨物輸送と、それを実現するためのDouble-stack rail transportが欠かせない必須条件となっていたわけです。

つまり結論から言ってしまえば、現状のJR貨物のMax1,300 ton輸送体制では、"速達性"以外は内航航路の船舶(フェリー)(※51)に対抗できず、最低でもかつて目指したEF200形電気機関車による1,600 ton輸送体制が必要なわけです!

参※51)燃料やセメントなどの粉・液輸送や原料関係(鉱石、石炭、原油、木材チップ(製紙原料))などのバラ済み輸送はバルク船やタンカーが主体で、その他の製品・生活物資輸送も大型化した長距離フェリーにトレーラー(コンテナ)部分だけを乗せて、積み込み・積み下ろし港からは地元営業所のトラクター(牽引車トレーラーヘッド)が港⇔customer(荷主)間を輸送するシステムが定着しています!

第1目 米国の"陸蒸気"海上コンテナ輸送について

アメリカの鉄道が、再生できた要因はズバリ、船舶輸送(貿易)との連携、複合貿易貨物輸送システム(land and water combined transportation)に尽きるでしょう。

ローッキー越えのFeather River Routeの有名なKeddie Wyeを走行中のDouble-stack rail transportのマイルトレーン!

険しい山岳地帯を踏破する、大陸横断鉄道でさえ、全長1マイル(1.6㎞)約1万tonのマイルトレインが運行。

第2目 Double-stack rail transport

Double-stack rail transport (複層鉄道輸送)とは海運と鉄道を一体運用して、アジア⇔ヨーロッパの東回りの東西貿易を維持するために考えられたシステムでいわば複合貿易貨物輸送システム(land and water combined transportation)と呼んでも差し支えないシステムです。

パナマ運河開通後も、米国での東西沿岸都市を結ぶ物流は発展と共に層化して、特に近年は輸送コスト低減のためにコンテナ船は年々大型化して、パナマ運河を通れないオーバーパナマックス船が一般化して、アジアから東海岸への物流(貿易)を賄うために、貨物を西海岸から内陸部や東海岸に運ぶ手段として複合貨物鉄道輸送(land and water combined transportation)が必要になりました。

Southern Pacific Transportation Companyは、大手コンテナ船会社シーランドの創設者マルコム・マクリーンと共同で、...1977年に初めて二段重ね貨物列車のアイデアを発表した。

《Wikipediaより引用》

現在Union Pacific Railroadの傘下に入ったSouthern Pacific Transportation CompanyACF Industryと専用台車を共同開発してその後 アメリカンプレジデントラインズとアライアンス関係となり、1984年に最初の総二段重ね貨物列車がSouthern Pacific Transportation CompanyからConsolidated Rail Corporationに直通してロサンゼルスからKearny, New Jersey間に"Stacktrain" rail serviceの名前で運行開始されました。

海上コンテナの規格

基本となる海上コンテナ(以下海コン)には,色々な、形状、サイズ、種類がありますが...

一般的(米国内)で流通しているコンテナは、

長さX巾 X高さX最大積載重量が以下の数値で

○ [1AAA] 12,192 mm (40 ft) 2,438 mm (8 ft) 2,896 mm (9 ft 6 in) 30,480 kg (67,200 lb)
○ [1AA] 12,192 mm (40 ft) 2,438 mm (8 ft) 2,591 mm (8 ft 6 in) 30,480 kg (67,200 lb)

○ 1CC 6,058 mm (19 ft 10-1/2 in) 2,438 mm (8 ft) 2,591 mm (8 ft 6in) 20,320 kg (44,800 lb)

のISO 668コンテナ規格と

アメリカ国内規格 14,630 mm (48 ft) 2,591 mm (8 ft 6 in) 2,908 mm (9 ft 6 in) 重量制限無し!
APL 13,716 mm (45 ft) 2,438mm (8 ft) 2,908mm (9 ft 6 in) 重量制限無し!
マトソン 7,315 mm (24 ft) 2,438 mm (8f t) 2,603 mm (8 ft 6-1/2 in) 22,680 kg (50,000 lb)
シーランド 10,688 mm (35 ft) 2,438 mm (8 ft) 2,603 mm (8 ft 6-1/2 in) 22,680 kg (50,000 lb)

が一般的に鉄道輸送されています。

つまり、最大で、総重量100ton,(軸重25ton)長さ18m

積載重量60ton(又はそれ以上!)の貨物が自重40ton 近いキャリーに積まれて,時には10両のDLと合わせて100両以上、全長2㎞以上編成重量10000ton!以上の貨物列車が最高時速80mile/h(約120㎞/h)で大草原をつぱしっているわけっです!

正しく陸上を走る、"陸蒸気"そのもの!

しかしこのシステムが一般化して、他の鉄道会社にも普及して、鉄道事業そのものが復活するには更に長い年月を要しました!

以下はBNSF鉄道の先頭牽引x4両、中間x3両、後押しx3両 合計10両!DL編成の例 4,400hpX10=44,000hp≒33,000Kw!

第3目 更に海上コンテナ全国配送用トレーラーの積載も

ビデオを伽藍になって、『アレ?...』『海コンを積載した"トレーラー"が何故積まれているの?...』と思われた方もおありでしょうが...

日本もそうですが、貿易貨物(海コン)は通関を受けた後、各荷主にトレーラーに積載されて、配達されます。

日本では

貿易貨物は、大阪港(南港)神戸港(六甲アイランド)、横浜港(大黒ふ頭)などに集中しており、一般的に貿易港からは離れた"地方都市"への輸送には、内航航路に積み替えるか、フェリー航路が利用されています!

つまり貿易港←(陸送)→最寄りフェリーターミナル←(大型フェリー)→地方都市フェリーターミナル←(陸送)→荷主 となるわけですが、

この間の「大型フェリー」の部分は乗務員・牽引車(トラクター・トレーラーヘッド)無しで、海コン専用のセミトレーラー部分のみを運んでいます!

例えば小樽・苫小牧などのフェリーターミナルに到着してから、陸運事業者の現地ドライバー(トレーラーヘッド)が荷主の元に届けるわけです!

米国では

広大な国土のアメリカでは、別途したように、ミシシッピー河などの大河や下流域に張り巡らされた"運河"をプッシャーバージ(艀)に積み替えて、最寄りの「荷下ろし港」まで中継する場合もありますが、...

これではまた、海コン専用セミトレーラーに積み替える必要があり、効率的な運輸システムとは言えません。

そこで、前途した日本の内航フェリーの代わりに、専用貨車を開発して、「海コン専用セミトレーラー」毎積載して、全米各地のdepot(貨物駅)迄運ぶわけです!

車両限界・建築限界が大きな米国ならでは!

前途しましたように、Double-stack rail transportに対応させるために、車両限界・建築限界共に大きく、全高4.5mにも及ぶ、セミトレーラーを積載しても、車両限界内に収まるので、この輸送システムが採用できるわけです!

参※CSXの各路線の公表車両限界

Doublestack 1 -- 18 ft 2 in (5.54 m)
Doublestack 2 -- 19 ft 2 in (5.84 m)
Doublestack 3 -- 20 ft 2 in (6.15 m)
このリストによれば、Doublestack 3ではISO High Cube コンテナ(背高コンテナ)を二段積みして輸送できる。《Wikipediaより引用

一部の電化された区間では車両限界に対応するために6.5 m以上となっています。(日本では道交法の関係で4.5m以上)

更にインドでは軌間1676 mmと超広軌!なので、一部の区間において"現在3段重ね!"に対応させるために、架線を7.45m!に改修する工事を実施中です。

今後日本でも...

今後日本でも、整備新幹線建設推進プロジェクト(※51)を"強引に推し進め"ようと画策するなら...

標準軌!の新幹線鉄道規格新線に計画変更して、貨客併用路線として、「親亀子亀」輸送方式の採用を検討すべきではないでしょうか!

更に、東海道新幹線、青函トンネルの"寿命"問題も浮上しており、第2東海道線新幹線の建設と、現行東海道本線の移設、貨物併用化のも含めて"広範囲に議論(検討)"する必要があるでしょう!

参※51)当サイト内関連記事 整備 新幹線 建設推進プロジェクト は国を亡ばす! はこちら。

第2項 実現までには莫大な再投資も

米国CSX社ではレール上の車両限界として、以下を規定しています。

  • Doublestack 1 -- 18 ft 2 in (5.54 m)
  • Doublestack 2 -- 19 ft 2 in (5.84 m)
  • Doublestack 3 -- 20 ft 2 in (6.15 m)

つまり電化した場合、米国、オーストラリア大陸同様にトンネルの必要ないインド大陸?では、架線の高さは6.5m(日本では4.5m)、(新規の3段積対応路線として7.45mも)が設定されています。

これ以外に積載量が倍増するための軌道強化策、として橋梁の架け替え!、重軌条化(60㎏→70㎏)(※22)

(※22)日本国内では、新幹線で使用されている60kg軌条が一般的には最大で、80kg軌条の規格(ISO,ASME,JIS)はあっても、製鉄所のトーピードカー用の構内軌道ぐらいでしかお目に掛かれませんが...

多層化の進む米国の一般幹線(maine line)ではそれに準ずる141 lb/yd (69.9 kg/m) の Rail profile が使用されだしています、しかも皮肉なことに、嘗てカーネギー製鉄所からの輸入レールに頼っていた日本でしか製造できない(されていない)ので、米国のレールは日本製で独占されているわけです!※一部の怪説傾高痛Youtuberが80㎏レールと言っているのは間違いです!

っすがに米国でも、製鉄所などの特殊用途以外では使われていま線!

第1目 企業努力が実り

Double-stack rail transportが定着するまで10年ほどの歳月を要しましたが、関連する設備増強などの"企業努力"の結果、

毎年膨大な赤字を出していた各鉄道会社は、"鉄道事業単独"で巨額の利益を生みだせる状態まで再生出来ました!

UPのように、半ば野ざらしのまま朽ち果てかけていたSL BigBoyを完全復元!して、不定期イベント列車として走らせる余裕が出来るまで、業績が回復したわけです!

(JRTT(※52)の100%子会社で株式非公開・非上場の国策企業!JR北海道が"焼糞?でSLイベント列車を運行するのとは異なり...完全民営化されたUPでは親会社への株主(投資家)の厳しい目があり、余興や"慈善事業"等なかなかみとめられる環境ではありません!但しUPはUnion Pacific Corporationホールディングスの100%子会社であり、JR北海道同様に直接一般投資家から非難を受けることはありませんが...)

参※52)当サイト内関連記事 鉄道建設・運輸施設整備機構が改組できれば 地方の 鉄道事業者 にも未来への希望が... はこちら。

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公開:2021年8月26日
更新:2024年11月17日

投稿者:デジタヌ

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