『 建築音響工学総覧 』第7巻・芸術ホールのデザイン(Page 9)第8章 初期反射対策と定在波対策として重要な壁面構成
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★第8章 初期反射対策と定在波対策として重要な壁面構成
前途したように、床・天井・側壁で"閉鎖"されたオーディトリアム空間では"過大な反響"とそれによって誘発される"定在波"対策が最大の課題となりますが、そのうちでも"壁面意匠"は重要な役割を負います。
別項(※89)で述べた通り、初期反響を軽減するには「素材と形状」が重要となります。
更に定在波対策としては前途したフロアー平面形状と共に、壁面のスラント(傾斜)設置とアンギュレーション(屈曲)処理は必須事項といえるでしょう!
参※89)当サイト関連記事 『第3章 天井材・壁材について はこちら。
★第1節 会館建屋外郭をサウンドロックとする手法
いわゆるサウンドロック「防音構造」を会館シェルター(外郭)壁に直接受け持たせて、オーディトリアム内壁は、縦格子などを用いたパーティション構造とする手法です。
オーディトリアム内壁の間口が十分に確保できない場合、会館シェルター外郭そのものを頑強にして防音・遮音構造とし、内郭オーディトリアムとは縦格子などを用いたパ-ティションで"区切る"手法です。
代表例としては、京都コンサートホール《ホール音響Naviはこちら》が有名です。
★第2節 縦格子を用いた2重壁構造
前節同様に、オーディトリアム本体壁内面にロックウールなどの吸音材を張り付け、縦格子を用いて表装する2重壁構造とする手法で、ステージと対抗する大向壁面などによく用いられる手法でもあります。
音声帯域(※921)の初期反響軽減には効果があり、十分な距離が稼げる奥行き方向については高次定在波の発生も少ないので大向壁面などに有効な手段としてよく用いられますが...
しかし中小・規模ホールの完全並行対抗側壁部の垂直側壁への応用では、音響ネットで表装した吸音壁同様に吸音材の十分な厚みが確保できないこともあり、定在波の原因となる低周波ではあまり効果が期待できません!(※922)
なので、側壁自体をスラントさせる必要があります。
※参921)音声周波数帯域とも言われ楽器や肉声の基音となる300~3400Hzの低・中音域を指します。ちなみに電波法のAM放送の公称伝送帯域は100 Hz~7,500 Hzです(実際には50Hz程度から12kHz程度は伝送できています。)関連記事「音の良いフルレンジスピーカー列伝」はこちら。
参※922)吸音壁の失敗例 当サイト関連記事 『アンサンブルホールムラタ(小ホール)』ホール音響ナヴィはこちら。
第3節 通常の表装に使う素材について
第1項 天井や壁面は木材等の軟質・軽量素材で、内壁面に硬質重量材は禁物!
壁面からの直接反響音を緩和するには壁面の素材が重要な要素。
エコールーム紛いのデザインで、壁面が「石壁」や「タイル張り」、「打放しコンクリート」等の「音圧反射率」の大きい「硬質・重量」素材で表装した壁面は初期反射が大きく反響だらけのワンワンホールになってしまい「芸術ホール」には適しません!
※参)エコールームに関する「音工房Z」さんの解説記事はこちら。※本物のエコールームでは定在波対策(平行壁面対策)はしっかり施されています。
第1目 内壁のタイル張りは危険でもある!
特にタイル張りは危険でもあり、2018年の北大阪震災では、実際に高槻芸術劇場で「内壁タイル剥落」が発生し、休館に追い込まれています。
音響インピーダンスが小さく、内部損失が大きい素材を用いる
音響インピーダンス(※923)が小さく"音圧反射率"の小さい、反射音圧(音量)そのものが小さくなる素材を用いることが重要です。
良質のホールでは内部損失(※924)も大きい木質パネルが好んで使用されています。
参※923)当サイト関連記事 第1項 音響インピーダンスと音圧反射率はこちら。
参※924)内部損失;音波が物質内部を伝播(でんぱ)する際に、要素(結晶等)の界面などで乱反射して、散乱により熱に変換されて減衰すること。
第2項 表面形状(処理)・表装による初期反響低減策
凹凸のある複雑な壁面形状のほうが初期反響低減効果が高い!
フラットで硬質材の表装は不愉快な初期反響の嵐と成り、「心地良い余韻」にはつながりません。
凹凸のある複雑な表面形状のほうが乱反射で反響音が拡散され、耳障りな壁面反射エコーが軽減されて、更には心地よい「後期残響」の創出にもつながります。
第1目 表面凹凸加工による初期反響低減と石材内装ホール改修(改築)について
更に凹凸表面処理もー1㏈程度の初期反響緩和効果、つまりプレーン・パネル使用の場合X0.9倍程度の反射率改善効果があります。
しかしコンクリート打ち放し壁や、人造大理石壁面を"再加工"する「工期・加工費(人工費)」を考えた場合、壁面をそのままにしてホール内部に「新たな表装」を追加したほうが、安上がりでしょう!
なので、"石壁"の手前に縦格子や"和装表具"を追加する手法はコスパが高い改修策といえるでしょう!
初期反響音低減に有効な表面(表装)処理
- 打ち放しコンクリート壁の表面凹凸処理
- グルービングパネルの使用。
- 凸面湾曲パネルの使用。
- (30cm以下の)小さなアンギュレーション(屈曲シワ)を付ける。
- 鎧張り(下見板張り)等の(30cm程度の)小型パネルの段差表装
但し以下の表面(表装)は音響拡散効果はあるが反射音圧軽減効果は少ない
- 一間幅(約1.82m)以上の大型パネルの段差表装。
第2目 手法1 「グルービング(溝)加工」をほどこした壁面用パネル

出展;File:Quadratic diffusor.gif
https://en.wikipedia.org/wiki/File:Quadratic_diffusor.gif
あなたの耳の構造を思いだしていただければ分かりやすいと思いますが、圧力波である音波は狭所でも入り込みます。
つまり溝のボトムから跳ね返ってくる反射波と溝表面で跳ね返る反射波を干渉させて、反射波の音圧を下げようと言うのがグルービング材(※925)です。
参※925)当サイト関連記事 『第3節 1/4波長程度の「グルービング(溝)加工」をほどこした壁面用パネル の効果 はこちら。
第3目 表装素材と形状の組み合わせでは...
つまり遮音効果が少ない「障子、襖(ふすま)、などの和装内壁」が最もよく、コンクリート打ち放し壁が最悪となります!(※926)
参※926)当サイト関連記事 『第1節 基本則(禁則)天井や壁面は木材等の軟質・軽量素材で、内壁面に硬質重量材は禁物! はこちら。
第3項 スラント設置と併用が原則!
但しこのパネルだけでは初期反響は軽減できても「低音域」で問題となる定在波駆逐には効果はありません!
壁面に格子状のグルービング加工をほどこした木質パネルを用いた例ではホール平面形状や壁面のスラント設置で定在波対策を行っています。
2013年3月改修工事竣工 三鷹市公会堂・光のホール/(※ホールナビはこちら)
★第4節 音響拡散に用いられる壁面装飾オブジェ"音響拡散体"
音響拡散処理とは初期反響の軽減緩和と後期反響の創出を図る為に、天井・壁面にランダムな凹凸を配し乱反射を得る手法です。
また「音響拡散体」とは主に中・上層部壁面&天井に付加する装飾突起物;オブジェと言ったところです。
第1項 レガシーホールにみる音響拡散要素
西洋の有名レガシーホール・オペラハウスにみられる様式、例えばギリシャ神殿様式に範をとった「エンタシスの柱」や上部の梁を支える部分に設えられた「台座」や「欄間」部分の彫像、周囲にテラス、などは音響拡散効果がある「音響拡散体」の一種としてとらえることができます。
また日本の伝統的公民館によく見かける、柱と天井梁の接続部にあるガセット(補強板・アングル・梁)や伝統的芝居小屋にみられる折り上げた「格天井」や桟敷柱、桟敷の前面柵、明り取り窓の窓枠などは全て散乱効果が優れている設えです。
以下は、特殊メークアップアーティスト(音響意匠デザイナー)が"化粧品"(音響拡散体)としてよく利用する要素の数々です。
音響拡散体として有効な部材
- むき出しの照明コラム、照明ブリッジ、空調ダクト、ホール出入口開口部、装飾窓、装飾テラス(orキャットウォーク)などの設備・艤装、豪華なシャンデリア、拡声装置(露出型スピーカーボックス)
- 側壁のオブジェ(突起物)、装飾柱、装飾梁、梁台座、壁面照明器具などの突起物。
- バルコニー・テラスの軒形状
- 柱、ガセット(コーナー補強材)、壁面構成、フロアー構成、折り上げ天井、格天井などの構造材・表装の利用。
- キュアットウォーク、天井構造材(トラス)むき出し天井
- 最近では、「空調ダクト」などに装飾を施し、「飾り柱」、「飾り梁台座」「飾り梁」、「組格子」を模して突出させる手法が良く用いられる。
などが上げられます。
「音響拡散体」使用例 その1

出展:File:Alumni Concert Hall, CMU.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Alumni_Concert_Hall,_CMU.jpg
このホールでは、壁面のオブジェ、装飾梁、梁台座付きの装飾柱、折り上げ天井、天井のヴォールト、などが用いられています。
「音響拡散体」使用例 その1 ガセット の利用

この教会の場合は、勿論残響目的ではないが、突出したリブ状の補強板付き門型柱に加え、天井梁との間にもガセット(コーナー補強版)を加え補強している。
国内では旧東京音楽学校奏楽堂(※ホールNaviはこちら)、兼松講堂(※ホールNaviはこちら)など、露出天井梁とともに多くの近代西洋建築で用いられている。
出展:File:Interior of Victoria Concert Hall, Singapore - 20141101-28.JPG
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Interior_of_Victoria_Concert_Hall,_Singapore_-_20141101-28.JPG
第2項 近年の音響拡散手法
むき出しの「照明コラム」の利用
最近のモダンホールでは、両側壁にフード(囲い)を付けないむき出しの「照明コラム」を設置して音響拡散体としても利用しています。
ダミーテラスやキャットウォーク・テラスの利用
ダミーテラスやキャットウォーク・テラス(犬走り)を壁面に設置して張り巡らす等の「音響拡散効果」を狙ったデザインも増えています。
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★第5節 シューボックスホールでの留意点
このタイプのホールは基本的に平行する対抗壁面が多く、オーチャードホール(※ホール音響Naviはこちら)のような例を除き、高さ方向にまで"壁面間隔20m超"のセオリーを適用できたホールは珍しく、次項に述べる「ロールバックシステム採用の小規模多目的イベントスペース」同様にトラディッショナルな欧風建築風・公会堂デザインの"水平設置"の格天井などをホール全長に渡り採用すると床面とプレーンな面同士で完全平行することとなり、「高さ方向の定在波」)に悩まされる結果となります。
為に「形状に工夫して」ステージ&被り付き最前部客席平土間部分上部はスラントさせた反響板とするか、タケミツ メモリアル(※ホールNaviはこちら)のように教会風の三角屋根にして上下方向の定在波発生に留意する必要もあります。
第1項 シューボックス特有の壁面処理
シューボックス型ホールは平行する対抗面が多く、エコー(初期反響)の嵐と成りやすい、と同時にプレーンな壁面で構成すると「後期残響:乱反射」が得にくい一面もある!
ワインヤード型を含め「シューボックス形状は(内部装飾に)金がかかる」ことを覚悟せよ!
第1目 柱間のパネル間仕切り壁は額縁風に
柱・梁間に木質パネル壁などを直接埋め込む際は、接合部直角コーナーが生じ無い様に額縁風に飾り棧でコーナー封じを行え。

第2目 木質パネルには装飾を施せ
上記同様アンティーク家具調(ビクトリア王朝風)に出来るだけ装飾凸部(貼り合わせ)を設け単調な平面は避ける。
出典TQ3082 : St. Pancras Renaissance London Hotel, Euston Road, NW1 - a comfy corner in the Booking Office Bar
公開:2018年8月 6日
更新:2024年12月15日
投稿者:デジタヌ
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