音の良いホールの"条件"と"評価法"について『建築音響工学総覧 』付属書 (1)
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前書き(要約)音の良いホールの定義とは
優れたホールの条件とは、真近で聞こえた「生楽器の音色」がホール隅々まで「変化しないで行き渡り」、どこで聞いてもスタインウェイはスタインウェイ、ベーゼンドルファーはベーゼンドルファーの音色が聞こえて来なければならないのではないでしょうか...
ままた当記事は『建築音響工学総覧 』の要旨を要約して、一般聴衆の方にわかりやすく?解説した良い「ホール」の見分け方手引きでもあります。
何処に座っても(全ての座席で)生楽器の音が"明確な定位"で余分な付加音が無いクリアーな音色で鑑賞できる『トランジェントの良いホール!』のことです。
付属書(1) 音の良いホールの"条件"と"評価法" Version.2 Revision.6/2020.12.16 の目次
目次をクリックすれば各メニューにジャンプできます。
プロローグ 新・ホール音響評価(採点・算定式)法とは
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第0項 何をもってして「音が良いホール」とするか?
※2018年8月1日より実施、順次「旅するタヌキ」【ホール音響Navi】(全国 の ホール 劇場 ナビ)を更新予定です。
※2020年12月16日改定 Version.2 Revision.6
「旅するタヌキ」 全国 の 劇場 ・コンサートホール 音響ナビをご覧くださった読者の方から、「ホール音響評価法」について「詳細記述が無く、評価法があいまいだ!」とのご指摘がありましたので、レビジョン改正した「新評価法」についての詳細を解説いたします。
ホールを音響評価するときには「初期反射障害」「定在波障害」「客席配置による障害回避策」の3要素が重要であり、後期残響(※2)は単なる「お化粧」程度にしか過ぎず、この3つの障害を覆い隠せるほどの効果はありません!
参※2)当サイト関連記事 序章 都市伝説「音の良いホール の条件 残響時間2秒以上 」 は本当か?はこちら。
第1項 ホール音響評価のポイントと数値化
残響2秒異常に代わるホール評価方法として、「初期反射軽減対策」「定在波障害対策」「音響障害と客席配置」を数値化することにより評価する手法を考えてみました。
各項目にそれぞれ25点、50点、20点の配点をして、障害箇所1点/1箇所を配点から減じて持ち点とし、持ち点に障害エリア客席数比率を乗じて算出した得点を加算合計して、お化粧得点?として「残響付加要素(音響拡散体)」の要素数で算出したポイントを上限5点の範囲内で加算し「100点満点に対する得点数」で評価する手法としました。
第2項 前提条件(評価ゾーン)
オーディトリアム(客席)周辺の表装についの評価とします。
後期残響については主に客室上空・上層部の内装を対象とします。
第3項 障害エリア分けと算出法
第1目 持ち点について
「音響障害に相当する以下のエリア」を減点対象として其々「1エリア1点」として配点から減点して持ち点とします。
配点ー障害エリア数=持ち点
- ●メインフロアーは平土間部・スロープ部、左右のサイドテラス(桟敷席)を夫々別エリアと見做します。
- ●上層階はバルコニー、左右サイドテラスを夫々1エリアとして見做すこととします。
- ●ワインヤード(アリーナ)形式については"各棚"を夫々別エリアと見做します。
第2目 各項目評価算定式
評価点V=持ち点X(総席数ー障害座席数)/総席数
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第1節 「初期反射」軽減対策評価:配点25点
※本節は当サイト関連記事 『建築音響工学総覧 』第3巻 多目的ホール での諸悪の根源 "過大な エコー"を要約した構成としてあります。
初期反響はホール側壁、天井反響板に反射し直接耳に飛び込むエコー(山彦)と呼ばれるディレー(時間差)を持った原音に近い波形です。
初期反響(エコー)も厄介な代物で、ステージ上のプレーヤーの「実ポジション」と見かけ上(聴感上)の「定位」に差が生じ最悪の場合「ホール良酔い」(※16)を起こしてしまい、特に視覚障害者にとっては「恐怖感」にも通じ甚大な実害を与える項目です!
更には次項の定在波の発生メカニズムとも綿密に関わっており、適度な「音圧反射率」(音響吸収率)が求められます。
参※16)当サイト関連記事 『第2章 過剰なエコーが引き起こす音響障害「恐怖感」と「ホール酔い」 はこちら。
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第1項 天井や壁面の素材が重要
壁面からの直接反響音を緩和するには壁面の素材が重要な要素となります。
音響インピーダンスが小さく,形状が複雑で反射音が拡散しやすく反射音圧(音量)そのものが小さくなる素材を用いることが重要で、良質のホールでは木質パネルが好んで使用されます。
打ち放しコンクリート壁や石材などの音響インピーダンス(※17)の大きい硬質・重量素材で表装した壁面は反響音が強く、タイル剥離事故(※18)など耐震上も好ましくありません。
参※17)当サイト関連記事 第1節 音の反射と音響インピーダンスの関係はこちら。
※18、2018年の北大阪震災では、高槻芸術劇場で実際に「内壁タイル剥落」が発生し、休館に追い込まれている。
第1目 反響音の強度順素材持ち点
各フロア客席側壁表装材に対しては各素材間でー1㏈(※19)程度の初期反響緩和効果があるとみなし以下のリスト配点とします。
※19 デシベルをわかりやすく紹介したサイト はこちら
配点25点満点の素材は以下の種類
- ●縦格子(音響ネット)で表装した吸音壁
- ●難燃性の人造レザー張りの吸音材内装。(ホール入り口ドアのような設え)
- ●同じく、障子、襖(ふすま)、などの和装内壁仕上げによる2重壁。
素材基礎点22点の素材
表面形状による初期反響低減策をとった木質プレート&壁紙
- ※縦桟などで、グルービン加工を施して初期反響低減策を施した木質パネル。
- ※1間(1.8m)幅以下の細かいアンギュレーション(シワ処理)をした木質パネル
- ※1間(幅35㎝以上1.8m以下)の下見板張り(鎧張り)の木質壁面。
幅35㎝以上のパネルは音声帯域の反射に役立つは第3巻 第2節 35cm幅以上の帷子張り(下見板張り)の効果をご参照ください。
素材基礎点20点の素材は以下の種類
- ●1間(1.8m)幅以上の木質プレーンパネル(段差を設けた凹凸配置 を含む。)
- ※壁クロス、壁紙などの表面仕上げによる(一般建築用)石膏ボード(いわゆるホテルの宴会場仕様)
素材基礎点18点の素材は以下の種類
- ●アンギュレーション、※表面凹凸処理などを施した漆喰壁
- ●アンギュレーションを施した樹脂製混錬壁材
- ※凹凸処理をしたFRP製 人造壁材、アンギュレーションを施したアクリルエマルジョン仕上げのプラスターボード製
素材基礎点17点の素材は以下の種類
- ●FRP製 人造壁材
- ●プレーンなレジン製人造表装壁材(樹脂製混錬材)
- ※表面凹凸処理を施したレンガなどの軟質窯業製品
- ●プレーンな面形状のアクリルエマルジョン仕上げのプラスターボード製(※6)
- ●漆喰壁
素材基礎点16点の素材は以下の種類
- ●レンガなどの軟質窯業製品、
素材基礎点14点の素材は以下の種類
- ※表面凹凸処理をした硬質材(石材、打ち放しコンクリート面、人造大理石、タイル・陶器製など)
素材基礎点13点の素材は以下の種類
- ●プレーンな硬質材(石材、打ち放しコンクリート面、人造大理石、タイル・陶器製など)
※印は表面処理(形状)による初期反響低減策
表面処理もー1㏈程度の初期反響緩和効果があるとみなしプレーン・パネル使用の場合X1.122 倍とするすなわち1ランク上位の配点とする。
- グルービング処理を等の壁面の細かな凹凸
- 壁紙(樹脂製壁クロス含む)による表装
- ショットブラストなどによる表面凹凸処理
以下は除外
木質プレーンパネル(フラットパネル)を含む段差を設けた凹凸配置や1間(約1.82ⅿ)幅未満の細かなアンギュレーション(シワ模様)処理は音響拡散体(※7)と見做して初期反響軽減策としては認めない!
- 段付き壁面処理。
- 額縁で縁取ったフラット「ビクトリア調度」のパネル
音響障害エリア及び音響障害席数
(各フロアー大向う・テラスなどの)天井高さが不足しているばあいも音響障害席エリアとして査定し ー1点/1エリアを配点から減じて持ち点とし、障害席数をカウントします。
第2項 背後壁"の影響
第1目 メインフロアでの釣鐘現象障害
メインフロアでの、ホール後端背後壁の初期反響防止策について。
多層ホールを含む通常のホールでは1Fスロープ最後部(大向う)はステージ・ホリゾント反響板(背後反響板)と同じ高さで完全に対抗している場合がほとんどです。
※画像をクリックすると拡大できます。
図のように1階ホール最後列では、ステージからの"楽音"(直接音)と、背後壁からの反射音が"干渉"して、上図のように本来聞こえるべき音色(最上段の波形)と全く、異なる(最下段の波形)周波数特性が乱れたトランジェントの悪い音色(波形)(※22)になる釣鐘現象が生じます!
更に前途した側壁同様に、次項「定在波」の発生要因にもなっています!
そこで、壁面全体を吸音構造として、縦格子や有孔音響ボード、音響ネットで表装した"吸音壁"や。外反、スラントアンギュレーション(折り曲げ)設置で釣鐘現象を緩和します。
さらにいくら上手に対策してあっても、1.2m以上の間隔は必要で、「通路もしくは立見席」として座席を壁際まで詰め込むエリアではありません!
参※22)当サイト関連記事 『第2節 定在波音響障害とよく似た釣鐘現象 はこちら。
第2目 上層階の背後壁および「後背」の影響は無視する
※リスニングルームでの例クリックすると拡大できます
上層階などのステージ背後反響板上縁(orプロセニアム上縁)より高い位置にある背後壁については、
音源(奏者)から上反角(入射角)があり、直接音に対する反射音の影響(干渉)が"少ないので"音響障害"は無いものとして"減点対象からは除外します。
多層階およびアリーナ形式ホールににある後背付きのシートについて
多層バルコニー席などでよく見かける背の高い「後背」のような"転落防止柵"も
同じ理由で、減点対象からは除外します!
第3項 側壁初期反射音響障害
側壁は、「トランジェント(忠実度)の悪い"濁った音"」の原因の一つ"直接反射音(エコー)"の発生要素の一つとなります。
更に困ったことに犬・猫とは違い「"人"の耳は側頭部」にあり側方の音にも"敏感"です!
したがって通常は最低でも70cm以上の通路とするか壁面から椅子一席分(標準ホール椅子55cm)は開ける必要があります!
つまり、壁際に通路が無い壁際席シートは壁面表装に係らず音響障害席と見做します!
第4項 天井高さ不足音響障害
レビュー・ショー専用劇場や昔の映画館のように上層部フロアーのオーバーラップの大きいホール、つまり上層部のバルコニーがメインフロアーに大きく覆いかぶさっているデザインのホール(※旧フェスティバルホールなど)では天井が迫っているエリアが増え、天井からの初期反響で音像がボヤケたりします。
第1目 天井高さは最低2.5mは必要で、2.5m以下の部分を低天井障害エリアとします
各フロアー大向こう部の天井高さが2.5m以下と驚嘆に低い場合、同じく各テラス席の「軒高さ」が低い場合も含め各層(階)毎にそれぞれ配点からー1点/1ケ所を減じます。
更にエリア内の障害席数を減点対象としてカウントします。
※過去の実験?(経験)からも天井高さ2.27m、2.45m、2.49m、3.27m、3.95mとそれぞれ高さの異なる木質天井の部屋で通常の家庭用ソファーに腰かけて、ほぼ耳の高さ(約1m)にスピーカーをセットして(ハイファイヘッドフォンと)聴感比較実験を行って結果、天井からの反射波の影響は3mを越さないと気にならない程度までは無くならない(減衰しない)と確認できました!
しかし、通常のステージ側に向かってハノ字状に前方が開けた天井ならば2.5m以上空いていればほゞ気にならないでしょう。
第2目 前下がりの軒先では実際の空間厚さで査定します
前項で述べた通り、天井高さは(フロアー・テラス付け根で)最低2.5mは必要で、しかもダクト効果で共鳴や定在波や発生しないように、ホール軸方向断面形状(前方に向かて広がる)にも配慮する必要があります。
更に、2.5mは「天井高さ」ではなく「空間の厚さ」なので、ショー・レビュー劇場などにみられるようスロープと平行した前下がりの天井では、スロープ傾斜に相当した実質的な天井までの距離(客席スロープ法線の距離)が2.5m以上無いと障害が生じるので音響障害席とします。
第5項 算出法
前提条件 壁面素材持ち点
- ※音響障害席の有無にかかわらず側壁面の表装(素材)に応じて「持ち点」とします!
- ※床面を除く内壁表装に硬質材などの低得点表装の箇所が認められれば、その部分の持ち点を全体に当てはめます!。
音響障害エリア及び音響障害席数
メインフロアーの両側壁・大向う間際に通路が配置されていない場合は障害エリアと見做して -1点/1箇所を素材基礎点から減じて持ち点とします
評価点V=基礎点X(総席数ー障害実座席数)/総席数
基礎点B1=配点Dー障害発生エリア数
障害発生想定エリア1か所ごとに素材基礎点から1点を減じ持ち点とし前項同様に想定被害者数を引いた有効座席数の割合で評価する。
算定例
例えば、前前項の仮想、1フロア―のデジタヌホールで両側壁と大向うまで客席がびっしり詰め込まれ、座席がホール全体で34列X30番+端数席があったと仮定し、最悪の条件「石壁」で算定すると。
(12ー3)X(1024-98)/1024≠8点となる。(※小数点以下切り捨て)
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第2節「定在波」対策評価 配点50点
※本節は 第4巻 定在波と音響障害 を要約した構成としてあります。
ホールデザインで基本的かつ最も重要な項目として50点配点としました。
オーディエンス(観客・聴衆)の"健康被害"(※21)にも通ずる重要度から、個人的には、50点満点or0点の2者択一でも良いくらいであると考えていますが...、そうもいかないので、採点方法を考案してみました。
参※21)当サイト関連記事 第3節 ミステリーゾーンで起こる低周波振動健康被害!
第1項 前提条件
各フロアー面から高さ約1.8mの範囲の"壁面表装"および"天井"の設えで評価します。
第2項 配点50点満点の条件
間口・奥行き・高さ、定在波による「実音響障害席(※22)が生じていない」場合は50点満点とします。
- 別項の根絶策(※23)が講じられ、「出入口扉をむくむ」客席周辺の「全ての壁面・天井/床」に完全平行部分が無く、定在波が抑止されている場合は50点満点とする。
参※22)当サイト関連記事 第2章 定在波で起こる音響障害『ミステリーゾーン』
参※23)当サイト関連記事 第3章 ホールデザインの基本"定在波の根絶・阻止・駆逐" 法
第3項 間口方向定在波について
第1目 オーディトリアムの「平行側壁部分」の処理
シューボックスホールなどの長型オーディトリアムに於ける壁面・天井処理についての評価。
第2目 "定在波障害が無い"として評価する項目
- 大向うを含む壁面(orホリゾントステージ反響板)に大きな(15度以上の)スラント、ハノ字(台形部分)設置などの平行部キャンセル対策(※23)が施されていること。
第3目 間口方向定在波障害について
壁面が完全に並行する部分については、初期反響緩和策を講じてあっても定在波が生じていると判断して、配点50点からエリア点を減じて、持ち点として、以下の音響障害席に基ずいて評価します!
定在波の節・腹は時間変化と共に左右間口方向に時事一刻変動して全席に渡り音響傷害!を及ぼすので、全席障害エリアと見做します!
※但し、間口の1/20以下の柱・扉・表装枠(プロセニアム)などの平面部分は定在波が生じにくいとして除外します。(※25)
参※25)当サイト関連記事 第2節 反射面の幅 と反射波の周波数限界はこちら。
※クリックすると階大画像が見られます。
平土間部分
背後の、扇形段床(ハノ字段床)で守られていない席!全席を定在波音響障害席 とする。
※クリックすると拡大画像になります
完全並行対抗側壁の場合のスロープ部分の処理
「深い扇形段床スロープ」フロアーの場合
- (後列でスッポリ囲まれている)「深い扇形段床スロープ」(ハノ字段床を含む)においては、両端の席を定在波音響障害席としてカウントする。
- ハノ字段床スロープ最終段(大向こう部)の両側壁・大向こう壁面のコーナー面取り部分が最後列をカバーしている場合は実被害席は"0"査定とする。
ストレート段床フロアーの場合
ストレート段床部分については全席を定在波音響障害席としてカウントする。
第3項 奥行き方向定在波傷害
間口方向同様に、ホール後端壁(大向こう壁面)がステージホリゾント反響板と完全並行している場合は、大向壁面が音響グリッド・ネットで表層された吸音(遮音)壁になっている場合も含めてストレート段床の最後列を「定在波音響障害席」と見做す!
第1目 奥行き方向での満点条件『定在波音響障害回避策』としての評価項目
- スロープ客席であること。
第4項 高さ方向の定在波による『音響障害駆逐・回避策』
※水平天井を持つホールの平土間部分の減点について
「水平天井を持つホールの平土間部分」については該当エリアの「全席を音響障害席」と査定し、障害エリアは1点を減じる
高さ方向定在波による音響障害抑止・抑制策として認める項目
- 平土間上部(プロセニアム前面)にコーナー反響板が設置されている事。
- ステージ・&平土間(被り付き席部分)「上空にスラント(傾斜)設置された"反響板"」が設置されている事。
- ステージ・&平土間(被り付き席部分)の天井が大きなアンギュレーションが施された波状天井であること。
第5項 定在波抑制策とみなさない項目
以下は「音響拡散体」(※13)と見做し「定在波による音響障害回避策」としては評価しません!
- 段付き壁面処理も音響拡散処理と見做し定在波抑制策としては評価しません。
- 額縁で縁取ったプレーンパネル貼り付けの「ビクトリア朝」調度(※14)は音響拡散処理と見做し定在波抑制策としては評価しません。
- 小さなピッチの格天井(※15)は音響拡散処理と見做し定在波抑制策としては評価しません。
- 「剥き出し天井」(※8)は音響拡散体と見做して定在波抑制策としては評価しません。
算出法
評価点V=基礎点X(総席数ー障害実座席数)/総席数
基礎点B1=配点Dー障害発生エリア数
定在波音響実障害席
並行壁面(天井・床含む)で囲まれた全域をミステリーゾーン(定在波音響障害エリア)として、ゾーン内の全席を音響傷害席!とします。
例えば
完全平行壁面で構成された1024席のシューボックスホールと仮定して平土間部分に障害席が256席発生した場合
(50-1点)x(1024-256)/1024≠36点(小数点以下切り捨て)となります。
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第3節 「音響障害と客席配置」に対する総合評価:配点20点
※詳細は 『建築音響工学総覧 』第1巻 地方公共団体のホール計画はをご覧ください。
全席による影響
ステージ直近の平土間部分で起こりやすく、単に視覚的な見通し不良だけでなく、前席の観客の頭部で発生する「音場」の乱れで音響的にも問題が生じます。
解決策としては座席を千鳥配列にするのが有効で、多くの優良ホールで実施されています。
さらに、客席アレンジで各音響障害を緩和出来る場合もあり、前途した2節を総合した評価としました。
第1項 眺望障害による減点
平土間部分の見通し不良(眺望障害)
千鳥配列になっていない場合、1点/1箇所を配点基礎点から減じたうえで、障害席数をカウントし減点。
第1目 音響障害エリアによる持ち点減点
前項の障害エリアをあてはめます。
その1 定在波による音響障害
定在波の障害が発生している場合は各発生エリアにつき1点/1箇所を配点基礎点から減じたうえで、障害席数をカウントし減点。
その2 初期反響によるエリア減点
壁面による音響障害
壁面間際は「ホールの神様」すなわち「お客様」の通り道であり、音の通り道にしてはいけない。
具体的には側壁面と一席分(約50㎝の間隙又は巾70cm以上の通路とすること。
壁際、大向うに通路が無い場合はベース点からそれぞれ配点基礎点からー1点/1ケ所を配点基礎点から減じたうえで、障害席数をカウントし減点。
算出法
前項同様の条件をあてはめます。
- 「定在波による音響障害に相当するエリア」を減点対象とする
- メインフロアーは平土間部・スロープ部、サイドテラス(桟敷席)を夫々別として、上層階はバルコニー、左右サイドテラスを夫々1エリアとして見做すこととします。
- ワインヤード(アリーナ)形式については"各棚"を夫々別エリアと見做します。
持ち点=配点ー障害発生エリア数
評価点V=持ち点 X(総席数ー障害座席総数)/総席数
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第4節 「後期残響」への配慮評価点:配点上限5点
※本節は『建築音響工学総覧 』第5巻 残響、残凶?大便覧! を要約した構成としてあります。
後期残響付加は単なる最後のお化粧程度!謂わば「お化粧・特殊メイク」にしか過ぎません。
以下は「ホールのお化粧・特殊メイク」の手法を点数にしただけとお考え下さい。
第1項 前提条件(評価層)
客席・ステージ周囲のホール全面に渡る全壁面(両側壁・大向こう壁面・天井・ステージ反響板)の形状についての評価。
第2項 評価方法
いかに上げる音響拡散体(及び同等の要素)が付加されていれば上限5点の範囲内で1点/1アイテムで加算評価します。
第3項 壁面・天井への音響拡散処置(配置)に対する加点ポイント
ホール上層部は後期残響創出に適した箇所でもあります。
第1目 天井の設え
その1 古典的手法
- 側壁最上層部壁面;折り上げ天井、コーナーガセット(補強アングル)、
- 天井;格天井、ヴォールト天井、波状天井
- テラス軒先の整形;垂直面<スラント形状<ラウンド形状(この順番で効果が増える)
- テラス囲いの先端整形;上記に準ずる。
- 豪華なシャンデリア、壁面灯
その2 現代的な手法
- 天井:鱗状・段付き天井反響板、
- セグメント天井反響板。
- 小さなピッチの格天井
- グリッドとネットで表装した剥き出し天井
- 可動・可変プロセニアム(可動コーナー反響板)
- 「露出照明ブリッジ」
第2目 低層部を含む壁面処理
その1 古典的手法
- 額縁で縁取ったフラット「ビクトリア調度」のパネル
- 側壁付加物:装飾柱、装飾柱上部の装飾梁受け台(彫像など)、側壁装飾梁、レリーフ、彫像の付加
- 装飾テラス、装飾窓の付加
その2 現代的な手法
- 壁面アンギュレーション;
1間(約1.82ⅿ)幅未満の細かなアンギュレーション(シワ模様)を含む段付き壁面、帷子・鎧張り(下見板張り)処理 - (縦桟付加パネル含む)グルービングパネルを使用した壁面の細かな凹凸
- 音響拡散体(突起物、異形レリーフなどの付加)の設置。
- 縦格子を用いた2重壁(パーティション含む);
音響ロック壁(外壁)とオーディトリアムの間にホール内廊下を設け格子状のパーティションで区切る手法を含む。 - ホール上層部でアンギュレーション(折り曲げ)整形や最上層部で山形(Ⅴ地峡谷)整形された側壁、
- ホール側壁の「露出照明コラム」
- キャットウォーク、装飾テラス
- ...etc.
第4項 「疑似残響可変装置」の扱い
「疑似残響可変装置」は±0点扱いとして評価しません!
※但し本物の「残響付加機構」(※関連ホール記事はこちら)は1アイテムとして+1点の評価をします!
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第5節 仮想デジタヌホールにおける算出例と改善手法例
仮想デジタヌホールの場合
合計795席のツンツルテン壁小規模シューボックス2層ストレート段床の仮想デジタヌホールの場合。
幅14.5ⅿで側壁が石質壁,左右2通路として
- 1階席平土間3列 左右袖部分のみの2通路で6席+13席+6席+X21列525席、
- 2階席 同じく25席X10列250席、2層目サイドテラス席が内向き1列10席X2面=20席
§1 「初期反射」軽減対策評価;配点20点
石壁なので持ち点は13点、
壁面障害席が両袖と1階大向うで合わせて45席、2階がバルコニー両袖20席
天井障害が1階大向こうで25席
重複25席を除いて
(基礎点13ー2)X(795-65)/795≠10点(※小数点以下切り捨て)
§2 定在波対策評価;配点50点
定在波実被害席総数;795席全席
(基礎点50点ー4エリア)X0/795=0点!(※小数点以下切り捨て)
§3 「客席配置」に対する配慮評価;配点20点
座席配置で平土間部分4列とすると
平土間中央部眺望不良席2列目からの2列26席を加味した座席配列評価が
(基礎点20-5)X(795-795)/795=0点!(※小数点以下切り捨て)
§4 「後期残響」への配慮評価;配点上限5点
ツンツルテン壁+2階バルコニー・テラスなので お化粧点バルコニー・テラスの前縁で(後期残響)1点
合計11点!の粗悪ホールが
壁面を木質グルービングパネルのスラント設置∔3通路に改装すれば81点に
各列1席を減じて12席+12席の壁面3通路に改修すれば。
定員はー51の744人になりますが...
§1「初期反射」軽減対策評価
背後壁音響傷害&天井傷害が1F最後列24席
(基礎点22ー1)X(744-24)/744≠20点(※小数点以下切り捨て)
§2 定在波対策評価;
定在波実被害席総数;20席(サイドテラス)
(基礎点50点ー2エリア)X(744-20)/744≠46点!(※小数点以下切り捨て)
§3 「客席配置」に対する配慮評価
(基礎点20点ー4エリア)X(744-92)/744≠14点(※小数点以下切り捨て)
平土間左右ゾーンからの2列目を1席ずつ減じて千鳥配列742席とすれば83点に
客席配置評価が
(基礎点20点ー3エリア)X(742-44)/742≠16点(※小数点以下切り捨て)
1階大向こう席を撤去して定員722席とすれば 84点
更に1階大向こう席24席を撤去(又はスタッキングチェアー補助席に転換)して定員722席とすれば初期反射障害もなくなり、
初期反響が22点満点に
客席配置評価が
(基礎点20点ー2エリア)X(722-20)/722≠16点(※小数点以下切り捨て)
「客席配置」に対する配慮評価が
(基礎点20点ー3エリア)X(720-44)/720≠16点(※小数点以下切り捨て)
改修成功例の一部紹介
事実全国の多くのホールで同様の改修が行われ、改修前に比べ大幅に音響が改善しています!
- 1967年開館/2016年8月改修竣工 岡崎市・あおいほーる 改修後収容人員 1,100席、(※ホール音響Naviはこちら)
- 1968年開館/2012年改修竣工 奈良県文化会館 改修後収容人員1313席(※ホール音響Naviはこちら)
- 1971年開館/2009年改修竣工 小牧市市民会館 改修後収容人員1334席(※ホール音響Naviはこちら)
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エピローグ 「残響2秒以上」は都市伝説にすぎない!
1982年にザ・シンフォニーホール(※ホールナビはこちら)が誕生して以来、残凶時間2病異常!が良いホールの条件として もてはやされ、今や「都市伝説」とまで化しているようですがこれは根拠のない作り話です!(※99)
音響専門家の間で「優れたホールの基本条件」とされているのは「定在波障害と初期反響障害が無い」、「クリアーで定位の良い」「トランジェント」の優れた音響空間を創出しているホールの事です!
(奏者・聴衆双方に)「評判の良いホール」は本評価法を用いて採点しても高得点で、奏者・演者にだけ評判が良かったり、奏者からもそっぽを向かれているような「出来損ないホール?」は限りなく低得点となり、明確に差が表れて「客観的な良否」がより「如実に表わせる」のではないかと考えています。
読者諸氏も本稿を参考に「わが町の芸術ホール」の自己評価?をなさってみてはいかがでしょうか。
2018年8月1日 狸穴総研・音響研究室 主観 出路樽狸
公開:2017年9月22日
更新:2024年10月27日
投稿者:デジタヌ
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