残響 残凶?大便覧!『建築音響工学総覧 』第5巻
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前書き(要約) "後期残響2秒以上"信仰?
仕組まれた"都市伝説"『音の良いホールの条件 残響時間2秒以上 信奉』を史実をもとに、仕組まれた経緯と脳科学・音響工学両面から一刀両断に!
音の良いホールの条件といわれている「残凶2秒異常信仰?」を、1982年ザシンフォニーホール建設にかかわった関係者の証言を交えて論理的に否定するコラムです。
都市伝説誕生の裏には当時のホールオーナー関西系某放送局社長の傲慢ともいえる「演奏家・音楽家を見下した」思い上がった自己主張・個人的趣味の押し付けが隠されていたようです。
理工系出身の自治体施設課・建築課の担当者に捧げる「失敗しない・ホール計画の手引き」講座 第5回
第5巻 残響、残凶?大便覧! の目次
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★序章 都市伝説「音の良いホール の条件 残響時間2秒以上 」 は本当か?
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※ご注意;
- (※XX)は当サイト内の詳細記事リンクです。
- 但し、 その他のリンクは団体・関連団体の公式サイト若しくはWikipedia等のWEB辞典へリンクされています。
ホールの音響を喧伝・自賛(※1)する際に「残響時間2秒以上」となどと金科玉条の如く掲げられることが多いようですが...。
「残響時間2秒以上」は根拠に乏しい数値!
「残響時間2秒以上"」は一人の「マスコミ関係者が言い始めた根拠に乏しい数値にしかすぎません!
嘗て、1980年代に「視察団」を率いて渡欧した某在阪ラジオ局の「当時の社長」が「強く主張し」ホール完成後に大キャンペーンを行って「捏造した都市伝説」(※2)です、当時も今も「心良しとしない演奏家」は沢山います!
※2「ザシンフォニーホール誕生裏話」に関連する「日本音響学会誌」(2011年67巻2号)への寄稿記事はこちら。(P94最後部からP95にかけての数行参照)
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★第1章 「エコー」と「後期残響」は別物
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★第1節 初期反射と後期残響
残響(※3)とはステージから届く直接音が壁天井などで反射して届く初期反射(エコー)と、反射面で散乱・拡散したエコーが内壁・天井などで複雑にさん反射・散乱を繰り返して聴取位置に届く後期残響で構成されています。
エコー(初期反射)とは
山彦に代表されるいわゆるエコーは壁面間を往復し僅かな時間差※を付けたいわば「レプリカ音」で、余り繰り替えされると不快感を伴います。
※ 20mの壁面間では室温28℃の時の音速C=348.6m/secなので各壁面間を約0.115秒で往復する、つまり約0.115秒毎に楽音とほぼ同じレプリカ音が繰り返されエコー(初期反射)となる。
カラオケなどで使われる人工的な「エコー」は電気的なディレー回路(※4)を用いて原音に付加する仕組みとなっています。
※4、ディレイ (音響機器)に関するについてのWikipediaの解説はこちら。
後期残響は音の拡散(散乱反射)によって生まれる
後期残響と呼ばれる残響は、エコーがホール中上層部側壁の「突起部」などの「音響拡散体」によって生じた乱反射が、天井や上層部壁面で「複雑な経路」を経て反射を繰り返した音で、
生楽器の音色(周波数分布;周波数スペクトル(※5))とは異なった周波数分布を持つ複雑な波形をしている「響き」として残る「余韻」のことです。
主にホール最上層部で屈曲し凸出した側壁や装飾柱、装飾梁、テラス(ダミーを含む)、装飾窓、これら内装表面での乱反射(散乱)と多重反射で心地よい「後期残響;余韻」が生まれます。
※5、周波数スペクトルについてのWikipedia解説はこちら。
後期残響はホールにとっていわば最後の「お化粧」程度のもの!
初期反射音は初期反響・過多が引き起こす"平衡感覚障害"で詳述した通り、放置すると重大な音響障害を伴いますが、適度な後期残響は「心地よい余韻」のシャワーとなってホール上層部から、客席に降り注ぎます!
但し「過ぎたるは及ばざるのごとし」の最たるもので、定在波の"音響傷害"(※6)や初期反響障害(※7)のない「上品で端正な素顔」に適度な薄化粧(音響拡散体)を施し、そこはかとないほのかな香り(後期残響=余韻)を醸し出すのがベストで、素性の悪いホールにいくら厚化粧(てんこ盛りの音響拡散体)を施しても、決して美人(銘ホール)にはなりません!
1982年にザ・シンフォニーホール(※ガイド記事こちら)が登場して以来一つの都市伝説として「良いホールの条件"残響2秒以上」が生まれ、カラオケ文化とも相まって、たちまち日本国中を席巻してしまいましたが...
おかげで、エコーさえかかっていれば、「定在波も初期反射」もどうでもよいとばかりに、とんでもないホールが国中に繁茂してしまったのも事実です!
なんと嘆かわしいことでしょうか!、故・佐藤武夫先生も彼の世で随分とお嘆きのことでしょう。
※6、 第2章 定在波で起こる音響障害『ミステリーゾーン』はこちら。
※7、「過剰な残凶?」で起こる音響障害『ホール酔い 現象 とは?』はこちら。
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★第2節 残響時間とは
後期残響が続く時間(鳴り止むまで)を残響時間(※9)と言います。
現在用いられている測定法(RT-60法)では
後期残響が直接音に対して、 60 dB 減衰するまでの時間を残響時間と呼ぶ。残響時間は、家庭などの小さな部屋では0.5秒程度、音楽用ホールでは数秒程度である。<Wikipediaより引用>
※9、RT60残響時間測定法についての(株)エー・アール・アイさんの解説はこちら。
人間の聴覚のすごさ
おおむね人間の聴覚のダイナミックレンジは120dBdB(デシベル※8)程度はあります、つまり聴覚限界の1,000,000倍の音まで、聞き分け(耐え)られます!
当節のハイレゾ録音機材で記録できるかどうかの限界値です。
※8 デシベルをわかりやすく紹介したサイト はこちら
明らかに静寂とは言い難い!値;-60dB
-60dBとはオーケストラの鳴り物(バスドラム、などの打楽器)付きのff(フォルテッシモ;騒音絶対値にして約110dB)が鳴り止んでから、静かな室内程度になった状態であり完全に鳴り止んでいるとはいえない状態です!
この状態ではまだ「となりの人の吐息(といき)」より30倍(+30デシベル)大きな響き?です。
これでは明らかに静寂とは言い難い!状態です。
つまり最低でも-60dB+-30dB=-90dBの値にならないと、響きが消えたとは言い難く、
『-60dBと言う数値は、基準を決めた当時の測定器の能力限界で決まってしまった数値なのす!』
音はそう簡単に小さくはならない
「山彦」でもお判りの様に、音(エコー)は以外と小さく(減衰)なりません。
「山彦の正体」は実は対岸の峰では無く中腹同士:つまり貴方が叫んだ正面の峰の斜面と貴方の立っている峰の中腹を往復するエコーで、以外と「はっきりと聞こえてくる」訳です。
2回目以降はU字渓谷でも無い限りは拡散(木立などで散乱減衰)してしまい小さくなっていいくわけです。
つまりエコールーム(※7)の設計でもない限り「RT60残響測定法」で図った時間はあまり意味の無い数値と言っても過言ではありません!
事実、「音の鉄人」YAMAHAさんでは音の善し悪しの尺度としてではなく「数ある音響測定値・分析値・パラメーター」の1つ程度にしか考えていなません。(※10)
長すぎる残響時間の弊害!
極端にデッドな空間と言わなくても、余分な響きは『-90db(実数3万分の1)』程度まで無くならないとないと静寂感は出ません!
つまり 『音楽では休止符やゼネラルパウゼ(全休符)』に相当し、『演劇・話芸ではセリフの間』に当たる部分です。
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★第3節 良いホールとは「違いの分かるホール」でなければならない!
お判りいただけたと思いますが、「心地よい韻(ひびき)」と前途のJISで規定された-60db残響時間測定とはあまり因果関係がありません!
小生がデッドであるはずの「芝居小屋や演芸場」「野音」をオススメするのはその為です。
「滑舌がはっきり聞こえる」と言うことは「音色の変化」が聞き分けられる事に繋がり。
ピアノの「メーカーの違い」「微妙なタッチの差」、バイオリンの「ボーイングの妙」などが聞き分けられると言うことに繋がります。
良いホールとは「違いの分かるホール」でなければならないのです!
作曲家の池辺真一郎氏の体験談
作曲家の池辺真一郎さんの体験談として、若かりし頃に指揮者の故・岩城 宏之氏の演奏旅行に同行した時の逸話が残されています。
ある日、前日と同じ「プログラム」なのに、「前日と全く異なったテンポで演奏された」そうです、そこで終演後恐る恐るお伺いを立ててみたら...。
「昨日はデッドなホールだったので"早め"に、今日は響き豊かなホールだったので、"遅め"のテンポにした!」と仰ったそうです。
つまり音楽にとっては「静寂がいかに大切な要素」であるかを示す例です。
エコー過多は実被害にもつながる
以上述べた以外にも、シューボックスホール等の「正多角形ホール」や「石壁・タイル張りのホール」等の初期反響(エコー)がいつまでも続くホールでは定在波による音響障害ミステリーゾーン(※6)があったり「ホール酔い」(※7)で気分が悪くなったりする実害も生じます!
※6、 第2章 定在波で起こる音響障害『ミステリーゾーン』はこちら。
参※7)第3巻 第1節視覚情報と聴覚情報の不一致による平衡感覚障害「ホール酔い」参照。
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公開:2017年9月19日
更新:2022年6月10日
投稿者:デジタヌ
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