狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

まつもと市民芸術館 《ホール音響Navi》 

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国内屈指の設備を誇る「オペラハウス」

国内屈指の設備を誇る「オペラハウス」としてセイジ・オザワ 松本フェスティバルの行事の1つ「小澤征爾音楽塾オーケストラ」によるOMFオペラ ラヴェル:「子どもと魔法」の上演など本格的オペラハウスに相応しい公演も行っている。

「オペラへの誘い」シリーズ「日本のオペラハウス」第4回

※ご注意;以下※印は当サイト内の関連記事リンクです。
但し、その他のリンクは施設運営者・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

まつもと市民芸術館のあらまし

Official Website https://www.mpac.jp/

長野市に次ぎ県内2番目の教育・文化都市松本市ご自慢の「本格的オペラハウス」。

「信州のカラクリ小屋」の異名を持つ1800名収容のオペラハウスと

288席のワンボックス型多目的小ホール、リハーサル室などを持つ舞台総合芸術センター。

もちろんオペラ公演も行われ

セイジ・オザワ 松本フェスティバルの一貫として小澤征爾音楽塾オーケストラによるOMFオペラ の上演など本格的オペラハウスに相応しい公演も行っている。

まつもと市民芸術館のロケーション

所在地  長野県松本市

まつもと市民芸術館へのアクセス

最寄りの駅 JR中央線・篠ノ井線 松本駅より徒歩10分

"まつもと市民芸術館"の施設データ

  1. 所属施設/所有者 まつもと市民芸術館/松本市。
  2. 指定管理者/運営団体 一般財団法人松本市芸術文化振興財団/松本市。
  3. 開館   2004年

付属施設・その他

  • 付属施設 スタジオ(リハーサル室)x4、会議室x、研修室x、レストラン、メインロビー。
  1. 施設利用(利用料金等)案内 詳しくはこちら

大ホールの音響

(公式施設ガイドはこちら)

「信州のカラクリ小屋」の異名を持つオペラハウス。

とにかく思いつく限り?の趣向(※1)を凝らした施設である。

※1、現代の3大迷発明!「珍妙からくり(残響調整装置、可変段床設備、可変吊り天井)」に関する記事はこちら。

フロアー構成

1口で言えば4スロープ、4フロアー5層!の馬蹄形のフロアー形状をしたオペラハウス形式の多目的ホールということになる。

1階メインフロアー

最前列から5列目までが「千鳥配列」座席のオーケストラピット可動床部分で、このうち4列目「1-4列」までが平土間となている。

5列目からは緩やかな段床となっており、いずれも「扇形座席配列」となっている。

さらに3列目にあたる部分から中央通路までの前半の両サイド側壁に沿って8席の「高床テラス」3が設けられている。

サイドテラス

馬蹄形フロアーの周囲に、オペラハウス風に4層(5層)のテラス席がめぐらされている。

メインフロアーの後半1-25列部分から両翼前方にテラスが回り込んで1階?(中2階)テラス席となっている。

2・3・4階テラス席も同様に各バルコニー両翼がホール両翼前方に回り込んやや下り傾斜でテラス席を形成しており、いずれもサイドテラス部分の座席は1列で前(ステージ)向きに配置されている。

1階(中2階)サイドテラスと2階サイドテラスの舞台より最前部は流行のむき出しの照明コラムが配置されている。

壁面構成と定在波対策対策

前途したように、「リアル馬蹄形!」のフロアー形状なので、「逆ハの字」形状に開いたサイドテラス側壁部分、Ω形状の後部バルコニー部背後壁も含め、対抗する平行面は基本的に無い形状だが、コーナーのR部分内側への「凹面音響収束」を避ける為?にいずれのフロアーの壁面も「アンギュレーション」を持たせた大きなうねりの波状木質パネルで表装されている。

大向こうΩ形状部壁面

大向こう背後壁面は1階の調光・映写・音響調整各ルーム、2階親子室前面のガラス窓部を除き、竪桟を用いたグルービングパネル(※2)で表装されているが、1階中央映写室の前面はプレーンな垂直壁面になっている。

さらに十分な段差(約2列分)を持つ「扇形段床」(※3)と合わせ、可聴周波数域での定在波の発生(※4)及びその障害(※5)を駆逐?している。

※2、グルービングパネルについては『ホールデザインのセオリー その2 初期反響軽減策』をご覧ください。

※3、定在波対策については『ホールデザインのセオリー その1 定在波対策 』こちらをご覧ください

※4-1、定在波の悪影響に関する一般人向けnatuch音響さんの解説記事はこちら

※4-2、定在波に関するWikipediaの(技術者向け)解説はこちら。

※5、関連記事『ホールに潜む ミステリー ゾーン (スポット)とは?』はこちら。

可動プロセニアム?

公式ガイドでは高さ15mの固定プロセニアムのような表現になっているが...、プロセニアムは2段構えの多層で、プロセニアム裏側に、上下可動する音響シャッターが設けられ、さらに前面には「釣り天井」と一体になった「プロセニアム下部」ま回り込む木製の大型コーナー反響版が覆っており、この部分がステージ上8.55m~14.17mで変化する実質的なプロセニアム高さとなる。

特殊な釣り天井

天井中央部分は、下面を木質反響版で覆った(嘗ての松竹時代劇に度々登場したような?)「釣り天井」となっており、同じく下面を木質反響版で覆った照明ブリッジが3か所に配されている。

プレーンなステージ反響版

ステージ反響版は通常のプロセニアムと密着しない?タイプではあるが、奥行きの浅いプレーンな形状の「バルクヘッド(隔壁)」タイプ」となっている。

高さ約12mで上部の幅約1mの部分が前方に折れ曲がり蓋?(上部反響版)となる構造。

つまり、前項の1階最後列映写室壁面直前6席(1-29列21~26番席)とは完全に平行しており前後軸上に波長約33.5m周波数換算約10Hz、(2階部分は27~32番席6席)

3階バルコニーは可動プロセニアム?(音響シャッター)との間隔約31m約11Hzの重低音(可聴外低周波振動)の定在波の節目に当たり、低音がすっぽ抜ける「ミステリースポット」(※5)が生じている。

尚、4階バルコニー席はプロセニアム前面のコーナー反響版で平行をキャンセルし定在波は発生しない!

オペラハウスとしては特異な舞台配置

2004年に本格的な4面舞台を備えた馬蹄形客席を持つ「オペラハウス」として誕生したが、その4面舞台が得意な配置となっている。

通常客席から眺めて主舞台を中心に凸状に上手袖舞台・下手袖舞台・奥舞台と並んでいるが、このホールでは「田の字」状に4面が配置され、次項に示すように奥舞台にはロールバック客席収納装置も用意され実験劇場としても利用できる。

実験演劇対応

後方舞台にロールバック式客席(360席)設備がありm3面ステージを持つ実験劇場として使用可能になっている。

演劇用中ホール仕様

天井全体が上下する昇降天井装置(※1)により3・4層未使用の中ホール(1,367席)として利用出来る。、

重量級の可動反響隔壁(バルクヘッド)を用いオープンステージタイプ・コンサートホールに

重量級の可動隔壁、とエプロンステージ(昇降式オーケストラピット床)を用いて、1633席のオープンステージコンサートホールとしても使用可能。

総評

よく(欲?)考えられた多目的(に利用しずらい)ホールである!。

横浜みなとみらいホール (※ホール音響Naviはこちら) 同様に、クライアント(施主;松本市)が欲張りすぎたようである?

とにかく音楽を鑑賞する環境にしては、2階以上のバルコニーの軒先が低すぎる!(拙者宅では天井まで最後部約4m、付け根でも3.6mある※6)。

最低でも1階大向こう部分同様の天井高さ(約3m)は確保すべき(※7)で、これでは天井(上部テラス軒)までの高さが極端に不足しており、直接音と天井からの初期反射波(※8)の干渉の影響で周波数特性が乱れ「非常に聞き取りにくい」状況が生じている可能性が大である。

※6 我が庵のエントランスホールはこちら。

※7、関連記事「音の良いホールの条件とは」はこちら。

※8、直接音、初期反射音、残響音についての(株)エー・アール・アイさんの解説はこちら。

繰り言を言っても...

過ぎ去った過去をどうのこうのいっても、「お金(建設費)も時間(利用率)」も取り戻せないが、仮に、ばかげた「からくりに」巨費を投じなければ、同じ予算内で、道具迫りだけでなく、各種迫りや、回り盆付きのスライディングステージ、を完備した、鳥屋セットをつけた「すっぽん迫付き本花道」など、の設備を備えた「本格的な舞台芸術センター」になっていたであろう!

今後の改修に期待?

何といっても作ってしまったものは、耐用年数から考えても今後まだ数十年は使用しないと償却できないわけで、15年(2019年現在)を経過した節目として、以下の改修をご提案申し上げる。

他の同様の全国の公共ホールに比べ、「からくり」が利用しやすい料金体系となっているが...。

1)この際耐震性の面からも「可動式釣り天井機構」は使用停止とし、通常の天井固定タイプに改修する!

2)甚だ年間利用率が悪い奥舞台の「ロールバックシステム」は撤去する!

3)「ノッペラボウ」のステージ反響板(&サイド反響版)は撤去したロールバックシステム格納場所を保管場所に転用するなどして自走式の重量級の最新デザインの「アンギュレーション」を持たせたプロセニアム密着タイプに換装して、現状の反響版は上部反響版に換装して大幅に上下方向の高さを変更する。(現状11m→14.7m)

以上の改修で、定在波障害は駆逐できる!

さらに1・2・3・4階大向こうの座席は可動席に改修し、通常は通路として使用し必要に応じて補助席として使用する。

ホール音響評価点:得点75点/100点満点中

※以下は、音響反射板・エプロンステージを用いた、1,633席のコンサートホールとしての評価

§1 定在波」対策評価;得点46点/配点50点
  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価する。
  • ※客席側壁が ホール床面積(or総客席数)の1/3以上に及ぶ範囲を「完全平行な垂直平面壁」で挟まれているときは 基礎点25点に減ずる。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§2 残響その1 「初期反射」軽減対策評価;得点13点/配点25点
  • 木質パネル等の素材基礎点25点から硬質壁材基礎点12点の間5段階で素材基礎点を与える。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて基礎点とする。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§3 「音響障害と客席配置」に対する配慮評価;得点11点/配点20点
  • ※壁際通路&大向こう通路の有無、天井高さ&バルコニー・テラス部の軒先高さ、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で配点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§4 残響その2「後期残響」への配慮評価得点5点/配点上限5
  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価。
  • ※上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

算出に用いた値;

※音響評価ポイント詳細は「"ホール音響ナビ"に用いた用いた評価法とは」をご参照ください。

定在波評価

※障害発生エリア席数が収容人員の1/3 以下なので基礎点50点とした。

基礎点B1=基礎点50点ー障害発生エリア数3=47点

定在波障害顕著席数;

定在波「節」部席;17席(6席/1階最後列中央部座席1-29列21~26番席、6席/2階中央部最後列座席2-4列27~32番席、5席/3階中央部最後列座席3-4列27~31番席)

定在波「腹」部席;0席

重複カウント ;ー0席

定在波障害顕著席総計;17席

初期反射対策評価

※障害発生エリア壁面材質が木質グルービング材なので素材基礎点25点とした。

基礎点B2=素材基礎点25点ー障害発生エリア数6=19点

初期反射障害1 壁面障害席 ;113席(16席/1階OR・OL列1番~8番全席、30席/1階1-29列14番~43番全席、34席/2階2-4列13番~46番全席、33席/3階3-4列13番~46番全席)

初期反射障害2 天井高さ不足席;431席(30席/1階1-29列14番~43番全席、148席/2階2-2~2-4列1番~58番全席、144席/3階3-2~3-4列1番~58番全席、109席/4階4-2~4-3列2番~57番全席)

重複カウント ;ー97席

音響障害席総計;447席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数6=14点

眺望不良席数;0席

音響不良席その1 定在波障害顕著席 ;17席

音響不良席その2 初期反射障害1壁面障害席 ;113

音響不良席その3 初期反射障害2 天井高さ不足席;431席

重複カウント ;ー114席

音響障害席総計;447席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

大ホールの施設データ

  1. ホール様式 『馬蹄形』プロセニアム型式多目的ホール。
  2. 客席   4フロアー 1800名/1,633席(エプロンステージorオーケストラピット使用時)(2層フロアーとして使用時(1,367席)親子室、1・2・3・4階テラス席、可動床、
  3. 舞台設備 

    すのこ高さ舞台面より27m
    主舞台(プロセニアム)間口16.2m、主舞台奥行23.5m、プロセニアム高さ公称;15m()8.55から14.17m可変

    可動反響版、オーケストラ迫、道具迫、移動子迫、後舞台ロールバック観客席(360席)
  4. その他の設備 、楽屋x13、ビュッフェ、ラウンジ、

まつもと市民芸術館がお得意のジャンル

主ホール

オペラは勿論、オーケストラコンサート、バレエ、Jポップ関係のコンサートやミュージカル、往年のアイドル・エンタテイナーのワンマンショウ、歌謡ショー、有名タレントの座長ショー、現代演劇、伝統芸能、落語・演芸寄席までジャンルに拘らない幅広い演目でこのエリアの多くの人達に受けいれられている。

またプロ団体、以外にも数多くのアマチュア団体が利用している。

まつもと市民芸術館の公演チケット情報

主ホールで催されるコンサート情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら

小ホールの音響

公式施設ガイドはこちら

3階吹き抜け相当の高い天井と、穏やかなスロープの1階フロアーと2階両側壁部に張り巡らせたテラス席を持つボックス型オープンステージのホール。

1階フロアーの両側・背面の壁は染色ハードメープル板に不等間隔に配置した立て方向桟で表装してある。

ステージと2階テラス周辺は塗装した打放しコンクリート壁+吸音カーテンの設え。

天井はホール本体天井をそのままむき出しにし、照明設備台を兼ねた「作業簀の子」を目の字型に巡らせて、「音響拡散体」も兼ねてある。

壁面をスラントさせて有るわけでもないが、2階テラスは高床式の桟敷構造なので、下層部に当たる1階周辺の台座部分が壁面となっており、垂直でプレーンな壁面構成には定在波対策は講じられていない!

音響的には「多少の癖のある響き」のホールではあるが、演劇・演芸公演が主目的なので、その限りにおいては問題は無い音響である。

小ホールの施設データ


ホール様式 オープンステージ多目的ホール。
客席   162.3m2(客席部)、1フロアー 288席(うちバルコニー席 48席)
舞台設備 オープンステージ形式 ブドウ棚(すのこ)114.4m2(舞台部)、8.25m(すのこ高)、
その他の設備 、楽屋x4、スタッフ室

小ホールお得意のジャンル

主にセミナー、講演会、市民団体の集会、お稽古事の発表会などに用いられ、プロの小編成バンドのコンサートや落語・演芸寄席などジャンルに拘らないバラエティーに富んだ催しが行われている。

小ホールで催されるコンサート情報

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その他の付属施設の音響

オープンスタジオ

公式施設ガイドはこちら

384m2(18.6m×19.5m約232畳)有効天井高 4.8m2階吹き抜け相当の天井高さをもつ本格的リハーサル室。

主ホールの舞台とほぼ同サイズのリハーサルスタジオです。集会や大会のための会議室、公演後のレセプションルームなどにも利用できます。<公式サイトより引用>

スタジオ2

公式施設ガイドはこちら

185m2(10.8m×14.3~16.3m約110畳)天井有効高さ3.7mの中規模リハーサルスタジオ。

豆知識

 

公開:2017年8月 9日
更新:2022年9月30日

投稿者:デジタヌ


TOPキッセイ文化ホール/長野県松本文化会館 《ホール音響Navi》


 

 

 



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