狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

横浜市中区公会堂/横浜市開港記念会館《ホール音響Navi》

,

横浜市中区公会堂 のあらまし

歴史的建造物として国の重要文化財に指定されている建造物で現役の「中区公会堂」としても使われている「活きた文化財」。

講堂を備えた公会堂形式の建物で、講堂の他に1~9号までの大小さまざまな集会施設(会議場)を備えている。

横浜市中区公会堂 のロケーション

ところ  横浜市中区本町1丁目6

横浜市役所、横浜地方裁判所、中区区役所などがある、横浜中心部の官庁街にある。

近くには横浜スタジアム、みなとみらい地区、中華街などの横浜名所も多数控えている。

横浜市中区公会堂 へのアクセス
鉄道・バスなどの公共交通
もよりの駅

JR京浜東北線・根岸線「関内駅」南口から徒歩約10分(700m)

市営地下鉄線「関内駅」1番出口から徒歩約10分(700m)

みなとみらい線「日本大通り駅」1番出口から徒歩約1分(50m)

バス停

「本町1丁目」から徒歩約1分(50m)

「日本大通り駅・県庁前」から徒歩約3分(200m)

「開港記念会館前」から徒歩約1分(10m) ※朝・夕のみの運行

マイカー利用の場合

関係者以外・部外者の駐車はお断りしています!公共交通機関をご利用ください!

音響デザイン面から眺めた横浜市中区公会堂

※ご注意;以下※印は当サイト内の関連記事リンクです。
但し、その他のリンクは施設運営者・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

(公式施設ガイドはこちら。

講堂

(公式施設ガイドはこちら。)

2フロアーの公会堂

プロセニアㇺステージを持つ、平土間のメインフロアーと、左右両翼から前方に伸びたサイドテラス席を持つ段床配列の2階バルコニー席で構成されている2層構造の講堂。

随所に配置された音響拡散体?

当時は勿論、残響の概念(※1)などは知られておらず、見よう見まねで西洋建築の資料(スケッチ、写真?)などを参考に模倣したのであろうが、露出した柱&アーチ梁、丁寧にコーナー処理をしたアーチ天井、シャンデリア風の照明器具、天井要所のダミー照明台座、2階バルコニー席前縁処理、同じく前縁の照明器具、ビクトリア調度の壁面、サイドプロセニアム両側壁面上に配置された突出した時計、2階バルコニーを支える装飾を施したエンタシス形状の柱、...等々、数え切れない程の音響拡散体(※2)と、丁寧な設えが随所に施されている。

客室側壁

客席周囲の壁面は、低層部がカーテン付きの「明り取りの窓」と背の高さまでの部分がビクトリア朝の縁取りのある木質パネルで表装されている。

メインフロアー上部とホール上層部は漆喰で表装された兼松講堂同様のテラコッタ仕上げ。

天井

柱と共にホール内に突出したアーチ梁がアーチ天井を支えるデザイン。

シャンデリア風の照明器具がつるされている外にも、要所にお椀状?のセードを持つダミー照明台座が設えられている。

プロセニアム

装飾を施した丁寧な設えのU字型のプロセニアムが際前方の露出した柱・梁と一体化して設えられ、「段付きの2重プロセニアㇺ」を形造っている。

舞台設備

公演、演説が主用途の講堂であるために、猫の額ほどの狭さではあるが、ピアノリサイタル、アンサンブル団体のコンサートにはジャストフィットサイズのステージが設えられている。

総評

音楽ホールのセオリー(※3)が確立していない時期に、乏しい海外の資料を元にこれだけの素晴らしいホールをデザインされた3名のデザイナーには頭が下がる思いである。

現存する「活きた重要文化財(公民館)」の中ではおそらく一番の音響であると思われる。

1880年完成 豊平館/札幌市 (※ホールNaviはこちら)

1987年完成 旧東京音楽学校奏楽堂(※ホールNaviはこちら)

1916年完成 文翔館/山形市(※ホールNaviはこちら) 

(1917年完成 当館)

1918年完成 大阪市中央公会堂 (※ホールNaviはこちら)

1927年完成「兼松講堂」(※ホールNaviはこちら)

1927年竣工「大隈講堂」(※ホールNaviはこちら)

定在波評価について

1917年開館とお年を召していらっしゃるし、近代建築音響学の「生きた教科書」となった大隈講堂の10年も前に当たるので、基礎点については50点のままに据え置き定在波障害席数も"0"席査定とした。

但し障害エリア減点はメインフロアーの下手袖エリア、中央エリア、上手袖エリアの3か所3点を減じた。

想定定在波
  • 間口約19.8m;約17.6Hz/1λ、約26.4Hz/1.5λ、約35Hz/2λ、約44Hz/2.5λ、約52.8Hz/3λ、
  • 1F最大奥行き約25.4m;約13.7Hz/1λ、※備え付けの音響反射壁がハの字形状でコンサート時には前面に音響カーテンが設えられるので高次の可聴域内重低音定在波は抑制されているとして評価外とした。
  • 天井高さ約8.5m;約41Hz/1λ、※天井はドーム形状なので平土間部分とは平行していないので音響障害は生じていない?として評価対象外とした。

赤字は可聴音域内重低音。

ホール音響評価点:得点82点/100点満点中

※ホール標準座席配列 収容人員481席、として算定。

§1 定在波」対策評価;得点47点/配点50点
  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価する。
  • ※平行側壁部分で壁面がスラント設置されていない「完全平行部分」と「平土間部分」の処理において、
    「音響障害回避策」が3つ以上講じられていない場合は基礎点を配点50点満点x0.5=25点満点に減じます。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§2 残響その1 「初期反射」軽減対策評価;得点19点/配点25点
  • ※木質パネル等の素材基礎点25点から硬質壁材基礎点13点の間6段階で素材基礎点を与える。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§3 「音響障害と客席配置」に対する配慮評価;得点11点/配点20点
  • ※壁際通路&大向こう通路の有無、天井高さ&バルコニー・テラス部の軒先高さ、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で配点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§4 残響その2「後期残響」への配慮評価;得点5点/配点上限5
  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価。
  • ※上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

算出に用いた値;

※固定席+車椅子スペース=421席で評価

※関連記事 「ホール音響評価法についての提案」はこちら

定在波評価

※凹凸のある壁面なので基礎点50点とした。

基礎点B1=基礎点50点ー障害発生エリア数3=47点

定在波障害顕著席数;0?席

重複カウント ;ー0?席

定在波障害顕著席総計;0?席

初期反射対策評価

※壁面材質が表面凹凸加工の木質プレートなので素材基礎点25点とした。

基礎点B2=素材基礎点25点ー障害発生エリア数1=24点

初期反射障害1 壁面障害席 ;0席

初期反射障害2 天井高さ不足席;74席/1階L~O列全席

重複カウント ;ー0席

音響障害席総計;74席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数3=17点

眺望不良席数;156席/1階平土間中央部座席B~O列全席

音響不良席その1 定在波障害顕著席 ;0?席

音響不良席その2 初期反射障害1壁面障害席 ;0席

音響不良席その3 初期反射障害2 天井高さ不足席;74席

重複カウント ;ー74席

音響障害席総計;156席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

1&6号会議室

(公式施設ガイドはこちら。)

平土間講堂

4.75mとほぼ2階吹き抜け相当の高い天井高をもつ平土間パーケット床の立派な施設。

客室側壁

6・7・8・9号室同様に国会議事堂にも通ずる「ビクトリア調度」の丁寧な設えの壁面を持つ。

客室設備

6号室とともに133.2㎡の広さがあり、110名を収容できる。良質ともにスクリーン、美術バトンが装備されており、特に1号室窓には「暗幕カーテン」の設備が施されている。

丁寧な設えの天井

1号会議室は、近・現代ホールにも通ずる格天井(※4)を採用し、講堂同様に、シャンデリア風の照明器具がつるされている。

凹凸面で構成された側壁

窓も含め、至る所「装飾額縁」が施されたパネルで表装された壁面は勿論近現代手法の「スラント」「アンギュレーション」処理は見られないが、細かな凹凸で構成されており、定在波(※5)の発生は少ない。

ルーム音響評価点:90点

※会議室、がメイン用途のためルーム音響評価を適用しました。

§1「定在波対策」評価点:45点/50点満点
  • ※ルーム低層部に1対以上の並行したプレーンな垂直壁がある場合は、満点x0.5=25点をベースに減点算出。
§2「初期反射」対策評価点:45点/50点満点
  • ※ルーム低層部3面以上がプレーンな垂直壁の場合は、満点x0.5=25点をベースに減点算出。
総評
優れた音響空間

前途した数々の設えで極めえ良好なサロン音響環境であるが...。

残念なことに、音楽利用は用途外に当たり、基本的に音楽団体のコンサート利用は出来ない!

コーラス練習や、弦楽アンサンブル、木管アンサンブルに限り利用を認めていただきたいような立派な「サロン」空間である。

横浜市中区公会堂 がお得意のジャンル

講堂

主にセミナー、講演会、市民団体の集会、お稽古事の発表会などに用いられ、ソリストのリサイタル、アンサンブルの演奏会、小編成の室内楽コンサートなども行われ、ジャズコンサート、落語・演芸寄席、トークショー、パフォーマンス・ショーなどの色物などジャンルに拘らないバラエティーに富んだイベントが行われている。

また大小の集会所はパーティー・レセプションなどの会場としてもつかわれている。

横浜市中区公会堂 の施設データ

Official Website http://www.city.yokohama.lg.jp/naka/kaikou/

  • 所属施設/所有者 横浜市中区公会堂/横浜市。
  • 指定管理者/運営団体  横浜市。
  • 開館/竣工   1917年(大正6年)
  • 設計   山田七五郎、佐藤四郎(原案;福田重義)

講堂

ホール様式

講堂様式、平土間プロセニアム型式舞台付き講堂。

客席仕様

2層・フロアー最大幅約19.8mx最大奥行約25.4m、
収容人員481席、(車椅子用スペースX3台、仮設補助席、含む、)木質パーケット床/2階、Pタイル張り/1階。

内訳
  • 1階席346席 (固定席X283席、車椅子用スペースX3台、仮設椅子席X60席/スタッキングチェアー席)
  • 2階固定席X135席、
舞台設備
  • 舞台仕様 プロセニアム形式
  • 有効幅約8.5m(最大巾約10m)x有効奥行き約5.25m、(最大幅約7.35m)天井高さ;StL+約7.65ⅿ
  • プロセニアムアーチ:間口約7.2m、高さ約7m、ステージ高さ;FL+約90cm、バトン類高さStL+約?m、サスペンションライト(照明ブリッジ);?本、美術バトン;?本
各種・図面・備品リスト&料金表
講堂付属専用施設
  • 講堂控室、控室、

付属施設・その他 

館内付属施設 

施設利用ガイド

横浜市中区公会堂の歩み

1909年(明治42年):横浜港開港50周年祭において開港記念会館を本町一丁目に建設することが決まる。
1914年(大正 3年):9月12日起工
1916年(大正 5年):5月15日上棟式
1917年(大正 6年):6月30日竣工、7月1日開港記念横浜会館の名称で開館。
1923年(大正12年): 関東大震災により倒壊。時計塔と壁体の一部のみが、かろうじて残存した。
1927年(昭和 2年): 震災復旧工事が竣工。
1945年(昭和20年): 太平洋戦争終戦後、連合国進駐軍により接収される。
1958年(昭和33年): 接収解除。
1959年(昭和34年): 横浜市開港記念会館に名称変更。
1985年(昭和60年): 横浜市内で創建時の設計図が発見される。
1989年(平成元年): ドーム屋根等が横浜市により復元。9月2日に国の重要文化財に指定される。
2007年(平成19年): 近代化産業遺産に認定される。

※参照覧

※1、直接音、初期反射音、残響音についての(株)エー・アール・アイさんの解説はこちら。

※2、音響拡散体については、『ホールデザインのセオリー その4 ホール形式とディテール・デザイン』をご覧ください。

※3、『藝術ホールデザインの セオリー その5 ホール設計における禁じ手・御法度集』はこちら

※4、格天井 についてのコトバンクの解説記事はこちら

※5-1、定在波の悪影響に関する一般人向けnatuch音響さんの解説記事はこちら

※5-2、定在波に関するWikipediaの(技術者向け)解説はこちら。

 

公開:2018年10月20日
更新:2022年9月30日

投稿者:デジタヌ


パシフィコ横浜 《ホール音響Navi》TOP


 

 

 



▲このページのトップに戻る
▲神奈川県 の公共ホール 音響Naviへ戻る

 

ページ先頭に戻る