狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

紀尾井ホール/千代田区紀尾井町《ホール音響Navi》

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日本では数少ないレジデントオーケストラ紀尾井ホール室内管弦楽団を持つホール

"お堅い"お仕事の新日鉄住金が創立20周年記念事業として造った"柔らかい響き"で定評のあるコンサートホール。

商業ホールの限界に挑んだ「紀尾井ホール」。

某社の有名なCMのフレーズ「見かけは小さいけど魂が籠ってはる...」を思い起こさせる、いやこのホールから奏でられる音色は「奏者の魂」を包み隠さずさらけ出してしまう!精進の足らない生半可な気の抜けた演奏は受け付けない!

序章 紀尾井ホール

旧新日本製鐵株式会社の創立20周年の記念事業として建設され、1995年4月2日にオープンした。

コンサートホールと、邦楽団体にも使える小ホールを備えている。

レジデントオーケストラ"紀尾井ホール室内管弦楽団"を擁するホール

日本ではまだまだ珍しいレジデントオーケストラ(専属オーケストラ)紀尾井ホール室内管弦楽団 を組織しており、年5回各2公演(計10公演)を行っている。

紀尾井ホールロケーション

ところ 千代田区紀尾井町6番5号

紀尾井ホールへのアクセス

最寄りの駅 四ツ谷駅

※ご注意;以下※印は当サイト内の関連記事リンクです。
但し、その他のリンクは施設運営者・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

紀尾井ホールの施設データ 

Official Website http://www.kioi-hall.or.jp/kioihall

  1. 所属施設/所有者 紀尾井ホール。。
  2. 指定管理者/運営団体 公益財団法人新日鉄住金文化財団。
  3. 開館   1995年
  4. 設計  山下設計
  5. 音響設計 永田音響設計 

付属施設・その他 

館内付属施設 
  • 館内付属施設;エントランス、ロビー、ホワイエ、券売窓口、クローク、バーコーナー等、
  • 館内施設・フロアー配置図 はこちら;1・2・B1Fフロアー5Fフロアー

第1節 『紀尾井ホール』の音響

公式施設ガイドはこちら)

2スロープ2層のオープンステージコンサートホール

平土間とそれに続く緩やかな後半スロープの回りに「高床の桟敷席」を設けた1階フロアーと、2階バルコニーと同じくホール側面に軒の浅い「サイドテラス」を備えた、天井の高いシューボックスホール。

2階後方が大きく「1階ロビー」上に張り出したデザイン

2階バルコニーの「軒先」短くする為に2階バルコニーが大きく後方に伸びている。

ホール壁面が全周木質パネルで表装されたホール

各フロアーの壁面はアンギュレーションを持つ壁材で意匠され、2階中層部と高層部には装飾梁を巡らせている。

上層部上縁の装飾梁から上部に緩やかなRで繋がる、装飾梁が左右に渡されており、その間も細かいピッチで格子状の凸部をあしらったデザインの塗装仕上げをした「高強度天井」となっており、反響板は設置していない。

上層部壁面に配置された円柱状の装飾柱が「音響拡散体」(※1)として残響創出に寄与している。

絢爛豪華なロマネスク調の「いずみホール」とは違い、いかにも「鉄鋼メーカー」らしくビクトリア調の「堅実なデザイン」の丁寧な設えのホールである。

※1、音響拡散体については「第2章第1節 音響拡散処理と音響拡散体となる要素」をご参照ください。

このホールでは「幅18m超」で定在波を回避

1・2階ともに間口18mで1波長の想定定在波周波数が可聴帯域(20~20KHz)外ぎりぎりの約19Hz!

1階メインフロアーの側壁は幅50cm程度反射限界約348Hz(※2)のパネルを縦方向に重ねてアンギュレーション設置されているが...2階は幅50m程度の縦桟で表装したパネルの垂直配置。

※2、音響工学の基礎知識、「反射面(幅)サイズと波長の関係」はこちら

平らで水平な天井

天井はご自慢のシーリングシェルター(外郭)一体成型の高強度成形天井で、音響拡散体としては機能する逆ヴォールト(※3)やリブ&装飾梁、豪華なシャンデリア等は豊富だが、長田音響設計らしく定在波対策の決め手「スラント設置」は無し!水平なので前半7列にも及ぶ平土間部分との平行面対策はほぼ無し!

つまり1波長想定定在波約21.8Hzの高さ方向定在波については野放し?しかも避けなければならない天井高さ(※4)16mにすっぽり嵌っている!

高さ方向については頭(耳)が「8波長定在波の節目」と「4波長定在波の腹」に当たり、周波数特性がかなり乱れていると思われる?

このホールでは平土間部分の前列7列は避けたほうがよかろう。

※3、第4章第4節 「ドームとヴォールト」等のアーチ天井の音響効果に関する解説はこちら。

※4 第4章第1節「高さ方向定在波の音響障害」回避策 はこちら。避けなければならない天井高さは6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19m!

総評

N田音響設計の関与した作品は一部の超優秀な作品「いわきアリオス」(※ホール音響ナビはこちら)を除き、タップリと化粧品(音響拡散体)を用い特殊メークを施し?「残響の厚化粧」(※5)に執着したホールが多いが、このホールも例外ではなく、定在波障害(※6)を軽んじているふしもある?

※5、第1章 初期反響エコーと後期残響は別物 はこちら

※6、定在波で起こる音響障害『ミステリーゾーン』はこちら。

重低音域のシェープを狙った?

豊(ブーミー)でかつ可聴帯域(20~20KHz)外でストン?となくなる重低音域ではあるが、周波数特性が乱れており「真の音色ではない」ことはたしか。

つまりホール横断定在波約(19Hz)28Hz、38Hz、48Hzなどの倍音定在波

ホール高さ方向定在波約21.8Hz、32Hz。43.6Hzなどの倍音定在波

等可聴帯域内で倍音定在波が発生している訳であるが、見かけ(聴感)上は多少ブーミーな重低音域と言ったところで実被害は無し(ということにしておく?)

但しご自慢の、スタインウェイ、やベーゼンドルファーの音色の違いは出ないであろう!

2階バルコニー最後部に謎の特別席16席?

2階バルコニー最後部大向こうに幅約5mx奥行き2.2m×たかさ約2.4mの「謎の窪み」があり押し入れ?物置?特設照明設置場所?でもなさそうで、堂々と16席の座席が配置されている!

この部分は完全にダクト形状なので、奥行き2.2mの4倍波長約40Hzの「共鳴」も起こっているはずで、幅方向約70Hzの定在波も「節目・腹」関係なしに渦巻き、ものすごいことになっているであろう!

ここは全域ミステリーエリアなので余程でない限りは避けたほうが賢明であろう!

デジタヌの独り言

商業主義が謳歌している東京では、小ぶりのホールはプロモーターが敬遠し、音の良さが海外にまで響き渡っているにもかかわらず、利用はレジデントオケとアマオケに限られ、主にアンサンブル団体や、ソリストのリサイタルに限定されている。

このホールの最大の美点!

コンサートホール(大ホール)

欲張って3階テラスを作らなかった事は最大の美点であろう。

素晴らしい響きは「ゆとり有る空間から生まれる」見本の様なホール。

ホール音響評価点:得点78点/100点満点中
§1 定在波」対策評価;得点47点/配点50点
  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価する。
  • ※客席側壁が ホール床面積の1/3以上に及ぶ範囲を「完全平行な平面壁」で囲まれているときには 配点25点に減ずる。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§2 残響その1 「初期反射」軽減対策評価;得点15点/配点25点
  • ※木質パネル等の素材基礎点25点から硬質壁材基礎点12点の間5段階で素材基礎点を与える。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§3 「音響障害と客席配置」に対する配慮評価;得点11点/配点20点
  • ※壁際通路&大向こう通路の有無、天井高さ&バルコニー・テラス部の軒先高さ、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で配点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§4 残響その2「後期残響」への配慮評価;得点5点/配点上限5
  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価。
  • ※上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

※関連記事 「ホール音響評価法についての提案」はこちら。

算出に用いた値;

平土間部分については目をつぶって、2階大向こうの16席はひどすぎるので障害エリアは2か所、障害席数は16席とした。

定在波評価

基礎点B1=配点50点ー障害発生エリア数2=48点

定在波障害顕著席数;16席

初期反射対策評価

基礎点B2=素材基礎点25点ー障害発生エリア数6=19点

初期反射障害1壁面障害 150席(53席/1Fサイドテラス後列&大向う21列、97席/2Fサイドテラス後列&大向う5&7列席、)

初期反射障害2 天井高さ不足 9席/2F大向う7列席

重複カウント ;ー9席

音響障害席総計;150席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数6=14点

眺望不良席数;0席/1F平土間中央部千鳥配列座席

音響不良席その1;定在波障害顕著席16席

音響不良席その2 ;初期反射障害1 壁面障害 150席(53席/1Fサイドテラス後列&大向う21列、97席/2Fサイドテラス後列&大向う5&7列席、)

音響不良席その3 ;初期反射障害2 天井高さ不足 9席/2F大向う7列席

重複カウント ;ー24席

音響障害席総計;166席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

大ホールの施設データ

  1. ホール様式 、『シューボックスタイプ』音楽専用ホール。
  2. 客席  公式座席表はこちら
  3. 客席仕様:間口:18m奥行:26m高さ:16m、2フロアー 収容人員 1階:522席 2階:278席 合計:800席
  4. 舞台設備 オープンステージ形式間口:18m、奥行:9m、舞台高:0.8m、
  5. 舞台平面図 はこちら
  6. 舞台断面図 はこちら
  7. その他の設備 、楽屋x6、主催者控室、
  8. 施設利用(利用料金等)案内 詳しくはこちら。

紀尾井ホールがお得意のジャンル

普段はソリストのリサイタル、アンサンブルの演奏会等、小編成の室内楽コンサートなどが行われている。

またプロ演奏団体、以外にも数多くのアマチュア団体が利用している。

積極的な自主企画公演

運営団体である新日鉄住金文化財団は若手演奏家の為の「紀尾井 明日への扉」、

実力派弦楽四重奏団を紹介する<クァルテットの饗宴>等ホール独自の企画も幅広く行っている。

紀尾井ホールで催されるコンサート情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら。

第2節 小ホールの音響

公式施設ガイドはこちら)


邦楽の演奏にふさわしい明瞭な響きの音空間。能舞台風に設えた舞台とワンスロープ式客席によるワンボックス形式をとりました。250席のスケールは音楽家の表情や手の動きなどを身近に見、息遣いを感じることができる親密感の高い小宇宙です。<公式サイトより引用>

1層1フロアーのモダン芝居小屋

高さ:7.0mと天井の高い間口:14.6m、奥行:11.6m、の奥行きより間口が広い、「芝居小屋」風の客席部分を持つ、邦楽・日本舞踊用の「音楽堂」

邦楽(長唄、謡曲、民謡)などに最適な音響としているために、ステージ上の天井反響板は用意されていない。

側壁はプレーン面を基本とし、客席周辺(下層部)のみ、木質の僅かな凹凸を持たせた木質プレートで囲い、中上層部は表面を壁紙で表装し簡易「襖(ふすま)」風の処理を施した一般住宅用の合板を設置し、客席側壁と同様の表装で3角錐状にカバーリングした照明カラムを左右に2箇所ずつ、計4箇所配置し音響拡散体としている。天井は通常の音楽ホール同様のプラスターボード製の丁寧に段差で折り返した反響板。

エコーをやわらげる為?にホール大向う後方壁面は中央部分が音響ネットで表装された吸音壁となっている。

全体的に長唄・和謡曲に適した肉声の良く通る「デッド」寄りの空間ではあるが、逆によけいな色づけ(過度な残響)を排除し、最後列にいても「奏者の息遣い」「演者の衣擦れ音」まで感じさせる程の「透明感」のある「トランジェントの良い」音響設計と成っている...はず?。

総評

丁寧な設えの良くできた「演舞場」スタイルのホールであるが...。なんか中途半端!

演舞場とするなら...

演舞場とするなら、脇花道、サイドテラス(桟敷)が欲しかったし。

邦楽ホールとするなら...

邦楽ホールとするなら本格的な能舞台を組んで欲しかった。間口14.56mx奥行き18.5mの床面積が割り当てられたのであったのなら、正面見所(座席)脇正面見所を備えた本格的な能舞台が組めたはず?。

この辺りにも「バブル経済崩壊後の緊縮財政」の余波がでて予算削減されたのでは無いかと感じるところ。

定在波対策(※2)はロールバック施設並みに全く施されておらず、障害を目立たなくする為に両側壁際に空隙を空けている。

この基本デザイン(設計)だと前後方向で波長18.5m周波数に換算して約18Hzの重低音とホールを横切る形で波長14.6m周波数に換算して約23Hzの重低音を基音とする定在波が発生しやすく。

いくら舞踊専門だといっても...

大太鼓はまずは使用禁止!、その他の太鼓鳴り物も控えめに...ということになっているはず。

これでは、講演会や落語などの演芸会にしか使用できないであろう。

いくら三味線だけの長唄バックの日本舞踊専門ホールだとしても、少々お粗末ではある。

今後の改修に期待する

少なくとも、ホール床面から1.8m以下の低層部は早急に上部に装飾梁をも設けた内傾スラント壁に改装するべきである。(勿論大向う背後壁も)

これによって、壁際いっぱいいっぱいまで座席を突っ込んで?空間にゆとりのない大向う席19席は撤去を迫られるであろうが、両側壁に関しては前途のように空隙が設けられているので、改装費用が捻出できれば今すぐにでも改装にかかれるはずである。

ホール音響評価点:得点61点/100点満点中
§1 定在波」対策評価;得点22点/配点50点
  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価する。
  • ※客席側壁が ホール床面積の1/3以上に及ぶ範囲を「完全平行な平面壁」で囲まれているときには 配点25点に減ずる。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§2 残響その1 「初期反射」軽減対策評価;得点22点/配点25点
  • ※木質パネル等の素材基礎点25点から硬質壁材基礎点12点の間5段階で素材基礎点を与える。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§3 「音響障害と客席配置」に対する配慮評価;得点15点/配点20点
  • ※壁際通路&大向こう通路の有無、天井高さ&バルコニー・テラス部の軒先高さ、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で配点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§4 残響その2「後期残響」への配慮評価;得点2点/配点上限5
  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価。
  • ※上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

※関連記事 「ホール音響評価法についての提案」はこちら。

算出に用いた値;

定在波評価

基礎点B1=配点25点ー障害発生エリア数1?=24点

定在波障害顕著席数;16席/1F中央11列

初期反射対策評価

基礎点B2=素材基礎点25点ー障害発生エリア数1=24点

初期反射障害1 壁面障害席; 19席/1F大向う11列

初期反射障害2 天井高さ不足席; 19席/1F大向う11列

重複カウント ;ー19席

音響障害席総計;19席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数2?=18点

眺望不良席数;0席/1F平土間中央部t千鳥配列座席

音響不良席その1 定在波障害顕著席;16席/1F中央11列

音響不良席その2 初期反射障害1壁面障害席; 19席/1F大向う11列

音響不良席その3 初期反射障害2 天井高さ不足席; 19席/1F大向う11列

重複カウント ;ー19席

音響障害席総計;35席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

小ホールの施設データ

  1. ホール様式 プロセニアム型式モダン芝居小屋風邦楽ホール。
  2. 客席 間口:14.6m、奥行:11.6m、高さ:7.0m(座席表はこちら)
    1フロアー 収容人員 250席、中央部千鳥配列、1・2階桟敷席、
  3. 舞台設備 、プロセニアムアーチ:間口:14.6m、奥行:6.9m、舞台高:0.8m

  4. その他の設備 、、楽屋x3、、主催者控室、
  5. 施設利用(利用料金等)案内 詳しくはこちら公式ガイドへ。

紀尾井小ホールがお得意のジャンル

主に邦楽団体や、日本舞踊に用いられ、ソリストのリサイタル、アンサンブルの演奏会等、小編成の室内楽コンサートなども行われている。

紀尾井小ホールで催されるコンサート情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら。

第3節 デジタヌの豆知識

ステージマネージャーを擁する

東京で3例目となる、ホール所属のステージマネージャーを配置し出演者の便宜を図っている。

レセプショニストの配置

最近では珍しくなくなったが、レセプショニストを配置し、ホール観客の便宜を図っている。

 

公開:2017年9月 7日
更新:2022年9月30日

投稿者:デジタヌ


東京国際フォーラム 《ホール音響Navi》...にある『ホール兄弟』TOP東京藝術大学 奏楽堂 《ホール音響Navi》


 

 

 



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