狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

兼松講堂/一橋大学 《ホール音響Navi》

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首都圏は次第に駆逐されてきた、活きた文化財。防音扉もなければ、空調の利きも今一だが、それらを補って余りある、古き良き響きにしたれる。カラオケ世代のエコー文化に毒されていない、西洋音楽ホールの原点のような雰囲気が醸し出されている一橋大学が誇る文化遺産の1つ兼松講堂。

兼松講堂の音響

コトブキシーティング(株)の公式サイトにある紹介記事はこちら。

国登録有形文化財

株式会社兼松商店(現兼松株式会社)から創業者兼松房治郎翁の遺訓に基づき寄贈を受け、伊東忠太の設計により1927年(昭和2年)8月に創建されたロマネスク様式の建物です。平成12年には国の登録有形文化財に選ばれました。2003年4月から2004年3月にかけて本学卒業生等の募金により大改修が行われ、耐震、空調などの諸機能を備え、かつお化粧直しの行き届いたシックな内装へと見事な変貌を遂げました。兼松講堂は1927年に兼松により寄贈された...。<同学公式サイトより引用>

総評

天井も極端なアーチ形状ではなく、床面で焦点を結ぶでもなく、床面との並行面対策という点では適当である。さらに、漆喰仕上げの壁面ではあるが、大きな通路・開口部を持っており、分厚いカーテンで仕切る方式なので、遮音性という面では、今どきの環境ではやや苦しい面もあるが、定在波対策、側面一次反射の軽減では優れた効果を発揮しており、かいこうぶのアーチ形状も音響拡散体として有効に働いている。

素晴らしい講堂である。

低予算の改修費が幸い?

低予算が幸いした改修で、オリジナルの良さを見極めた、素晴らしい改修で、この手の文化財改修時によくあるオリジナルの持ち味を台無しにした改悪要素が無い点も評価できる。

開放型エントランス

ホワイエは開放型になっており、講堂入り口、2階に続く階段ホール入り口にのみ木製の両開き扉が用いられている。

回廊タイプの側廊下

客席を取り囲むように、外部に向かって勾配が付けられた側廊下が巡らされている。

"壁面間隔20m超"のセオリーで作られたオーディトリウム本体

オーディトリウム本体はしっかり"壁面間隔20m超"のセオリー(※1)でデザインされ内壁間の推定幅21mでホール幅方向の横断定在波(※2)を16.6Hzの可聴帯域外の低周波振動にシャットアウトしている。

※1、関連記事『"壁面間隔20m超"のセオリー』「音の良いホールの条件とは」はこちら。

※2-1、定在波の悪影響に関する一般人向けnatuch音響さんの解説記事はこちら

※2-2、定在波に関するWikipediaの(技術者向け)解説はこちら。

客席

後方に向かって後半部分に緩やかな傾斜を持つ一階メインフロアー席と特徴的な両側壁・ホール後方の3方からメインフロアーを囲む急峻な2階テラス席を持つ。2階テラス席の殆どの部分では急峻な段床のおかげで低周波振動領域の定在波すら生じていない!

穏やかなアーチ型梁を伴う天井

天井は穏やかなかまぼこ形のアーチ形状をしており、立派なシャンデリアが六ヶ所からつるされ改修時にむき出しの拡声器?が追加されており、これらが音響拡散体(※3)として機能している。

一階後部には、2階後部テラス席を支えるための鋼鉄の柱2本があり、唯一惜しまれる要素ではある。

ホール内部写真1はこちらを参照)

(ホール内部写真2はこちらを参照)

※3、音響拡散体については、『ホールデザインのセオリー 第9章第3節第1項 音響拡散処理と音響拡散体となる要素』をご参照ください。

アーチ型出入口とカーテン間仕切り

大講堂客席と側廊下のアーチ型出入口には建具は無く、間仕切りとしてアーチの枠廻りに付けられた橙色タッセルから放たれたスエード調カーテンが用いられている。

但し2階最後部の4ヶ所には木製の両開の扉が設けられており、適度なエコーが演者・客席双方に伝わるように配慮されている。

作り付けのプロセニアム一体型アーチ反響板

背面が作り付けの波状反響板となっているステージ(演壇)は講堂として講演を主たる目的に設計されている為には幅・奥行き共に狭く、オーケストラコンサートなどの時には、仮設のエプロンステージが用いられ、セミオープンステージのシューボックスホール?となる。

狸穴総研・音響研究室 酒燗(しゅかん)微酔狸の独り言

文化財の補修・修復にはお金がかかるもので、内外装の修復と座席などに重点を置いた今回の修復には好意を感ずるが...。(※、「そして,怪物は蘇った」はこちら

あくまでも「講堂」であり「講演会」を主体に設計された建造物で有ることは重々承知の上で以下の2点について改善を望む。

舞台の改善

現在・反響ドーム?とプロセニアムの付いた演台が有るが狭く、

コンサート等では「張り出し架設舞台」を設置して急場を凌いでいる?様だが、

最前列1列28席を撤去してでも、最前部アーチギリギリまでは、現在の意匠デザインに添った恒久的な張り出し舞台に改装すべきでは無かろうか?

1階後部の改築

視認性(視界)を考えれば、1階最後列3列x28席=84席及び柱両側の16席合計100席を撤去し、①案、木製の欄干を備えた、立ち見席とするか、

②案、両テラス下部の1階部分に一階内壁面と同一デザインのアーチ出入り口を設置し、更に柱間には上部に冷房用の「木製ルーバー(簀の子)」を揃えた木質壁面に改築し、現在閉めきりとなっている講堂扉を復活し、強度と音響(視界)を両立出来る改築をしてはいかがか。

次回の改築に期待したい、箇所である。

ホール音響評価点:78点(暫定値)

§1,「定在波対」策評価点:50点/50点満点

  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、天井形状、天井高さ、等の要素をそれぞれ減点法で算出。
  • ※客席側壁がプレーンな垂直壁で「完全平行・平面」の場合は、満点x0.5=20点をベースに算出。

§2、残響その1 「初期反射」対策評価点:11点/25点満点

  • ※壁面の素材・形状、客席配置、その要素で減点算出。
  • ※(コンクリート、人造大理石、タイル・陶器製などの)硬質材の客先周辺壁材仕様は、満点x0.5=10点をベースにして減点算出。

§3,客席配置への評価点:12点/20点満点

  • ※壁際席、大向こう席、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で減算。
  • ※客席周辺壁材が硬質壁の場合は、満点x0.8=16点をベースに減点算出。

§4,残響その2「後期残響」への配慮評価点:5点/5点満点

  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で減点算出。

兼松講堂のあらまし

Official Website http://www.hit-u.ac.jp/guide/other/facility.html

兼松講堂のロケーション

ところ 国立市中2丁目1番地

兼松講堂へのアクセス

最寄りの駅 国立駅

施設データ

  1. 所在地
  2. 所属施設 国立大学法人一橋大学
  3. 運営団体 国立大学法人一橋大学
  4. 開館   1927年(2000年国登録有形文化財改 修 2004
  5. ホール様式 プロセニアム様式講堂
  6. 収容人員 1,040席
  7. 舞台設備 
  8. その他の設備 
  9. 付属施設 
  10. 設計  改修設計株式会社三菱地所設計
  11. ゼネコン 株式会社竹中工務店

デジタヌの豆知識

兼松講堂のこれまでの歩み

1927年(昭和2年)8月に伊東忠太の設計により創建された。

2000年 国の登録有形文化財に指定される。

2003年4月から2004年3月にかけて大改修が行わた。

 

公開:2017年10月 3日
更新:2022年9月27日

投稿者:デジタヌ


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