狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

神奈川県立音楽堂 《ホール音響Navi》

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故スビャトスラフ・リヒテルが「東洋一の響き」と評した逸話が語り継がれている戦後日本初の コンサート専用ホール

1954年生まれ、公立施設としては日本で初めての本格的な音楽専用ホール。

ネオロマネスク調の装飾に頼らず、直線と単純な曲面だけで構成された、プレーンな面構成を用いたモダニズム手法で、当時としては飛び抜けた音響特性を創出したデザイナーの力量には感服するが...

神奈川県立音楽堂のあらまし

Official Website http://www.kanagawa-ongakudo.com/

1885年4月18日横浜居留地に出来た日本初とされる「ヨコハマ・アマチュア管弦楽団」から面々と続く西洋音楽の歴史を誇る町「横浜」。

その横浜に1954年隣接する神奈川県立図書館とともに開館したのが、戦後初めての「コンサートホール・神奈川県音楽堂」。

この成功がその後の、1958年のフェスティバルホール開場、1960年の旧京都開館、1961年の東京文化会館、そして1982年のザ・シンフォニーホール誕生と日本における「コンサートホール」建設機運を高めたとも言える。

1999年に日本の近代建築20選(DOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築)に選ばれ、2018年から保存に向けて改修工事を実施することになっている。

神奈川県立音楽堂のロケーション

所在地  横浜市西区紅葉ヶ丘9-2

JR根岸線桜木町駅の北西部に位置する掃部山公園内にある。

この公園には、音楽堂と同時に建設された神奈川県立図書館、そして当館と同じ故前川國男先生の作に成る1962年開館神奈川県立青少年センター、1996年開館の横浜能楽堂、が有る文化エリアとなっている。

神奈川県立音楽堂へのアクセス

鉄道・バスなどの公共交通

JR桜木町駅徒歩10分、京急・日ノ出町駅徒歩10分

マイカー利用の場合

(※関係者専用駐車設備で一般車両は駐車不可、また近隣1㎞以内日出町駅、桜木町駅周辺にも複数の民間有料駐車場があるが、駅から歩いたほうが早いので公共交通機関利用がおすすめ)

首都高速みなとみらいランプより約8分/1㎞

神奈川県立音楽堂が得意のジャンル

年間を通じ数多くのクラシックコンサートが開催されている。

プロ演奏団体、以外にも数多くのアマチュア団体が利用している。

室内楽、ソリストのリサイタル、アンサンブル団体によく利用されている。

更にはジャズコンサート・邦楽リサイタル等ジャンルを選ばないクロスオーバーな使われ方をしている。

神奈川県立音楽堂の公演チケット情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら。

神奈川県立音楽堂の音響デザイン

(公式ガイドはこちら)

日本初のコンサート専用ホール

ホール一体型オープンステージコンサートホールへの1里塚

プロセニアムを持たない反響板がホールと滑らかにつながるデザインのホールの走りでは有るが、伝統的な緞帳を備えた過渡期的なデザインのホールでもある。

フロアーデザイン

最前列1列から4列までが平土間で5列から中央通路上の17列までが「ハノ字段床上」に配置されている座席となっている。

中央通路を挟んで後半はストレート段床となっている。

ホールの壁面はすべて「木」

ホールの壁面はすべて「木」で作られており、開館当初より、響きの良さで定評があった。

合理的な平行壁面対策

ホール周辺反響板と扇形部分の1階前半部スロープの周辺壁はプレーンな壁面形状。

1階客席上層部と2階平行壁部のスロープ部分の側壁は、定在波対策(※10)として平行対抗面をキェンセルするために木質パネルをアンギュレーションを持たせて表装されている。

参※10)当サイト関連記事 第4章「定在波による音響障害」の回避策はこちら。

大向こう背後壁面

ホール側壁同様に、大向こう背後壁面もアンギュレーションを施した木質パネルで表装されている。

更に大向こう客席上部には折り上がったコーナー反響板もセットされている。

モダニズム手法でデザインされた簡素なホール内部

モダニズムの巨匠らしく、簡素でいて細部にまで心配りされた心憎いデザインは、1982年にザ・シンフォニーホールが登場する4半世紀前の残響(初期反射と後期残響)の概念(※11)が定着する以前のホールデザインとしては、秀逸である。

但しディティールデザインについては、東大生産技術研究所 渡辺要研究室 石井聖光 氏の助言があったモノと思われる。

参※11)当サイト関連記事 「エコー」と「後期残響」は別物はこちら。

総評

ホール幅20m以上のセオリーにだけ頼った大向こう近辺の壁面処理

この手のシューボックスホールで問題となる部分、つまりホール最後部において、気が抜けたかのように、並行面対策をぬかっている?

どういう訳か27列~最後列31列のある「立ち見フロアー」までの両側壁が、アンギュレーションもスラント処理もないプレーンな垂直壁となっており、この部分でホール幅(推定約21m)に相当するホール横断定在波(約16Hz)が生じているが、可聴帯域(20Hz~20KHz)外であり、パイプオルガンも設置されないので、大向こう近辺の音圧(音量)確保というより古来からの例に従い態と平行面を残したとも考えられなくはないが「石井聖光先生」がお亡くなりになられた現在では謎に包まれた部分でもある。

さらに2階フロアーが中央部を通路とする手法で定在波の節の部分を避けてはいるが。

いずれにせよ定在波障害実被害席は"0"である。

「初期反射」軽減対策

アンギュレーションを持たせた木質パネルの側壁で概ね良好だが、18番列より後方客席が「壁際までびっしり」は頂けない!

「後期残響」への配慮

当時は、ロマネスク様式ホールの石柱の上に乗っている「梁台座」や、柱と梁の継ぎ目にある「ガセット(コーナー補強版)」や側壁の「レリーフや彫像」の音響的意味合いが解明されていなかった?時期なのでしょうがないが、現在では「音響拡散体」として後期残響生成に重要な役割を果たしていることは知れ渡っている。

たぶん石井聖光先生もこのことは助言なさったとは思うが、「ロマネスクホール」に嫌悪感?を抱いておられる、モダニズムの若き志士「前川先生」としては、簡素な壁面に執着なさったのであろう!

趣旨は分からなくもないが、「音響拡散体」が(後年の先生の作品埼玉会館などでは、上層部に深い溝を持つアンギュレーション壁で、ガセット同様の効果を出しておられる)

客席配置

定在波の項でも述べたが後半部分の客席が両側壁までびっしり詰めこまれているのはいただけない。

デジタヌの独り言

電子計算機等は高価で日本には数えるぐらいしか輸入されておらず、ソロバンと計算尺が工学計算では主流で、携帯型テープレコーダー、小型ハイファイマイクロフォン、半導体アンプ、高性能ハイファイスピーカーなどの機器も皆無であった1954年当時どうやって音響測定・分析したのであろうか?非常に興味深い!

(有名なダイヤトーンP-610が市販されたのは1960年)

東通工(現ソニー)が国産テープレコーダーを発売したのが1950年

日本初のトランジスタラジオ「TR-55」の発売が1957年

ホール音響評価点:得点87点/100点満点中

立見席を除く1054席で評価。

§1 定在波」対策評価;得点50点/配点50点
  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価する。
  • ※客席側壁が ホール床面積(or総客席数)の1/3以上に及ぶ範囲を「完全平行な垂直平面壁」で挟まれているときは 基礎点25点に減ずる。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§2 残響その1 「初期反射」軽減対策評価;得点21点/配点25点
  • 木質パネル等の素材基礎点25点から硬質壁材基礎点12点の間5段階で素材基礎点を与える。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて基礎点とする。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§3 「音響障害と客席配置」に対する配慮評価;得点13点/配点20点
  • ※壁際通路&大向こう通路の有無、天井高さ&バルコニー・テラス部の軒先高さ、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で配点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§4 残響その2「後期残響」への配慮評価得点3点/配点上限5
  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価。
  • ※上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

算出に用いた値;

※関連記事 「ホール音響評価法についての提案」はこちら

定在波評価

※定在波障害実被害発生エリア席数0なので基礎点50点とした。

基礎点B1=基礎点50点ー障害発生エリア数0=50点

定在波「節」部席;0?席

定在波「腹」部席;0?席

定在波障害実被害席総計;0?席

初期反射対策評価

※障害発生エリア壁面材質が木質アンギュレーションパネルなので素材基礎点25点とした。

基礎点B2=素材基礎点25点ー障害発生エリア数3=22点

初期反射障害1 壁面障害席 ;26席/2階18~30列1番&34番、

初期反射障害2 天井高さ不足(3m以下)席;24席/2階31列全席、

重複カウント ;ー8席

音響障害席総計;42席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数5=15点

眺望不良席数;32席/1階平土間中央部座席2~4列17番~24番

音響不良席その1 定在波障害顕著席 ;20席

音響不良席その2 初期反射障害1壁面障害席 ;26席

音響不良席その3 初期反射障害2 天井高さ不足(3m以下)席;24席

重複カウント ;ー8席

音響障害席総計;94席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

※ご注意;以下※印は当サイト内の関連記事リンクです。
但し、その他のリンクは施設運営者・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

詳細データ

(公式ガイドはこちら)

  1. 所属施設/所有者 神奈川県立音楽堂/神奈川県。
  2. 指定管理者/運営団体 (公財)神奈川芸術文化財団/神奈川県。
  3. 開館   1954年11月4日
  4. 設計  前川國男建築設計事務所
  5. 音響設計 東大生産技術研究所 渡辺要研究室 担当/石井聖光 
  6. ホール様式 『扇形タイプ』コンサートホール。
  7. 客席  1スロープフロアー、収容人員;1,106人(客席配置図・座席表はこちら1)
  8. 座席数1,054席(固定席966席、可動席88席) 立見52人
  9. 舞台設備 ステージ、間口19.4m 奥行7.4m(張り出し舞台使用時8.6m) 高さ8.8m。

    オーケストラひな段(3段)、オーケストラピット(34.5m2)、
    張り出し舞台、割りどん帳等舞台装置一式

  10. 施設利用(利用料金等)案内詳しくはこちら。
  • 各種図面,備品リスト&料金表。

付属施設・その他 

  • ※リハーサル室、特別室、控室、等
  • 共用施設配置図・フロアマップこちら。

豆知識

神奈川県立音楽堂のこれまでの歩み

神奈川県立音楽堂これまでの歩み
1954年11月4日に開館した日本初のコンサート専用ホール。

2018年4月から1年間掛けて耐震補強等の改修を行う。。

神奈川県立音楽堂のある横浜市とこれ迄の歩み

神奈川県

推計人口、9,161,113人/2018年4月1日

2018年現在 都道府県別の人口は東京都に次ぐ全国第2位!

で県内総生産は東京都、大阪府、愛知県に次ぐ第4位となっている、つまり首都圏にある帝都・東京のベッドタウンということになる。但し県内には政令指定都市数が3つ(横浜市、川崎市、相模原市)あり都道府県含めて最多となっている。

横浜市

神奈川県の県庁所在地。
推計人口、3,731,706人/2018年4月1日

横浜―品川 16分/¥300/京急/22.2㎞

 

公開:2017年9月26日
更新:2022年9月30日

投稿者:デジタヌ


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