音動楽人(みゅーたんと)

《オーディオ・マニア的CDナビ》G・マーラー交響曲全集 その3 レーベル対決

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ディジタル録音時代になりDECCA神話は崩れた?

嘗て1970年代までのアナログ録音全盛のころは、オーケストラ録音特に大規模オーケストラ曲では、英DECCAが絶対的?"オーディオパフォーマンス"を誇っていました。

「DECCA」レーベルとの契約が一流アーティストとして認知された証ともなりアーチストのステータスともなっていた時代です。

時代は変わり、21世紀フルディジタルプロセス録音(※1)の時代になり、状況はかなり変化してきており、もはやDECCA神話は「ニーベルングの指輪のワルハラ城」同様に崩壊したようです?

有名アーティストの「レーベル遺跡」を見れば一目瞭然のようにDECCA離れ、deutshe Grammophon集中が見られます。

最も下図をご覧になればお分かりのように、1980年以降は両レーベル共に旧ポリグラムレコードとなり、1998年以降はユニバーサルミュージックに売却されて、今に至り、資本関係上は同じ企業グループという事になりますが...。

classicsrabel2.gif

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※ classicsrabel2.pdf  はこちら。

参※1)AAD、ADD、DAD、DDDといった表記に関するWikipediaの解説はこちら。

お国柄の違い?

さて本題に移るまえに、これには"技術の継承"と"規格化"という事柄(お国柄)が大いに関係しているように小生は感じています

敗戦後の1949年に日本工業規格JIS制定に助力され、戦後日本の技術力向上に大きな足跡を残したアメリカの品質管理の専門家である統計学者W・エドワーズ・デミング博士の業績を記念して1951年に「デミング賞」が制定されたのはいまや少ないのでは?...

敗戦後の復興期に"物まね日本"と揶揄されてメードインジャパンが(今の某超大国同様に)「安かろう悪かろう」の粗製乱造の代名詞のように囁かれ世界中からたたかれていた状況を、世界屈指の品質水準を誇る技術立国?に躍進できたのは「彼の功績大」であったことをご存じない方も多いのでは?

同じく、世界的に有名なDIN規格(ドイツ工業規格)は1917年以来綿々と続きその範囲はほぼ全ての工業製品にわたっており、更に戦後の1947年2月23日スイス・ジュネーヴで設立されたISO規格(国際標準化機構)の礎にもなっている工業規格のひな型でもあります。

オーディオのお話には関係なさそうですが、実は大いに関連しています。

コネクターなどの小物から、マイククロフォンの音響測定法、増幅器の歪測定、スピーカーの音響測定、騒音測定!迄すべての分野を網羅しています。

技術の「標準化と継承」に熱心なドイツ

歴史をご覧いただければお分かりのように、意外やマイスター(職人技)のお国ドイツは、技術の「標準化と継承」に熱心なお国なのです。

一方デミング博士の母国米国はどうかというと、意外や「職人技」のお国柄であり、エンジニアが世代交代すると技術が受け継がれない傾向にあります!

つまり「個人のスキル」は個人のものであり、個人の財産としての大事な名人技は一般公開・継承等せずにスキル(ノウハウ)を武器として企業を渡り歩くのが常であり、したがって後継者育成などにはあまり熱心ではないようです?

そんなお国柄なので、世界最古とされる1880年創設のアメリカ機械学会(ASME)規格は名の通り、工業製品の中でもとりわけ機械要素といわれる、ファスナー類(秒、リベット、ねじ類)や金属素材などのいわゆる機械部品関連に絞られています。

現物合わせの国アメリカ

つまり、大量に使用する機械要素は厳密?に規格化されていますが、少量生産の一品生産に近いハンドメイドの工業製品では"現物合わせ"が幅を効かせているわけです。

規格量産品で、製作図面はあっても「工作精度」はあまり気にしていないわけで、最後は「現物合わせ」で何とかなる?という考えです。

ヨーロッパの高級車(ブガティー)のW16エンジンのように、各部品(委託)メーカーから「厳格な工作精度」で仕上げた部品を集めて「最終的に自社で組み上げる」ことなど考えていないわけです!

例えばハーレーダビッドソンの量産部品(交換部品)の組付け精度が悪いのは、バイク通なら常識?

アメリカ工場主張時に痛感

このことは、小生が多国籍の精密測定機器メーカーの日本法人に勤めていた時に痛切に実感しました。

ドイツとアメリカの開発部隊・製造部隊は全くリンクしておらずにそれぞれ独自に活動を行っていて、技術交流は全くない!と言い切っても差し支えない状況で、ドイツでは綿々と受け継がれた「安定した技術」と標準化で安定した製品を供給し続け、アメリカ工場では最先端の「エレクトロニクス技術」に長けた「優秀な技術者」が「開発グループ」などは組織しないで研究室にこもって一人黙々と研究・開発にいそしんでいました!

その結果、時折最先端のエレクトロニクス素子を用いた「ずば抜けた性能」を持つ製品を世に出し足りしていましたが、大人の事情?でエンジニアが競合他社に移籍すると変わった開発担当者は全く違う「フィロソフィー」のもとに「全く技術的に脈絡のない製品」を開発して日本に送ってきていたものでした。

これは、開発エンジニアだけではなく製造技術者すなわち職人も同様で、規格外れのチャンピオンデータを備えた高性能なトランスヂューサー・センサー類などはその典型例で、熟達の職人が振動子の焼結、ケーシングへの組み込み、配線やダンパー材(制動材)の調合、性能測定などを一手に処理して手作りしていました!(アメリカ出張の際に工場見学しての実感)

つまり、何らかの事情でエンジニアが退職すると、途端にクオリティーが変化してしまうわけです!

最近のYouTubeをご覧になればお分かりのように、意外やアメリカでは「職人技の現物合わせ」が幅を利かせていて、オーディオ製品も例外ではありません。

嘗てLPレコード盤の頃RIAA補正規格(※2)を制定しながら、競合のCBSはもとより発案者のRCAですら、守らずに!(ステレオ電蓄の特性に)現物合わせに徹していたのはこのためでしょう!

※参2)当サイト関連記事 コンシュマー機器(再生機器)の変遷とドンシャリ・マスタリングの関係?はこちら。

deutshe Grammophon とDECCA 録音の違いについて

前途したように現在ユニバーサルグループのもとに集結しているdeutshe Grammophon とDECCAレーベルですが、2001年の部門整理でPhilips レーベルがDECCAグループと統合されて、2つのレーベル(グループ)に分かれました。

ちょうどそのころに「CD制作現場」で21世紀維新?が起こり「デジタル伝送マイクロフォン」(※3)の技術が確立されて規格化され、フルディジタルプロセスによるディジタルコンテンツ制作が可能となり、ヨーロッパ放送連合などを中心に「瞬く間にEU圏」を席巻してクラシックコンテンツ制作に欠かせない存在となりました。

この時点で「deutshe Grammophon制作グループとDECCA制作グループ」の「オーディオスキル」が入れ替わったのではないでしょうか?

別項で解説する予定の「ピアノ録音」はもとより本稿で取り上げる「オーケストラ録音」も劇的に変化したように感じられます。

参※3)2001年 AES 42-2001としてデジタル伝送マイクロフォン規格が制定される

※以下録音(音量)レベルについては、全てピークレベル(デジタル飽和レベル)を0dBとして補正した値です。

マーラーといえばこの人ショルティー

シカゴ交響楽団  1992年2月DECCA新譜

マーラーの全曲盤といえばこの人G・ショルティーを外すわけにはいかないでしょうが、生前この人は長い付き合いのDECCAの看板スターでもあり、特に力の入った録音が数多く残されています。

バーンスタインほどではないにしろこの人も多くの団体と再度の録音を行っており、現在DECCAレーベルから全集として発売されているBOXはシカゴ交響楽団と録音しなおしたもので以下の曲が収録されています。

※レベル補正値-2dB

1. 1983年10月 ディジタル録音 交響曲第1番ニ長調「巨人」
2. 1982年 ディジタル録音 交響曲第2番ハ短調「復活」
3. 1982年 ディジタル録音 交響曲第3番ニ短調
4. 1983年 ディジタル録音 交響曲第4番ト長調「大いなる喜びへの賛
5. 1970年 アナログ録音 交響曲第5番嬰ハ短調
6. 1970年 アナログ録音 交響曲第6番イ短調「悲劇的」
7. 1971年 アナログ録音交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
8. 1971年8月ウィーンゾフィエンザールでアナログ収録 交響曲第8番変ホ長調「千人の交響曲」
9. 1982年 ディジタル録音 交響曲第9番ニ長調
10.1970年  アナログ録音  交響曲 「大地の歌」
11.1970年 アナログ録音  歌謡曲「さすらう若人の歌」
12. 歌謡曲「大いなる喜びの賛歌」

いずれも2000年以前の録音で、脂の乗り切った壮年期の録音といえます。

また1970年代のアナログ録音機(多分スチューダー)+DolbyNRで収録された一連の作品はADD(※1)処理されて、名盤中の名盤として支持を得ているものです。

しかし各作品を聴けばお分かりのように、2000年以前のDECCAでは米CBSの影響を受けて?か「音響衝立+マルチマイク+マルチトラック録音」で割と「業とらしい音場デザインとsolo楽器強調」で、当時の一般人のハイファイ環境を強く意識していることがうかがえます。

例えば、「復活」でも初回録音のL.S.O.との共演時ほどの「逓減誇張」は見られなくなっていますが、(50Hz以下の)重低音強化による広帯域化と同時に、ソノリティーに変化がみられて、いますが、結構Soloパートの誇張は残っています。

特に小生の大好きな3番の第3楽章では、別項でも取り上げましたが、この部分は現在主流となっているCBSがバーンスタインとN.P.O.でアナログ録音した1961年4月の録音で編み出した、NRのない時代当時としては「極限(-45dB 以下)のpppp」でのVn伴奏を背景にステージ裏のポストホルンsoloを低録音レベル(-35~-30dB)で配する手法」とは異なり-50dBスタートで、ハーセスのポストホルンソロが-40~ー25㏈程度と2000年以降に発売されたdeutshe Grammophonをはじめとする他レーベルのCDに比べて幾分クローズアップ傾向となっています。

参※1)AAD、ADD、DAD、DDDといった表記に関するWikipediaの解説はこちら。

クラウディオ・アバド マーラー全集

1933年6月26日生まれ - 2014年1月20日没

2014年Deutsche Grammophon新譜 11枚組 輸入盤

※レベル補正値-6dB!、以下年度は新譜発売日

1. 1983年10月 ディジタル録音 ベルリンフィル 交響曲第1番ニ長調「巨人」

2. 2004/11/25新譜 ディジタル録音 ルツェルン祝祭管弦楽団 交響曲第2番ハ短調「復活」
3. 2002年 ディジタル録音 ベルリンフィル 交響曲第3番ニ短調
4. 2005年 ディジタル録音 ベルリンフィル 交響曲第4番ト長調「大いなる喜びへの賛
5. 1993年 ディジタル録音 ベルリンフィル 交響曲第5番嬰ハ短調
6. 2005年 ディジタル録音 ベルリンフィル 交響曲第6番イ短調「悲劇的」
7. 2002年 ディジタル録音 ベルリンフィル 交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
8. 1995年 ディジタル録音 ベルリンフィル 交響曲第8番変ホ長調「千人の交響曲」
9. 2002 年 ディジタルライブ録音 ベルリンフィル 交響曲第9番ニ長調

この人もマーラーに魅了された指揮者の一人で、マーラー演奏を語る上では外せない一人です。

この全集以外にもシカゴ交響楽団、ウィーンフィルとの多数のセッション(いずれもDeutsche Grammophon)が残っています。

いずれもディジタル録音世代の録音です2002年以前の作品は、いわゆるDAD処理されたアナログマスタリング処理のもので、2002年以降の24bitディジタル伝送マイクロフォンによる、一連のフルディジタルプロセス処理とはオーディオクオリティーが違っています。

特に小生の好きな第3番・第3楽章では、フルディジタルならではの広大な「ダイナミックレンジを生かして」16bit記録CDいっぱいいっぱいの-56dbB付近からスタートして、-45dBから-40dBというブーレーズ盤同様の低レベル録音でポストホルンソロを収録していて、素晴らしいの一言です。

ブーレーズ盤同様にDeutsche Grammophon盤はPeakレベルが-6dBと余裕をもって収録されており、そのまま聞くとより一層静寂感が強調されます。

各レーベルで異なるPeakレベル

参考までにマーラーの交響曲第3番での代表的な音源の(クリッピングレベルを0dBとしたときの)Peakレベル余裕値を掲載しておきます。

Deutsche Grammophon盤 ディジタル録音盤比較

クラウディオアバド全集版盤 ー6dB!(ー2dB)

ピエールブーレーズ全集盤(※4) ー6dB!(ー2dB)

※上記2アルバムはカッコ内がアルバム全体でのレベル。

シノーポリ全集盤 ー1dB

バーンスタイン・マーラー全集(ライブ盤) ー1dB

※参4)当サイト関連記事G・マーラー交響曲全集 その2 作曲もする3人の指揮者の残した全集はこちら。

DECCA盤

ショルティー全集盤(シカゴ響ディジタル録音盤 )ー2dB

リッカルド・シャイー盤 (2004年ディジタル録音 )ー1dB

ウニバーサル盤

小澤征爾/B.S.O盤(Philips?1993年ディジタルライブ録音盤)-2dB

DENON盤

エリアフ・インバル盤2010年ディジタル録音盤 -2dB

SONY盤

バーンスタイン・マーラー全集(アナログ録音盤)-2dB

メータ/イスラエルフィル盤(1994年ディジタル録音 )-2dB

各盤のレベル差について

メータ盤は、弱奏グランプリ?1位で、-56dBでスタートして、ポストホルンが-56~45dBとCDの記録能力いっぱいいっぱいの弱奏で、この部分を芯のある音?でスピーカー再生していると、クライマックスがとんでもない音量(90dB近い騒音!)となり、一般家庭ではスピーカー再生は不可能に近い録音となっています。(ハイレゾ対応ヘッドフォンで聞くしかない?)

ちなみに、-2dBで80%の音圧に相当し、-6dBでは半分の音圧となり、Peak飽和レベルまで使い切った録音に比べて全体を通じて半分の音圧(Volume )で聞いていることになります。

更に、約56dBある16bit量子化CDの実用ダイナミックレンジのうち、6dBを無駄にしていることになり、同じダイナミックレンジなら、幾分バックの高弦のトレモロの音色(分解能)を損なっていることになりますが...。

ブーレーズ盤、アバド盤がー6dBになっている理由はともにアルバム全体の構成によるものです、つまり第8番「千人の交響曲」のテュッティ(全奏)強奏部分にレベルを合わせたD・Gらしい細やかな配慮のためです!

つまり第3番だけに限れば4dB(倍)を無駄にしていることになりますが、アルバム全体ではバランスが取れています。

更に聞かせどころの弱奏部が、それぞれ約-50dB~45dBとメータ/イスラエル響と並ぶ超低レベル録音となっています!

小澤征爾盤も全体を通じてはー2dBですが総じて低レベルで記録されています。

これは、ライブ演奏特有の「録り直しのきかない」一発勝負に備えてのためで、おおむねバスドラムが入る部分でダイナミックレンジを使いきっています。

たとえアルバムであっても、「単独」リリースを前提に記録レベルを設定したDECCAとアルバム全体のバランスを考えたDeutsche Grammophon(&各指揮者)のコンセプトの違いが表れているようです。


 

公開:2020年4月10日
更新:2020年4月12日

投稿者:デジタヌ


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