狸穴ジャーナル・別冊『音動楽人(みゅーたんと)』

連載『 ハイレゾオーディオ High resolution とは...』ー第15回ー

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★第2節 コンシュマー機器(再生機器)の変遷とドンシャリ・マスタリングの関係

1877年にトーマス・エジソン 「ヴァーティカル振幅(立て振幅)」溝記録方式ろう管録音機を発明して以来、長らく「ラッパ管(ホーン)」による機械振動の音響的増幅方式時代が続いて、超大型ホーンを備えた数々の「名機」も誕生しましたが...。

前途したように1925年の電気吹き込みの時代になっても、一般家庭では機械吹込み当時のまま、機械式の機械時計と同じ仕組みの「つるまきバネ」駆動の「蓄音機」が幅を利かせていました。

1929年に5曲真空管が登場して1935年にはメタルビーム管も登場して基本となる真空管技術が完成しましたが、戦前の日本はもとより、アメリカでさえ軍需用や商業用(電話用途)などが主流で、一般家庭では「鉱石ラジオ」が幅を利かせており「6球スーパーヘテロダイイン」真空管ラジオが普及しだしたのは戦後になってから!テレビ受像機でさえ1964年の登場以来1970年まで真空管式の時代でした。

話は横道にそれましたが、「真空管アンプ+スピーカー」によるレコード再生が一般化しだしたのは、LP盤や17cmシングル盤が登場した1947年以降という事になります。

第1項 LPレコード時代到来

戦前の1941年からCBS研究所で研究されていた33回転・30cm径のLPレコード製品化の開発・研究が戦後の1947年に成功して、1948年6月21日に米コロムビア社から発売されました。

最1目 1949年 RCAビクター ドーナツ版販売開始!

同時期にRCAビクター社でもSP盤と同じ収録時間を持つコンパクトな17cm径45回転のドーナツ盤(シングルEP盤)の開発・研究が行われていて1949年に製品化に成功して発売した。

第2目 1954年 RIAAイコライジングカーブが標準に...

ステレオLP製品化に先立ち1955年にはRCAがお金持ちの「電蓄ファン」に向けて2チャンネルステレオ・テープを発売してSTEREO再生時代幕開けに向けたプリキャンペーンを開始していました。

ステレオLPレコードの開発研究段階において、旧来からの「バーチカル(vertical)」V溝記録と、かつてブランズウィック社が開発した「ラテラル(lateral)」L溝記録方式、とを組み合わせたV/L方式や45・45ステレオ方式が考案されたわけですが、ラテラル振幅が加わったステレオLPレコードでは溝間隔が問題となり、かつより一層のハイファイ(treble高音域の強化)化を達成する意味でも、各社まちまちのイコライジングを規格化する必要が生じてきたわけです。

そこでステレオLP製品化の前段階として1954年 にRCAが提唱してRIAA(アメリカレコード協会)が賛同した1kHzをターンオーバー周波数としてBass・treble補償するRIAA規格イコライジング補償が標準・規格化されたましたが...。

1958年6月にRCAが45・45方式ステレオLPレコード発売開始して、同年7月には CBSが10月には英国EMIも45・45方式ステレオLPレコードを発売開始しました。

最3目 ステレオ時代に入って、各社のマスタリングの違いがより鮮明に

戦中・戦後のTAPE録音時代になってからも、アメリカでさえ一派庶民はハイファイとは無縁でした!

重くて取り扱いが面倒なSP盤を置き換えるのが目的で、LPと同時期に開発された45回転シングル盤「EP盤」の「目論見」は見事に的中して、「ポップスの世界」ではあっという間にSP盤を駆逐!して、若者たちはドライブインなどに置かれている「ジュークボックス」の虜になっていました。

第1項 いろいろな思惑があって各社が独自のイコライジングを

LP盤初期から全盛期にかけては、各社いろいろな思惑があって、特に1961年以降のCBSでは「当時のステレオ電蓄」でもハイファイらしく「聴き栄え」するように「360sound」と称して「treble側を盛り」、逆に正しく当時は「無用の長物」で合った「50Hz以下の大振幅・長波長の重低音部分」をばっさりカット!して,100Hz近辺制を盛大に強調したマスタリングをした「プレス原盤(原盤マスターテープ)」をプレス工場(原盤カッティング&プレス)へ送っていたようです。

これは、後述する「音楽コンテンツの最大の受け皿」である若者たちをメインとする一般大衆層の再生環境を見据えた販売戦略も影響しています。

電蓄製造メーカーでもあったRCAはジュークボックスだけではなく「パーソナル需要」も狙い、「ハイファイ」路線を逆にLPを実用化した「CBS」はAMラジオ聴取を前提に、ハイファイとはかけ離れた「当時のAMラジオ」でも聴き栄えがするような「ラジオマスタリング」を行うようになったのでしょう?

実際に、AM受信器付きの管球式「ステレオ電蓄」でステレオ事始めを経験した小生は、当時の「CBS」のドンシャリマスタリングが、素晴らしい「ハイファイステレオ?」に聞こえました!。

第2項 '50~'70年代初めにかけて

エルビスやポールアンカ、ビートルズが一世を風靡した'50~'70年代初めにかけては、AMラジオ全盛期。

第1目 アメリカでも、ハイファイラジオ?が普及しだしたのはFM放送が一般化してから!

アメリカでは1937年にFM(周波数変調)放送の特許ホルダーのアームストロングが世界初のFM放送局W2XMNを開設したのが始まりといわれていますが...

全米各地に数百のFM局が開局したのは1961年に連邦通信委員会 (FCC) がFMステレオ技術を規格化してから。

しかも当時は「管球式カーラジオ全盛で」今のような「カーオーディオ」とはかけ離れた世界!

アメリカでカーオーディオらしきものが登場したのが1963年登場の4トラックモノラルカートリッジテープが始まりで、8トラックステレオテープ(カラオケ初期の例のやつ!)はだいぶ先のこと。

しかも当時の流行歌(ポップス)のコンテンツ?聴取の主流は、やっと普及しだしたトランジスタラジオか、乾電池で動くポータブルレコードプレーヤーぐらい。

ウオークマンや「巨大ラジカセ」はもっともっと後の話、いずれにしろ一般大衆はハイファイとは無縁の世界でした!

※当時の日本ではFM実験放送が1957年12月24日から東京で実験放送を開始して、1963年12月16日になって実用化試験局となったNHK東京でFMステレオ実験放送が始まったばかりで、大阪を含む全国規模で本放送を開始したのは、1969年3月になってからの事!

つまり1970年の大阪万博前後の日本では「ハイファイオーディオ」を聞いている人などほんの一握り!で一般大衆は「ハイファイ」とは程遠い時代でした。

第3項 アナログLP盤再生最大の課題は「ハウリング対策」のための重低音カット!

アナログLP盤再生における最大の問題は「ハウリング対策のための重低音カット」マスタリングといえます。

アナログLP盤でも可聴帯域ぎりぎりの20数Hzの溝は刻めますが、再生となると別問題で!

100Hz以下の重低音域では、放送局の調整室のように「完全にスピーカーのある試聴室」と防音・防振処理で遮断でもしない限りは、一般家庭ではプレーヤー自体がブルブルと震えだして「ハウリング」を起こしてしまいます!

そこで「弱奏(pp)」などの一部の例外を除き「全奏での強奏」部分では「100Hz」以下は「潔くカット!」するのがLP盤マスタリングのセオリーの一つでした。

第1目 レコード盤製造上の問題と樹脂の弾性係数による高域特性の問題

前途したように、レコード盤は通常、ラッカーマスター盤にメッキしてマザー盤(凹)盤を作成して、さらに離型剤を塗布したマザー盤に再メッキしてメッキ層をはがしてプレスマスター(凸)盤を作りスタンパーで樹脂を挟んで溝を刻みます。

つまり"転写"を繰り返すこの工程で「小さな振幅」の微細な高域信号は丸められて?弱くなります!

更に一般用の「ピックアップカートリッジ」の高域特性の悪さ?を見込んで、カッティングマシン用のプリントマスターはRIAA特性以上に「さばを読んだ?高域盛り」マスタリングを行うわけです。

このLP盤製造用の「高域盛りマスタリング」が「やけに100Hz近辺が盛り上がった「ボンボン・モヤモヤ」Bassと「キンキラキン」の「Treble」で、LP盤ハイレゾ音源化支持者たちが勘違いしてしまう「疑似ハイレゾ音?」となってしまっているのでしょう?

第2目 LP盤全盛当時のオーディオ評論家・レコード評論家たちも「知ってか知らず」か? 

「ドンシャリ・マスタリング」に関しての記述は一切見当たらずに「もやもやした歯切れの悪い低音...」とか「金属的な響きの高域...」とか「抽象的な言い回し」に終始していたようです。

唯一「トランジェントが良い」音という言い回しで「原音(マイク収録の元信号)」の忠実度を表現していたようです。

トランジェント

AVの世界では「過渡応答」とされる。「トランジェントが良い」とは、元の信号に余計な成分が付かず、なまったりもせず、瞬間的な信号の変化にもすばやく追従できるという意味だ。<AV機器関連用語辞典 より引用>


 

公開:2020年2月 9日
更新:2024年3月 6日

投稿者:デジタヌ


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