狸穴ジャーナル・別冊『音動楽人(みゅーたんと)』

連載『 ハイレゾオーディオ High resolution とは...』ー第10回ー

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★第4節 アナログLP再生機器の問題

ピックアップカートリッジのチャネルセパレーションの問題

今となってはお笑い種のchセパレーション、LP当時の左右ch間のクロストーク比は20㏈程度(つまり左右のステレオ信号がそれぞれ1/10ずつ混じっていたわけ!)

これは再生側のステレオピックアップカートリッジに起因するところ大で。(もちろんカッティングヘッド側の問題もありましすが)

当時の代表的放送用MCカートリッジ DENON DL-103で 25㏈/1KHz程度。(オルトフォンも同じ)
1970~80年代の世界標準MM型?シェアーV15 でも同じ程度。
当時の先鋭機種オーディオテクニカ AT150EaG で30dB/1KHz

一般的なMM方式のFR-5E 30dB/1KHz、25dB/10KHz
Victor 4MD-!Xが周波数特性10~60KHz!30dB/1KHz、20dB/30KHz!。
といったところで現行の普及品オーディオテクニカ AT-VM95で 22dB(1kHz)程度

参※)ピックアップカートリッジの周波数特性例

現状入手可能?な世界で最高額のオルトフォンのMCカートリッジ The MC Century(日本国内定価¥1,260,000(税別)!)でも

  • ●チャンネルセパレーション(1kHz):25dB 、(15kHz):22dB 
  • ●周波数特性(20Hz-20,000Hz):+/-1.5dB
  • 針圧/2.4g
  • スタティックコンプライアンス/9×1μ/dyne

オルトフォンと並んで有名なMC型として日本における放送局標準となったDL-103」の現行バージョンが

  • ●再生周波数/20Hz~45kHz/ +3dB,-
  • ●チャンネルセパレーション(1kHz):25dB以上 、
  • 針圧/2.5±0.3g
  • スタティックコンプライアンス/5×1μ/dyne

※ 但しこれらの2製品は「MC型」なので適当なステップアップデバイスが必要です。

通常、高品位なステップアップトランスが組み合わされますが、ご存じ通りトランスには「インピーダンス(交流抵抗)」があり「DL-103」の高域特性はがた落ち!となります。

高性能なディスクリート構成の半導体ヘッドアンプもありますが「デバイスノイズ」が付きまとい「S/N90dB」以上は難しいでしょう。

オルトフォンをまともに動作させるために、さらに数十万円から、数百万円の「ヘッドアンプ」が必要になってくるでしょうしかも「S/N90dB」以上は難しいでしょう!

という事で小生は「MMカートリッジ派」でした。

最近まで製造されていたシェアーのM44Gで

  • Frequency Response: 20 Hz - 19 kHz
  • Stereo Channel Balance: 2 dB
  • Channel Separation (at 1kHz): 20 dB
  • 針圧0.75~1.5g

シャアーと並んで当時国内トップの性能と製造数を誇りで現在もピックアップカートリッジ製造メーカーとして生き残ったオーディオテクニカの 現行機種 AT-VM95Eで

  • 再生周波数範囲 20~22,000Hz/ +3dB,
  • チャンネルセパレーション 20dB(1kHz)
  • 針圧 2.0g標準
  • ダイナミックコンプライアンス 7x1μ/dyne/100Hz
  • スタティックコンプライアンス 17x1μ/dyne40!

ところがLP盤全盛当時は

SHURE V15 TYPE IIIが

  • Frequency Response: 10 Hz - 25 kHz
  • Channel Separation (at 1kHz): 20 dB
  • 針圧0.75~1.25g
  • スタティックコンプライアンス 30x1μ/dyne40!

AT-150EaGが

  • 再生周波数範囲 10~23,000Hz/ +3dB,-
  • チャンネルセパレーション 30dB以上!(1kHz)
  • 針圧1.25g標準
  • ダイナミックコンプライアンス 10x1μ/dyne/100Hz
  • スタティックコンプライアンス 40x1μ/dyne40!

普及型のAT-VM35ですら

  • 再生周波数範囲 10~25,000Hz/ +3dB,-
  • チャンネルセパレーション 30dB以上!(1kHz)
  • 針圧1.5g標準
  • スタティックコンプライアンス 24x1μ/dyne

一般的な(中級クラスの)FR-5で

  • 再生周波数範囲 20~20,000Hz/ +3dB,-0.5dB!
  • チャンネルセパレーション 30dB以上!(1kHz),25dB以上!(10kHz),
  • 針圧1.5g標準
  • スタティックコンプライアンス 12x1μ/dyne

物理特性のチャンピオンホルダーとしてはディスクリート4cHレコード"CD-4"再生用として開発されたVictor 4MD-!Xが

  • 周波数特性10~60KHz!/ +3dB,-
  • 30dB/1KHz、20dB/30KHz!
  • 針圧1.5g~2g
  • スタティックコンプライアンス 35x1μ/dyne

しかしシェアー、DENON以外は交換針入手不可能で、この当時の物理特性を再現することはできません!トホホ...。

FM放送はもう少しだけよくて

アナログチューナー時代のTRIO(その後のケンウッド)KT-7500で 45dB/400Hz(35dB /50~10kHz)

少し以前のデジタルシンセサイザーチューナー PIONEER F-777 で

70㏈/1kHz(54㏈//20~10kHz,)

S/N比92㏈/ステレオ放送受信時となっていますが...。

さらに言えばFM放送の公称帯域は公称値50 Hz~15,000 Hz、/-3dBで、実質で25~17Khz/-10dB程度は確保されているみたい?ですが19khzのステレオパイロット信号とのからみで「せいぜいそこ止まり」。

「さらにダイナミックレンジ」についてはプリエンファシスと称してpeek-40dB程度に圧縮されています!(一般のFM受信機の性能がせいぜい70dB程度のため)

デジタルだと

所有器TEACのUSBDAC DSD USD301で S/N比105㏈ クロストーク"0"(完全左右セパレートモノラル構成のため)

ここで問題になるのが伝統的?ドンシャリ・ボンスカ?マスタリング

アナログ盤全盛時代の1860年代から1980年中ごろまでは一般家庭の一般人は前途した通りまだまだ「LowFi全盛」でステレオ電蓄やラジカセ、当時の最新メディアのCDも「ちゃっちいミニコンポ程度」で聞く有様!

本物の重低音などは庶民が聞けるはずもなく...

限られた極一部の「超お金持ち」の人が「タンノイ」などでスピーカー再生された重低音を楽しめる程度で...。

お金持ちオーディオマニアが自慢していた?「アルテックの映画館用大型スピーカーシステムA-7」ですら38Cmウーファー&ホーンスコーカー」の構成で大音量は出せても「低音再生は大したことはなく」(小生が務めていた外資系会社の食堂兼休憩室に、社長の趣味とかで、SMEアーム、シュアーカートリッジ、デンオンDDターンテーブル、マランツアンプの組み合わせで設置されていたので毎日聞いていた!)

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一般家庭では100Hz程度の低音再生がやっとの時代

一般人は、重低音どころか100Hzがやっと、オーディオマニアですら40Hz/-10dBていどのスピーカーががほとんどで?

そろそろ重低音も聞けるヘッドフォンが出だしたかな...、程度で今ほど重低音(カーオーディオ?)に関心があったわけではありません。

更に「ステレオ電蓄」ラジカセ程度では高域特性も十分ではなく、それらの諸事情を考慮して、100Hz近辺を持ち上げて、50Hz以下の重低音はスパっとカットして更に、1kHz以上の高域をRIAAカーブ以上に持ち上げハイ上がりの「ドンシャリ・マスタリング」が幅を利かせていたわけです。

貧乏オーディアマニアを自認していた小生のSPシステムは

当時一世を風靡した? ONKYOU F-500

3ウェイ・3スピーカー・セミバスレフ方式(バッフルに穴が開いているだけ!)・ブックシェルフ型(と言ってもデカイ!)

クロスオーバー周波数 1kHz、6kHz

使用ユニット 低域用:25cmコーン型
中域用:12cmコーン型
高域用:ホーン型
公称再生周波数帯域 40Hz~20kHz/-12dB
特に低域は

  • 70Hzで-6dB(実数比1/2)
  • 60Hzで-10dB(実数比1/3)
  • 40Hzは-12dB(実数比1/4)で耳を凝らして?やっとこさ状態

しかもスピーカー中心軸上(真正面の1mぐらいの位置で)のお話。

といったところで、100Hz以下はほとんど出ていない状態でした!

現在もドンシャリマスタリング

現在でも事情は変わっておらず、というより前途したようにアナログ盤全盛期に比べて一般人が入手できる「ピックアップカートリッジ」の物理(電気)特性は退化しており?

つまり日本では別表のように1990年代前半にLP盤の需要が途絶え、2010年頃まで製造が中断したので当然アナログLPレコードの再生環境は崩壊して?、

1980年代半ば当時世界最高水準を誇っていた「日本のオーディオ専門弱小企業」がどんどん統廃合されて、当時の製造設備や(職人ワザの)技術継承が途絶えてしまって、機械時計並みの「超精密加工技術」がいる「ピックアップ・カートリッジ」と「交換針」の製造技術が廃れたことがあげられます!

しかし、LPレコード用の「マスタリング」マニュアルは引き継がれ、当時より性能が悪くなった?「ピックアップ・カートリッジ」のためにも「ドンシャリ、ボンスカ」イコライゼーションは伝統的に受け継がれているわけです!

更にシェアー神話は、当時針圧2グラム以上が定番だった時代に「針圧1.5グラム以下」のハイコンプライアンスとハイトラッカビリティーを武器に世界中の定番になっただけで、ほとんど「シェアー神話」プラシーボの世界で「オルトフォン」や当時の「DENON103」に比べて大幅に性能が違ったわけではありません。

但し当時としては、オルトフォンなどのMC型より(ステップアップトランスがいらない分)コンプリートカートリッジ、交換針共にハイコストパフォーマンス?でした。

アナログステレオLP盤特有のノイズ

アナログ盤特有のノイズとして「ゴースト」エコー、と「内周トラッキング歪」があげられます。

しかしアスペルガー星人(発達障害者)である小生は「プチプチ・ノイズ」(盤面埃、傷)と「シャー・ノイズ」(針音&テープヒスノイズ)が苦手で、この"2大ノイズ"から解放されただけでも「ディジタルレコーディング」を大変ありがたく利用させていただいています!

特にppで雰囲気帳消し!の針音とテープヒスノイズ(シャーノイズ)は大の苦手で、SPシステムで聞くと環境ノイズも相まって「脳内フィルタリング」で何とかなりますが、ランダムに現れる「パチパチ」ノイズはイライラの種にもなり音楽に集中できなくなります!

LP盤時代にはこれが嫌で「盤面に傷がつくと」お蔵入りにする盤がよくありました。

S/Nの問題

LPのダイナミックレンジはS/N比換算で50~60dBあったといわれていますが、後述する録音機材のオープンリールテープレコーダーが、38・2トラではLow noise tape使用で60㏈(1000倍)程度ドルビーNRシステム併用で70dB程度、76cm/secの1インチ幅スタジオ用スチューダーでも同じ程度だったので、原理的にはその程度までは行けそうですが、実際は後述する問題で、SX-68課ティングヘッド登場後も極一部の輸入盤にみられるようなかなりの"ハイレベルカッティング"でもDレンジ50dB(実数比300倍)程度、たいていは46㏈(実数比200倍)程度に収まっていたようです。

ゴースト・エコー

ゴーストエコーとは、正しく幽霊音、というよりは「蜃気楼」のような音!

ディジタル録音以前の、アナログレコーダーの時代には「38㎝/secとか78㎝/sec」などの速度でテープが走っていたわですが、テープは薄いので大きな磁力が記録されるとリールに「巻き取られた」際に重なった部分で「転写」されてしまい、それが「ゴーストエコー」となってffの両側(主に後側の無音部分)で聞こえてしまう現象です。(ショルティ/シカゴのマーラーのアナログレコーディング盤などでしばしば経験させられました!)

同じことは、ラッカーマスター盤カッティングの際にも起こり(大振幅で隣の溝を押してしまう)ますが、こちらはカッティングマスターテーププレーヤーの主ヘッドの直前に「レベル監視ヘッド」を置いて、ppの時はグルーブ間隔を詰めて、大振幅(ff)の直前でグルーブ間隔を広げる「バリアブル送り」方式で長時間カッティングと両立を図っていますが...。

トラッキングエラーによるアナログLP最内周部での問題 

かつてLP時代には最弱音の「不協和音が正しく濁っていた!」

リニア送りで常に直径方向に刻んでいる「カッティングマシーン」と異なり、レコード盤の外側を中心に円弧動作している「トーンアーム」の先についた「スタイラス」の振幅方向とグルーブ直行軸に角度差(位相差)が現れて結果としてカートリッジの「左右チャネル」出力のトラッキング時差(位相差)で歪が生じる現象です。

これは特殊な「リニアトラッキング」アームを用いたとしても「LP盤」自体の「曲がり・ゆがみ」や「偏芯」で完全には解消できず、

特にこの現象が大きい最内周部で顕著に表れや少なります!(通常off set したアーム配置でレコードの記録部の中央あたりで誤差0°となるようになっています、という事は最外周と最内周ではトラッキングエラーが増大することになります、特に"周速度が小さくなる最内周"では影響が起こりやすい!わけです)

具体的にはカラヤン盤「ツァラトゥストラはかく語りき」(1973年2月ベルン大聖堂で録音)の最後のppの部分でフルート、バイオリンの最弱音が濁る(混変調する)現象は避けることが難しかったようで!

同じ音源がCD化されて初めて「きれいな不協和音」が着せるようになりました!

ほかにもカラヤンの逸話としては「1972年1月3~5日にかけてベルリンのイエスキリスト教会(※5)で録音されたヴェルディーの「レクイエム」が有名で「今では当たり前のようになっている出だしの最弱音(-50dB)を「ヒスノイズ」無しで、録音したいと言い張り「ドルビーNR」を2段直列で使用した?!という話は有名。

フォノグラム(グラモフォンレーベル)が、デジタル録音しだすのはDeccaよりさらに遅くに1980年代にいってからで、カラヤンは1969年5月の来日時にNHK放送技術研究所で開発された「デジタル録音機」で放送用に録音されたプレイバックを聞いて感動して、前途した「駄々っ子」要求を出したのではないでしょうか?

この部分を美しく聞けるようになっただけでも小生としては「ディジタル(CD)メディア」は相当ありがたいといえるわけです!

参考までに、小生の使用していた機材は「ターンテーブルSONYーTTS4000、トーンアームGrace G860、カートリッジ・シェアーV15他」で、当時望むべく最良の組み合わせの一つであったはず?

参※5)教会といっても、戦前・ナチスドイツの時代にW・フルトヴェングラーとベルリンフィルの放送録音のために作られたスタジヲのような施設で、「音響的に優れた礼拝堂」として有名で、戦後もカラヤンのサーカス小屋ができるまでの70年代初頭まではこちらで録音が行われていて、各楽器が明瞭に記録された数多くの名録音が残っています。

RIAAカーブでは歯が立たないチュッティーエンディング部分

別項で取り上げた、マーラーの交響曲やサンサーンスの「交響曲第3番オルガン付き」では、RIAAカーブでイコライジングしても、25Hz近辺の大振幅の重低音が混ざったff部分ではそのままのバランスでは針飛び?するくらいに振幅が大きくなるためにレコード盤面に「刻み切れず」に致し方なく「重低音」をカット(もしくは大幅レベルダウンミキシング)してマスタリングを行い、カッティングしていたようです。

特にクライマックス(最内周部)で"重低音を含んだフォルティシモで終わるような曲では「アナログ」盤の記録限界を超えていて、「デジタル録音」でさえも「LP盤デリバリー」を前提とした初期の録音ではマスタリングで大幅に重低音域をカットしていたようです。

参※23)フォノイコライザに関するWikipediaの解説 はこちら。

ハウリングの問題

実はこれが重低音を記録できないもう一つの大きな問題でもありました。

ハウリングをなくすには「NHK]の放送送り出し調整室のように、完全にリスニングスペースとは遮断された(防音・防振)された「レコードプレーヤー室」が必要で、個人宅ではなかなか実現困難で「50Hz以下」の重重低音などは「盤面」に何とか刻めて再生できたとしても、レコードプレーヤーにスピーカーシステムの重低音振動が伝わりたちまちハウリングしてしまうことになるわけです!

そこで、その昔はハウリングの心配がない1/2インチ4トラック「オープンリール」メディアなども発売されていました!

小生の同僚はショルティの「ニーベルングの指輪」を全曲そろえていて、小生も借り受けて試聴させてもらったことがことがありました。

確かに、シェアーがどうの、オーテックのVMカートリッジがどうのこうのレベルではなく「素晴らしいチャネルセパレーション」と重低音には大感激しましたが、「テープヒス」はどうしようもなく不愉快でした!

もちろんヘッドフォンでの試聴、(テープデッキは自慢の一品 AKAI GX400Dpro)但しダビング用するには当時は「ナカミチの可搬タイプカセットデッキ」しかなく断念しました。

それに「25㎝」ウーファーx3wayのONKYOUでは、公称40Hz/-10dBでも70Hz以下の重低音はあっても仕方なく¨...。


 

公開:2020年2月 9日
更新:2024年3月 4日

投稿者:デジタヌ


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