連載『 ハイレゾオーディオ High resolution とは...』ー第9回ー
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★第3節 アナログ・テープレコーダーの問題...
アナログ記録信奉論者は
(以下注記(※)印のない専門用語はWikipediaの該当サイトにリンクしてあります。)
一部のアナログ記録信奉オーディオショップ関係者は
「アナログ録音時代のように(テープヒス)ノイズに埋もれて楽音がかき消されるいるのではなくて...。」
等といいますが...。
「ヒステリシスカーブ」の問題で、全奏での強奏(チュッティー・フォルテッシモ)部分での「非直線記録部分の歪」と「サチュレーション(磁気飽和)ノイズ」は避けられず、最弱奏(ピアニッシモ)でのS/N悪化!楽音消失(記録不可能)避けられない問題で、クリッピング感(サチュレーション)歪感、ヒス(磁気記録)ノイズ感は常に付きまとっていたわけです!
磁気記録小史 ワイヤーレコーダー当時から
磁気テープはもともと「ヒステリシスカーブ」と呼ばれる「入力:保持力」の相関関係で直線性はあまりよくありません!
最小記録保持力以下では記録できないので、軟鉄の線材を用いた「ワイヤー録音機」の当時から録音ヘッドにはつねに一定レベルの「バイアス(最低)磁化」をかけていたわけです。
テープレコーダーの時代になってからも
紙やアセテートを用いたテープに磁性材を塗布した初期のテープレコーダーではワイヤー録音機当時から続く「直流バイアス磁化」が用いられていましたが、ヘッドそのものの"磁化"やバイアスノイズ(ヒスノイズ)などの基本的問題で「ハイファイ」とは程遠い、ワックス円盤録音機以下の代物でした
「交流バイアス」と「磁性材の進化」でヒスノイズ(磁気記録ノイズ)は低減したが
そこで「バイアス(基本磁化)」を交流にした「交流バイアス磁化」方式が考案されて、機材の性能が飛躍的に向上しました。
その後、テープ素材や塗布する磁性材の研究開発が進み、磁性材そのものも「コバルト添加」「メタルテープ」などによる高抗磁力・保持力のものが開発されて、より一層の「微細化」や「針状化」が行われ、2層塗布や磁性材メッキ!などの荒業?も開発されて「ロウノイズ・ハイアウトプット」化がどんどん進んでカセットテープのような「1/4インチ4トラック、4.75Cm/sec」の究極の条件でも、オープンリール1/2iインチ、38・2トラデッキと同等それ以上のDATに迫る高性能(※31)を発揮していましたが...。
しかしこれは民生用カセットデッキ用テープのお話で、規格を重んじるプロ用オープンリールデッキではLow-noiseテープ化はあまり進まず当時の公称S/N(Low Noiseテープ使用オープンテープでは「テープヒスノイズ」とあまり変わらないレベルのー60dB程度)以下の「あまりにも小さな信号」は記録できない!訳です。
なのでドルビーに代表される、ノイズリダクションシステムで「ダイナミックレンジを圧縮」する手法が考案されたわけです!
しかし前途
参※31 民生用デッキの性能比較
当時の民生用フラッグシップオープンリールデッキの一つ AKAI GX 400D-PROで
- 周波数特性 30~27,000Hz!/̟̟±2dB/0VU(概ねpeek-3dB)/Low Noise テープ使用38・2トラ
- S/N 58dB以上
- ドルビーNRtypeS ONで87㏈!/メタルテープポジション、
- ワウ・フラッター 0.035%/RMS以下
当時世界最高性能を誇ったカセットデッキ AIWA XK-S9000 では
- 周波数特性 13~24,000Hz!/̟̟±3dB/-20dB/メタルテープポジション
- S/N 裸 65dB!/メタルテープポジション
- ドルビーNRtypeS ONで87㏈!/メタルテープポジション、
- ワウ・フラッター 測定限界ぎりぎりの 0.018%/±0.035%
普及価格帯DAT?Victor XD-Z505 で
- 周波数特性 13~24,000Hz/48kHzモード
- 綜合S/N 91dB/48kHzモード
- ワウ・フラッター(ジッター) 測定限界測定限界値±0.001%以下
Peak levelメーターとVUメーター、0VU基準録音レベルの関係
嘗てアナログテープレコーダーの時代にはVUメーターが「録音レベル監視」の主役でした。
※ PDFファイル ピークレベルメーターについて(TEAC取扱説明書より一部引用) peak_level1.pdf vumeter.pdf はこちら
かいつまんで、説明しますと...アナログ方式磁気記録では前途した非直線の「ヒステリシスカーブ」の都合で直線部分だけを使うわけにはいかずに、「磁気飽和」(サチュレーション)直前まで有効に?利用してダイナミックレンジを稼いでいたからです!
それでTEACさんの説明にある通り、0VU≒-8dB VUメーターの0VU(サイン波): Peak levelメーターの-8dBでキャリブレーションを行うようになったわけです。
コンパクトカセット当時は
(※ Nakamichi 550 取説引用 nakamich5501.pdf はこちら)
更に、1/4インチ(6.3mm)幅テープ2chステレオ(往復4トラック)4.75cm/sec記録の:カセットレコーダーがオーディオマニアのメインツールになってからは「ダイナミックマージン」さらに少なくなったので、磁気テープの「非直線」部分を5dB相当とみなして、VUメーター+8dBを0dBとする「ピークレベルメーター」が一般化したわけです。
デジタル録音の時代になって
DAT(遅れてMD)録音の時代になって、0dB=bit飽和 となってマージン(低歪領域)は無くなり、-18dB≒0VUとなってい、いらい「32bit量子化のハイレゾ録音」の現在でも"基準録音レベル"として規定されているわけです。
※JVCのVictor XD-Z505 取説からの引用 dat_recordinnglevel01.pdf はこちら。
余談 DAT16bitによる素人生碌は難しかった
デジタル録音黎明期のDAT(16bit直線量子化)による(インディーズミュージシャン含む)アマチュアデジタル録音は難しかったのは事実です。
嘗てのDAT(16bit量子化)による生碌での問題点は総合S/N96dBによるダイナミックレンジの狭さ!だけではなく「記録モニタリング不可能」であったことです!
3ヘッドアナログテープデッキのように、録音ヘッド直後の再生ヘッドでの記録モニターができないので、レベルメーターだけが頼りになっていました。
一般家庭でのFMエアチェックの場合は、別項で記したように(※3)、S/N確保の目的でDレンジ は約40dB程度に収まるように「コンプレッサーでダイナミックレンジ圧縮(プリエンファシス)」されており、(これがFMクラシック番組の「足かせの一つ」ともなっていますが...。)
逆にクリッピング(サチュレーション)も低レベル(楽音消失)も気にしなくて済み(特にBSのBモードステレオ放送、CSデジタル放送やCDからのリッピングなどのデジタル媒体コピー)「エアチェック時のレベル設定」が楽になるったわけですが。
ライブ録音では、レベル設定を間違えると
アマチュア(インディーズ・ミュージシャン)のライブ録音では、レベル設定を間違えると「ビシ・バシ・ガリ」のクリッピング(ビット飽和ノイズ)や逆にレベルが低すぎると「楽音消失」(プロの録音エンジニアでもたまに発生させていた)などが発生しやすかったわけで、ピークレベル計と「睨めっこ」する監視役の補助が必要で、それまでの38・2トラデッキのように、リハでレベル設定して、あとは回しっぱなしでほっておく?ことは難しくなったわけです。
それで、DAT(48kHzサンプリング、16bit,直線量子化)当時の「アマチュアの生碌」では意外と記録レベルで「コケる」ことが多く、特にアマオケの生碌では1/2インチ幅ローノイズテープを贅沢に使い38/2トラのテープデッキでアナログ記録したほうが、DATのように失敗せずに録音がしやすかったことにもつながっていたわけです!
アナログレコーダーのクロストーク
各トラック間にはわずかなガードトラックとしてギャップを設けてありますが...。
民生用の38・2トラ AKAI GX-400DPRO で クロストーク比45dB/30~27KHz(38㎝/secローノイズテープ使用時)まあこれが標準ですから「アナログ当時のNHK送り出し」も同程度、当時の2インチ幅16トラックのスタジオ用のアンペックスや一斉を風靡して世界中のスタジオで使用されたスチューダーでもこの程度(トラック間のガード幅が同じため!)
それでも米国系のメジャーレーベルのマスターテープには
1950年代ステレオ初期のRCAとCBS(現SONYエンタテイメント)の「米国系2大レーベル」録音は当時から2インチ(50㎜幅)Tapeを贅沢(※6)に使用したアンペックス、スチューダー、や3Mなどのスタジオ用8~16Chマルチトラックテープレコーダーで遮蔽ブースで囲まれた各パート(楽器郡)に極端なオンマイク?のマルチマイク・マルチトラック収録されていて、マスターテープの各トラックには各パートのクリアーな楽音が記録(※32)されていました。
もちろん、弦バス、パーカッション、パイプオルガンに至るまでかなりの至近距離のオンマイクで...。
最近になって、デジタルリマスター版CDが多く再発売されるようになったこれらのレーベルでは、CD製作用のデジタルリマスターのおかげで、「エ~!こんなにすごい音が記録されていたんだ!」と驚かされることが多くなりました!(※32)
参※6)戦後間もない復興期真っただ中の日本では「VTR」テープはもちろんのこと「音源」収録用の録音機用の録音テープまで「使いまわし」再利用が当たり前で、そのためにラッカー盤に電気吹き込みしていた戦前・戦中・敗戦後の復興期よりも高度成長期当時の貴重なテープ音源が残っていない場合が多いようです。
参※32)但し当時のマイクロフォン&ヘッドアンプはS/N、ダイナミックレンジともに小さく、弱音でのソノリティを保とうとすると、大音量ではサチって(飽和)する傾向にあり、いくら遮音壁で遮蔽しても、ffffでは後述する大オーケストラの絶対音圧でマイクロフォンが飽和してしまい「音割れ」する傾向にはありました!
ノイズリダクション録音の問題点
現状のCD製作システムでは「CD制作側」でのダイナミックレンジ・コンプレッション(プリエンファシス)は行われていますが、基本再生側はリニア増幅となっています。
それでも総合S/N96dB とダイナミックレンジ50dB 以上は確保されており、これ以上のダイナミックレンジは正直SP再生では不要ではないでしょう?(詳細後述)
「静かな住宅地(環境騒音レベル40dB程度)」にある一般家庭の場合、特別な防音処理でもしない限りー50dB以下の最弱奏pp(ピアニッシモ)部分でVolume設定したら、最大ピーク値0dBつまり強奏ff(フォルティシモ)部分では近所から苦情が来るほどの(環境基準レベル80dBを軽く上回る)大音響になってしまうでしょう!
まあヘッドフォン聴取なら問題はありませんが.。
嘗てのアナログ録音の時代にはカラヤンの逸話を紹介したようにpeekー50dBの弱音部を40dB以上のS/Nで記録することは難しく、
ために1966年 に元アンペックスでテープレコーダーの開発をしていたドルビーが設立した米国ドルビー研究所が開発したドルビーAタイプノイズ・リダクション(NR)・システムx2重連!などという荒業を用いるしか手立てがなかったのでしょう。
しかし「Dolby A-type Noise reduction System 」(※33)に限らず、「ノイズリダクションシステム」は突発的な衝撃音「ピアノやパーカッション」には弱い欠点があります!
参※33)現在も広く用いられているシステムで可聴帯域の20~20,000Hzを4分割して、各帯域で圧縮、伸張を行うシステム。約10~15dBのS/N比の改善効果がある。
「ブリージングノイズ(息継ぎノイズ)」と呼ばれる現象も
ブリージングノイズとは、コンプレッサーの応答遅れで生じるランダムな非周期ノイズの事です!
「コンプレッサー」の一種リミッターでfff部分を非線形増幅してTapeがサチュレーション(飽和)しないようにして、なおかつコンプレッサーで全体のダイナミックを圧縮してS/Nを改善する手法がとられて(現状も)LP制作されていたわけです。
前途したように現在もFM放送の実行ダイナミックレンジはCDより約10dB程度圧縮して40dB程度になるようにして放送されています。
ためにFMで聞くクラシックCDはDレンジが40dB程度にまで圧縮されていて!
逆にオルガン曲などではCDよりも弱音部分で重低音が誇張されて聞こえるわけす。
可聴帯域を4分割して「細かく」制御したのがスタジヲ用のドルビーNR-Aシステムで、これを簡略化して高域だけに効くようにしたのがご存じカセットデッキの必需品ドルビーNR-Bシステムとなるわけで「飛躍的に」1/4インチ幅テープと4.75Cm/secという低速送りを用いたカセットのS/Nを向上させてくれたわけです。
しかしノイズリダクションシステムでは常にブリージングの問題は付きまとっていました。
特に録音時・マスタリング時に起こると事態は深刻で..
例えば「アナログ時代?最後の迷録音」の一つ
サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン」、メシアン:昇天 CD
ミョンフン(チョン) (アーティスト, 演奏), メシアン (作曲) 2016年グラモフォンエーベル再発売
録音時期:1991年10月
録音場所:パリ
録音方式:デジタル録音
データでは一応デジタル録音ということになっていますが...。
どういうわけか最近のデジタル録音に比べて弱音部のレベルが+10dB 程度持ち上がっておりDレンジがFM放送並みに40dB程度しかなくて、見かけ上?(25Hz)前後のオルガンのペダル音がハイレベルでマスタリングされています!
更に、本来は弱音部で気になるはずの高域の「ヒスノイズ」は意外と少なく、代わりに大きな周期の極低周波のブリージングが生じていて全体のレベルが不安定な状態になっています。
このCDはグラモフォンレーベルでありながら「AAD、ADD、DAD、DDD」といった表記が見当たりませんが、新譜発売年代と「Digital Recording」の表記がないことから、AADかDAD、いずれかのマスタリングで制作されたCDだと思われます。
マルチトラック録音機で収録されて、マスタリング(編集、2chミックスダウン、プリエンファシス;ダイナミックレンジ圧縮処理、イコライジング処理)を行うの際に、収録したアナログレコーダーと異なった機材を使用したためのアジマスエラーやその他の理由でドルビー動作閾(しきい)値に誤差が生じたか、
ダイナミックレンジ確保のためにNRを併用してデジタル録音したが、(アナログ)マスタリングを行う際のD/A変換時にNRでデコーディングするのを忘れてブリージングが生じたのではないかと思われます。
マルチチャネル・マルチトラックから2chにミックスダウン(マスタリング)する際のミスではないでしょうか?
ある意味、まあ怪我の功名とでも言いますか...。
お手軽重低音チェックコンテンツ?としてこの曲の中では人気が高いようで...、
よく売れるので?、再度マスター音源からデジタルリマスターして「せっかくの重低音」がレベルダウンして「人気もダウン」するのを恐れて?新譜盤発売当初そのままのマスタリングで再発売(増刷)が続けられているようです。
(過渡期にあたる)この時期のCD制作の問題点を象徴している迷録音?の一つでしょう。
第6項 データ保存性の問題
テープレコーダーによるアナログ記録方式では「前途の例」のように同じメーカーの同じ機種でも個体差で「微妙なアジマスエラー」(※34)や、ヘッド汚れによる感度低下や磁気テープの感度邑(むら)でNR動作レベルがずれて、前途のような状況が起こりやすいわけです!
更には、長期間保存すると「テープの経年変化・劣化」で最悪の場合「わかめ状」になったり、保磁力が変わり、高域の減衰(およびS/N低下)が発生しやすくなります。
また、アナログレコーダーのコンディションを長年にわたり維持するためのメンテナンスも大変な費用と、手間暇を要します。
この点トランスポートに複雑な機構の「VTR」を使用した、初期のデジタルレコーダーはともかくとして、HDD記録の現行のシステムでは、アナログ記録に比べると経時変化に強い、すなわちデータ保存性が高いといえます。(※35)
※34)テープに対する磁気ヘッドギャップの角度誤差ずれのこと。
参※35)事実、小生は膨大なアナログデータ「放送録画、放送録音、ライブ記録」を「再生するすべ」をなくしてしまいました!悔しい!
小生自慢のAKAIはとっくに会社がなくなり、究極のカセットデッキAIWAもSONYに吸収されて数十年がたちスペアパーツ消滅!で修理不可能に?
公開:2020年2月 9日
更新:2024年3月 4日
投稿者:デジタヌ
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