タヌキがゆく

新音響測定法の提案 《レヴュー 2018》

ー音響設計エンジニアリングに関するもろもろの提案ー

プロローグ (おさらい)そもそも「音響設計(Acoustic Design)」とは何なのか?

※昨年のコラム記事「永田音響設計は神ではない!?」からの引用。

建築物の設計には大まかに分類して、

①意匠設計(外観、外装や内装の施設アウトライン設計)

②構造設計(構造計算)

③設備設計

等の各部門に分かれ、それぞれデザイナー・アーキテクト構造エンジニア 、設備エンジニアと呼ばれる人達が関わっている。

このうちの①意匠設計に関する部分に音響設計(Acoustic Design)は含まれる。

つまりは、建築設計事務所、でもありコンサルタント、でもあり時によっては事業を請け負う共同企業体(ジョイントベンチャー)の一員にもなるわけである。

第1章 芸術ホール設計における音響設計

戦後初・日本初のコンサート専用ホール神奈川県立音楽堂

そもそも、音響設計なる言葉が現れたのは、建築デザインにおける分業化が明確化してきた1960年代からであり。

戦後日本の先駆けは日本初のコンサート専用ホール1954年誕生の神奈川県立音楽堂(※ホール音響ナビはこちら)で東大生産技術研究所 渡辺要研究室 石井聖光氏の仕事が注目されてきてからである。

もちろんこれ以前にも日本の音響建築学の草分け的存在の佐藤武夫先生が設計グループに参加した1927年の作品早稲田大学大隈記念講堂(※ホール音響ナビはこちら)などの作品もあるが、前面に音響設計が登場したのは神奈川県立音楽堂がはじめてであろう。

東京文化会館

1960年代にはいり東京文化会館が 日本放送協会技術研究所(NHK放送技研)が音響設計で1/30スケールモデル実験による、監修・技術協力を行い、音響設計が注目されだしてきた。

そして1972年のNHKホール設計時における重要な役割を担うようになるわけである。

エポックメイキング的存在 ザ・シンフォニーホール の登場!

そしてニューウェーブ・シューボックス型コンサート専用ホールとして「1982年に日本国内最古?」を誇る「元祖シューボックス型コンサートホール」ザ・シンフォニーホール(※ホール音響ナビはこちら)の登場となるわけである。

この時は、大成建設、石井聖光氏の共同チームを率い某在阪放送局社長が団長となり欧州の有名ホールの数々を視察・調査し数多くのデータを集め、帰国後に石井聖光氏のチームがデータを解析し1/30スケールモデル実験を繰り返し、細部のディティールデザインを詰めていった。

当時コンピューターはまだスパコン・ミニコンの時代であり、CADによる作図もまだまだ一般化していない時代、ましてや現在の様な汎用音響解析ソフト(アルゴリズム)もない時代に、スケールモデル実験を主体に、試行錯誤の末に完成したのが、ザ・シンフォニーホールである。

音の良いホール の条件 「 残響2秒以上 」 は在阪某放送局によって「捏造された都市伝説」に過ぎない

別項『都市伝説 音の良いホール の条件 「 残響2秒以上 」 は本当か?』でも記したように、この時目標に掲げられた「 残響2秒以上 」は根拠に乏しいい数値であり、石井聖光先生はクライアント(当時の朝日放送社長)に「2秒以下!」を進言したらしいが「泣く子とクライアントには勝てず」「 残響2秒以上 」を主張したクライアントに押し切られたらしい。

その後この某放送局が大キャンペーンを行いこの放送局によって、でっち上げられた 『音の良いホール の条件、残響2秒異常? 』が都市伝説 として定着したというわけである。

この放送局はその後何度も「やらせ問題」を起こしている事でも有名な放送局でもある。

※「ザシンフォニーホール誕生裏話」に関連する「日本音響学会誌」(2011年67巻2号)への寄稿記事はこちら(P94最後部からP95にかけての数行参照) 

エコー信奉の功罪!

この成功以来、それまでに確立されてきた数多くのノウハウ「芸術ホールの設計セオリー」(※1)を陰に追いやり、都市伝説・「残響2秒以上」が一人歩きしてしまい、後のホールデザインにおける「足かせ」の一つになってしまったのも事実である。

定在波対策が軽んじられる最近の嘆かわしい風潮

佐藤武夫先生が確立し面々と受けつがれてきた定在波対策(※3)が軽んじられ,「エコーさえかかっていれば"どんな代物"でも良い」という「エコー信奉」が幅を利かすようになったのは誠に嘆かわしい限りではある。

第2章西洋からもたらされた"RT60残響測定法"

現在「金科玉条」のごとくもてはやされいる"RT60残響測定法"(※4)によるデータの矛盾については昨年のコラム【都市伝説・良いホールの条件「残響2秒以上」は本当か?】に詳述したのでそちらをが参照願うとして。

本項ではそれに代わる「測定法のアイデア」をご披露したい。

新たな測定法のアイデア

1/30スケールモデル実験の限界

前途、石井聖光先生の功績で一般に広まった1/30スケールモデル実験であるが、当時の珍奇な音響機器・測定機器では限界があるのは目に見えていた。

1/30ということは、時間軸も1/30になるわけで、可聴帯域20Hz ~20KHzをカバーしようとなると、波長で1/30すなわち周波数に換算すると、30倍の600Hz~600KHz、に相当し、一般的な音響機器の周波数帯域20KHzの壁を遥かに越えたウルトラハイレゾ、超音波領域(小生本来の専門分野)である。

しかも厄介なことに空気中を伝える「エアボーン」と呼ばれる20KHz~ 500KHzの分野では、河川の自動水位計測に用いられている液面計や「カントリー・エレベーター」(※)で用いられている粉体レベル計、自動車衝突防止用車間レーダーぐらいしか実用化されておらず、ほとんどのトランスデューサー(スピーカーに相当する発信子とマイクロフォンに相当する受信子)は単一周波数専用で、単一周波数のトーンバースト波には対応できても、広帯域なパルス波や、ピンクノイズ(※)には「いまだに対応できない」のが実情である。

コンピューターシュミレーションの発達

そこでモデル実験に代わり、発達したのがコンピューターによる数値シュミレーションと、イメージング技術(映像化処理技術)とを組み合わせた画像解析シュミレーション技術である。

ご存知の通り今やパソコンは1980年代のベビコン・スパコンを凌ぐほどの処理能力を持っており、音響解析アルゴリズム(計算手法)も確立され必要詳細サイズのデータもCADデータと連携しており、何処を、どういじれば(修正すれば)、どうなるのかが簡単に解るようになった。

コンピューターシュミレーションの落とし穴

但し落とし穴も遭って、周波数解析データエリアを「可聴帯域内」に設定すると(FFTアルゴリズムの都合上、周波数はある程度フィルタリングしなければならない)、重大な障害を見落とすこともありうる!

つまりは経験(データ)豊富な人間の感ピューター(脳みそ)にはまだまだ及ばないわけである。

"RT60残響測定法"が全ての音響特性を表すものではない!

"RT60残響測定法"はあくまでも残響測定の一手法であって、全てのホール音響特性を表すものではない!

周波数特性

現在"RT60残響測定法にこだわるあまり、その採取データを周波数分析(FFT解析)し周波数解析と称しているが、この手法では多くの問題を抱えることになる。

測定スポット(エリア)の問題

現在行われているのはホールすべてのエリアではなく、(デザイナーに都合の良い?)特定エリアの特定スポットだけに測定点を絞り、しかも床面からの高さも実際の聴取高さ(耳の位置)からはかけ離れている!

提案その1 ピンクノイズによる周波数特性測定

そこで測定法としては医学実習などで用いる精密人体ダミーモデルに着服させ、頭部は高性能マイクロフォンを仕込んだダミーヘッドにすげ替え、実際に着座させて、(クライアントとデザイナーには都合がわるくても)我々一般聴衆が知りたい、ホール側壁間際、ホール中央、各フロアー大向うなどの問題発生が多いエリアで多くのサンプリングデータ(と言っても限度がああるが)を取り、コンピューターシュミレーション結果と照合しフロアー全面のマッピングデータを作成し公開データ(完工検査データ)とすべきである。

周波数特性測定の必要性

周波数特性は定在波の影響を最も受けやすい項目なので、絶対不可欠ではある。

前途した人体ダミーマイクを用い、高性能シングルコーンフルレンジスピーカー(※5)か、できればビクターの球形スピーカー(※6)のような疑似無指向性スピーカーをステージの多数ポイント(前面数か所、中央部数箇所、後部反響板際数か所)に移動させて、「ピンクノイズ」を再生し、ホール内の客席各部での周波数特性をサンプリング調査する。

測定レンジ
1)100Hz~25KHz の中低音域から可聴周波数外の超高音域

理由;20KHz以上の可聴帯域外の超音波領域も全く聞こえないわけではなく、可聴帯域ないのトランジェント全般に影響し人間の脳内音色マッピング(楽器識別や微妙音色の変化識別)に影響するため重要である。

さらには事項の残響特性とも絡み、「奏者の定位」識別にも影響している。

2)20Hz~120Hz程度の重低音域域測定

重低音域は定在波発生の有無を確かめるには最適の周波数レンジでもあり密閉型のスパーウーファー※を用い定在波障害の発生しやすい20Hz~120Hz程度の重低音域を測定する必要がある。

※フルレンジスピーカーでは100Hz以下の再生は難しく、しかも、時間軸測定なので、応答性が大事になり、共振域f0(共振点)以下の帯域では位相特性が乱れるフルレンジスピーカーによる低音再生では正確な測定が困難になる。

しかし密閉タイプのスパーウーファーではf0以下は音響的にダンプされ、大出力Ampで駆動し位相回転(位相変化)を補償しているので発音体としては自然である。

単に定在波の確認だけであれば、バスドラムの打撃音でも代用できる

バスドラムの生音を無響室で測定(録音)しておき、実際にホール客席各部で収録したハイレゾ録音データの周波数分析(FFT)結果と比較する。

定在波が発生していれば、測定ポイントによる周波数特性に乱れが見られそのことで定在波有無が判断できる。

映像化(画像処理)手法

明度と彩度をそれぞれ、音圧軸(縦軸)と周波数軸(横軸)に取った、マトリクスマッピングを行い、フロアー平面分布に3次元マッピングすれば、周波数特性の乱れが一目瞭然に映像化できる。

現状RT100位なら現状でも実測可能?

ホールの実測データにおいては、現状RT100(-100db)程度なら現状のハイレゾ機器でも対応可能なので、今後はその方向に進むべきであろう。

最も実測しなくても、残響特性(減衰特性)は「すべてシュミレーションで解析できる」としている識者もいるが...。

2)バースト波によるRT100db時間測定

これが結構厄介そうだが、ハイレゾ・フルレンジスピーカーを用い、高性能マイクロフォンで、現状の220Hz(※a)ぐらいから25KHz位までの倍音列バースト波(※b)による反響波(残響)測定を行う。

※a) 応答性と周波数特性の問題で

※b)バースト波を使用する理由は、直接音とエコーの区別をつけやすくするするためである。(ソナー、魚探と同じ理由)

※C)インパルス法として一部で実用化されている。

測定周波数範囲の理由

220Hz以下ではフルレンジスピーカーの周波数特性そのもののみだれの影響が出やすい為。

エピローグ

以上の実測を行えばデータ比較でホールの良し悪しが明確に暴き出され、ある程度の音響知識を持ったアマチュアであれば「ホールの自画自賛キャッチコピー」に翻弄されずに済むと思う。

※参照覧

※1、関連解説記事「芸術ホール設計のセオリーとは?」はこちら。

※2関連記事 都市伝説・良いホールの条件「残響2秒以上」は本当か?はこちら。

※3、定在波の悪影響に関する解説記事はこちら。

※4、直接音、初期反射音、残響音についての(株)エー・アール・アイさんの解説はこちら。

※5何故フルレンジスピーカー・ベースのSPシステムが良いのか?はこちら

※6 ビクター球形スピーカー に関するAVウォッチの記事はこちら。

公開:2018年8月25日
更新:2018年10月11日

投稿者:デジタヌ

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