音楽・演劇・便利帳

音の良いホールの条件

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始めに

1982年にザ・シンフォニーホール(※ホールナビはこちら)が誕生して以来、残響時間2秒以上(※1)が良いホールの条件として もてはやされ、今や「都市伝説」(※2)とまで化しているがこれは完全に誤解である!

音の良いホールの定義

音の良いホールの定義とは、何処に座っても(全ての座席で)「周波数特性が平坦」な余分な付加物の無い「トランジェントの良い」「生楽器の音」が「明確な定位」で鑑賞できるホールである。

条件その1;定在波障害が無いこと!

定在波障害はどんな時に発生するか

定在波(※3)とは、解りやすく言えば2枚の並行した鏡の間に縦った時に建った時に、自分の虚像が、無限に続くのと似ている、音も光同様に入社角と反射角は等しいので、両側壁が並行している場所では、両側壁間で定在波が発生しやすい。

シューボックス型ホールで発生しやすい

つまり今を時めく「シューボックスホール」は基本的に並行する対抗面が多く前後左右のX・Y軸場合によっては上下Z軸すべての方向で定在波が発生しやすいデザインであると言える。

定在波で起こる障害とは

周波数特性のうねり

分かりやすく言えば、「楽器の音色が変化」すること。

真近で聞こえた「生楽器の音色」がホール隅々まで「変化しないで行き渡り」、どこで聞いてもスタインウェイはスタインウェイ、ベーゼンドルファーはベーゼンドルファーの音色が聞こえて来なければならない。

※3の解説通り、定在波障害エリア全体(導波域)では進行波と反射波の干渉が起こり、特定の周波数域において周波数特性のうねり(山・谷)が生じ、生楽器の音色が変化してしまう!

定在波による障害が引き起こす2つの現象

ミステリースポットの発生

ミステリースポット(※4)とは完全に特定周波数の音が消失してしまい、極端な場合は、特定楽器、特定パート全体が聞こえなくなってしまうエリアのこと。

概ね、完全並行壁面の両側壁近傍とホール中央部で発生する重大音響障害!

症例

ステージ上で特定パートの音が聞こえてこなくなった症例として改修以前のかつての旧・あおいホール(※ガイド記事はこちら)があげられる。

幽霊楽器の発生!

前々項で述べた通り、周波数特性のうねりにより、音色が変化し、「幽霊楽器」が現れる。

症例

弦楽四重奏のはずなのに「ホルンの音が聞こえてくる」草津音楽の森国際コンサートホール等。(※ガイド記事はこちら)

上質なホールで行われている封じ込め作戦の数々

対抗する壁面が並行していなければ発生しない!

対策1、扇形(台形)ホールにして並行面をなくす

昔ながらの「扇形ホール」台形ホールは基本的に対抗する平行面が限られている。

対策2、壁面をスラント(傾斜)させる

基本的に並行する対抗面の多い「シューボックスホール」の場合は、壁面を外反(外傾)or内傾させて、対抗壁面との平行をキャンセルさせる。

対策3、へきめんにアンギュレーション(屈曲)を持たせる

つまり屏風のように、折れ曲がった壁面を用いると対抗する並行面をキャンセルできる。

対策4、客席スロープを上手に使う

客席スロープは、天井と床面で発生する垂直定在波のみならずステージホリゾント反響板と、大向う壁面との間で生じるホール軸方向の定在波発生を阻止する有効な手段であり、完全に並行する「対抗壁面の対」を多数持つ「正多角形」を採用した多角堂には必須の手段でもある。

対策5、客席を扇形段床上に配置する

客席を扇形の段床に配置すると、客席中央部にはすり鉢状の「谷間」が生じ着席状態の「耳元の高さ」では定在波は発生しない!

客席配置を扇型に配置した上質のシューボックスホールは全国にたくさん見られる。

但し、フロアー面から高さ1.8m程度の周囲の壁面は、前途した、「スラント」か「アンギュレーション」を併用しないと、両側壁間際では定在波の「節」が発生し前途の障害が現れる。

定在波対策の好例2例

2013年開館496席「新潟市秋葉区文化会館」

(※ホールNaviはこちら)

ホール内至る所から「対抗する並行面」を無くしたアバンギャルドな近未来デザインのホール。

1998年開館不二羽島文化センター

(※ホールNaviはこちら)

 1,290席/スカイホール&384席/みのぎくホール 両ホール共に、アンギュレーション壁と、扇形段床配列客席で定在波に対して「鉄壁」の備えをしている。

その2;初期反射の影響が少ないこと

1)側壁の壁面反射による定位障害!

初期反響(※1)の障害で最も大きな問題は、各楽器のステージ上の「見かけ上の配置」と、聴取位置での「音像定位」が一致しなくなる現象である。

この現象は初期反射の強い「壁際席」で発生しやすく、音響インピーダンス(※5)の小さい軟質・軽量の木質壁より硬質・重量の石質壁材で強く発生し最悪の場合、オーディエンスに「ホール酔い」(※6)症状が発生したりする。

したがって通路・もしくは1m以上の間隙を空けるべきである。

2)その他 大向う席・低天井の場合

大向うの壁面

大向う席も同様で、いくらうまく対策(アンギュレーション(折り曲げ)音響格子・音響ネット表装の吸音壁)してあっても、前期同様に1m以上は間隔を空けたい!

つまり大向うは・「通路もしくは立見席」とし座席を壁際まで詰め込むエリアではない!

低い天井

レビュー・ショー専用劇場、旧来の映画館のように上層部フロアーのオーバーラップの大きいホール、つまり上層部のバルコニーがメインフロアーに大きく覆いかぶさっているデザインのホール(※旧フェスティバルホールなど)では天井が迫っているエリアが増え、天井からの反響で音像がボヤケたりする。

天井高さは最低3mは必要で、3m以下の部分は低天井障害エリアに当たる。

初期反響エコーの実障害

2)ホール酔い現象

「視覚上」のロケーションと「聴覚上」のロケーションとの不一致によって発生する症状をホール酔い現象(※6)という。

別名「湯あたり」になぞらへ「音あたり」とも呼ばれる症状で、長時間 聴取していると最悪は「めまい」「吐き気」等の症状

が伴う場合もある。

事実小生は「音響過敏なので」石壁ホールの真近の席で体験したことがあり、コンサート前半1部が終わった時点で応報の体でその場を去ったことがあった。

3)視覚障害者にとっては恐怖感にもつながる!

視覚障害者の方は、聴覚に頼らざくを得づ、イルカ同様に脳内でイメージ処理をし「方向性=定位」を決定している。

ところが、初期反射を含む過剰な残響(2秒以上)の部屋に、視覚障害者の方が長時間にわたって滞在すると方向感覚が狂わされ、「銭湯の洗い場で感ずる違和感」と同じ感覚に苛まれ続けた結果「恐怖感」がうまれたりする。!

その3;客席配置で発生する障害

1)見通し不良(眺望不良)

ステージ直近の平土間部分で起こりやすく、単に視覚的な見通し不良だけでなく、前席の観客の頭部で発生する「音場」の乱れで音響的にも問題が生じる。

解決策としては座席を千鳥配列にするのが有効で、多くの優良ホールで用いられている。

2)音響障害と客席配置

定在波障害対策配置

オーチャードホール(※ガイド記事はこちら)などでも実施されているが、シューボックスホールで定在波障害の最も発生しやすいホール後半両側壁近傍には通路を配置し、ミステリースポットとなる中央部分にも席を設けずに通路とし障害部分(定在波の節)を回避して座席を配置する手法。

壁面障害対策配置

ズバリ、壁際は神様(観客)の通り道であり「音の通り道」ではない!

したがって通路にするか、壁面と座席の間に最低でも70㎝以上の間隙を空ける必要がある。

大向う(&サイドテラス)も同様に、通路、立見席とし座席と壁面との間は最低1.2m以上は間隙は必要である。

天井反響障害対策配置

前項で述べた通り、天井高さは(フロアー・テラス付け根で)最低3mは必要で、しかもダクト効果で共鳴が発生しないように、ホール軸方向断面形状(前方に向かて広がる)にも配慮する必要がある。

その4;最後のお化粧としての後期残響付加

最初に述べた通り残響はあくまでも「音響のお化粧」にしかすぎず、今まで述べた対策を講じた「ホール基本デザイン」に付加するだけの要素にしか過ぎない!

例えば各地にある野外音楽堂(※各地の野外ステージガイド/ホールガイドはこちら)は周囲開放型か若しくは「すり鉢状・扇型配置のスタンド配置」の開放型施設(天井の無い施設)なので対抗する並行面が無い代わりに周囲の壁による「残響のお化粧」も期待できない施設だが、余分な反響の無い「素直な音響特性」を持つ優れた「野音」が多い!

後期残響は音の散乱反射によって生まれる

ホール側壁、天井反響板に反射し直接耳に飛び込む初期反射波はエコー(山彦)と呼ばれる、ディレー(時間差)を持った原音に近い波形であるが、後期残響と呼ばれる反射音は、1次反響の後にホールの内部の壁面、テラス、出入口カット部、窓の段差、天井の段差部分などで散乱反射を繰り返し、「余韻」として残る響である。

上層部で屈曲し凸出した側壁、装飾柱、装飾梁、テラス(ダミーを含む)、装飾窓、これらの内装の散乱多重反射効果で「後期残響」が生まれる!

レガシーホールにみる音響散乱要素

西洋の有名レガシーホール・オペラハウスにみられる、ギリシャ神殿様式に範をとったエンタシスの柱、上部の梁を支える部分に設えられた台座、や彫像、テラス、などは散乱効果があり音響拡散体の一種としてとらえることができる。

また日本の伝統的公民館によく見かける、柱と天井梁の接続部にあるガセット(補強板・アングル・梁)や伝統的芝居小屋にみられる折り上げ組格子天井や桟敷柱、柵、明り取り窓の窓枠など全て散乱効果が優れている設えである。

音響拡散体の例

最近では、壁面に異形材を装着し「音響拡散体」とはっきりと標榜しているホールも見かけるようになってきた。

最近の流行要素

最近のモダンホールではプロセニアムサイド照明コラムにフード(囲い)を設けずにむき出しのまま設置したり、天井照明ブリッジも下面だけ反響板で覆い、ブリッジ構造は剥き出しのまま天井に設置し音響拡散効果を狙ったデザインが増えている。

またキャットウォーク・テラス(犬走り)を設けたり、天井反響板を設置せずに、構造体(屋根を支える梁・補強梁などのトラス構造物)を露出させ、グリル(格子&ネット)で天井を表装?する手法も良く用いられるようになってきた。

蛇足理想のリスニング環境とは?

林に囲まれた「野音」

小生の描く理想の「コンサート会場」とは針葉樹の森林に囲まれた「野音」である。

高さ20m以上の樹林の中に直径20mほどの空き地を造り、上質の木製チェアーを並べ、後背反響板だけのウッドデッキ・ステージで奏でられる「ベーゼンドルファー」の「真の音色」を聞いてみたい。

まさしく「青天井」で天井と床との定在波も無ければ、しかも周囲は樹林なので、耳障りな初期反射エコーも少なく(ほとんどない)、回りのランダムな配置の樹木の枝が音響拡散体となり素晴らしい「余韻」にしたれるであろう!

但し、頭上に航空路が無いことが「野音の条件」でもあり、アクセスの必要上、周囲に駐車場もj必要であろうが、北海道あたりなら「野音」敷地から100mぐらいの樹林帯(防音林)を残し周囲に円盤状の駐車帯を設けることも可能であろう!

何処かの自治体が町おこしで造ってみてくれないものであろうか?

参照覧

※1、直接音、初期反射音、残響音についての(株)エー・アール・アイさんの解説はこちら。

※2、「都市伝説・良いホールの条件"残響2秒以上"は本当か?」はこちら

※3-1、定在波の悪影響に関する一般人向けnatuch音響さんの解説記事はこちら

※3-2、定在波に関するWikipediaの(技術者向け)解説はこちら。

※4、ミステリースポットに関する解説はこちら。

※5、音の反射に関する関連記事はこちら。

※6、「ホール酔い」に関する関連記事はこちら

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公開:2018年8月 8日
更新:2018年10月 7日

投稿者:デジタヌ

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