狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

倉敷市芸文館 《ホール音響Navi》

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倉敷音楽祭で有名な音楽・藝術の町 倉敷にあるホール

「方形ホールフェチ?」の倉敷市が建設した「倉敷市芸文館」。

倉敷美観地区の南に隣接してバブル崩壊後の1993年(平成5年)に建てられた施設。

大ホール、アイシアター、会議室、和室、練習室、等を備えた複合文化施設。大山康晴名人の記念館を併設し、周辺は都市型公園として整備され市民の憩いの場となっている。

倉敷市芸文館のあらまし

倉敷美観地区の南に隣接してバブル崩壊後の1993年(平成5年)に建てられた施設。

大ホール、アイシアター、会議室、和室、練習室、等を備えた複合文化施設。

大山康晴名人の記念館を併設し、周辺は都市型公園として整備され市民の憩いの場となっている。

倉敷市芸文館のロケーション

ところ  岡山県倉敷市中央1-18-1

倉敷駅前から倉敷中央通りを約800m南へ下った、中央1丁目交差点からすぐ、倉敷美観地区の前を流れる堀割に面して佇んでいる。

正面には岡山大学植物科学研究所が、南隣りには倉敷西小学校が、堀割を北に辿ると県道22号線を挟んで大原美術館や倉敷民芸館のある倉敷美観地区や倉敷アイビースクウェアがある本町地区の街並みが拡がっている。

倉敷市芸文館へのアクセス

最寄りの駅 「中央2丁目」バス停

倉敷市芸文館の施設データ
  1. 所属施設/所有者 倉敷市芸文館/倉敷市。
  2. 指定管理者/運営団体 財団法人倉敷市文化振興財団/倉敷市。
  3. 竣工    1993年8月
館内付属施設 

倉敷市芸文館の音響デザイン

(詳しくはこちら公式ページ)

※ご注意;以下※印は当サイト内の関連記事リンクです。
但し、その他のリンクは施設運営者・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

(公式ガイドこちら。)

変形8角形1スロープ2フロアーの多目的ホール

1階フロアーは変形6角型、そこに逆向きの変形6角型の2階フロアーを重ね、ステージ反響板は1階席側壁と連なる形なので全体では「変形の8角堂」(※10)となっている。

2階席はホール後方のバルコニー席の両翼から左右にサイドテラスが伸びメインフロアー両側壁まで5面に渡ってテラス席が設けてある。

参※10)当サイト関連記事 多角堂の持つ魔性!はこちら。

内壁面の設え

客席周囲壁面は当時流行っていた、「煉瓦積み」風の軟質タイル張りで表装してあるいわゆるエコールーム擬き(※11)仕様。

※11、エコールームに関する「音工房Z」さんの解説記事はこちら。※本物のエコールームでは定在波対策(平行壁面対策)はしっかり施されています。

凄まじい壁面反射音!

当ホールでは初期反響音(※12)対策として壁際から約半席分程度の間隔をあけて設置されているが、経験上この程度では硬質壁材による音響障害は回避できない!(※他ホールでの実体験レポートはこちら

最低でも約2席分1.2m以上は離さないと、物凄い反響音で方向感覚がおかしくなり「ホール酔い」(※13)を起こしてしまう。

更にタイル張りは「剥落事故」(※14)などによる危険性も大きい。

参※12)当サイト関連記事 ホールでの過大な初期反射による音響障害はこちら。

参※13)当サイト関連記事 過剰なエコーが引き起こす「恐怖感」と「ホール酔い」はこちら。

※14、2018年の北大阪震災では、高槻芸術劇場で実際に「内壁タイル剥落」が発生し、休館に追い込まれている。

木質プロセニアム

サイドプロセニアムとステージ反響板は木質パネルを用いている。

ステージ反響板と天井

ステージサイド反響板は横方向にアンギュレーションを持たせた集積材パネルを使用し、上面反響板は木製の凸形状の曲面反響板となっている。

尚後方反響板と、客席大向う背後壁は対抗する並行面であるが縦方向にアンギュレーションを持たせて定在波(※15)の発生を封じている。

プロセニアム上方前縁にはステージ上方反響板と滑らかに繋がる様にプラスターボード製(※16)の大型のコーナー反響板が設置されている。

ホール天井は周辺壁面から折れ上がった構造のプラスターボード製の大型コーナー反響板と波状の天井反響板で構成されている。

参※15)当サイト関連記事 定在波とははこちら。

※16、アクリルエマルションペイント仕上げのプラスターボードについての建材メーカーの解説記事はこちら

プレーンで垂直な完全並行のホール硬質側壁!

問題は両サイドの側壁で、この部分は完全に並行しており定在波の"温床"となっている!

1階メインフロアーのこの部分で幅約25.5m基本定在波周波数にして約13Hz、巾約27mの2階サイドテラス部分では約12Hzの定在波が生じやすい。

扇形段床配列座席による障害回避策

定在波障害回避策は疑似扇形段床配列座席(※17)による方形ホールの定番手法を用いているが、最後尾21列座席は同一平面状となるために、この手法だけでは定在波被害は回避できない!

何れも可聴帯域外の重低音振動とはいえ、周波数特性の乱れによるミステリースポット(※18)などの直接被害も生じる。

参※17)当サイト関連記事 扇状段床座席を用いたホール横断定在波の障害回避策はこちら。

参※18)当サイト関連記事 定在波で起こる音響障害『ミステリーゾーン』とははこちら。

想定される定在波と定在波障害回避策評価について

間口方向定在波
1Fメインフロア平行壁部分
  • メインフロアー側壁間約25.3m;約13.8Hz/1λ、約20.7Hz/1.5λ、
  • ※両側壁の表面凹凸処理で高次定在波抑制?
  • ※両側壁際間隙配置で定在波「節部」を回避。
  • ※ハノ字段床配列座席で定在波層を回避。

2Fバルコニー・テラス部平行壁部分
  • バルコニー部約30.5m;約11.4Hz/1λ、
  • サイドテラス部約26.7m;約13Hz/1λ、約19.6Hz/1.5λ、約26.1Hz/2λ
  • ※両側壁の表面凹凸処理で高次定在波抑制?
  • ※両側壁際間隙配置で定在波「節部」を回避。
  • ※ハノ字段床配列座席で定在波層を回避。
最大奥行き方向
1F(ステージホリゾント反響板→1F大向こう壁面)
  • 最大奥行き約31.2m;約11.2Hz/1λ、

  • ※高次定在波はステージ反響板のアンギュレーションと、大向こう背後壁面処理(音響ネット表装遮音壁)で抑制。
2F(プロセニアム前縁→2階大向こう壁面)
  • ※プロセニアム前縁コーナー反響板で平行面をキャンセルし、定在波を抑止。
ステージ床面&・平土間床→天井最高部高さ方向
  • ※高次定在波はプロセニアム前縁コーナー反響板で抑制

赤字は可聴音域内重低音。

定在波の被害状況

完全平行壁部分は「壁面間隔20m超」のセオリー(※19)で1波長定在波の周波数を可聴帯域外の低周波振動に追いだしているので、実障害席は"0査定"とし更にハノ字段床で定在波層を回避?し、壁際の間隙で定在波の節目も回避?しているようなので、基礎点は50点据え置きとした。但し2階サイドテラス席では高次定在波が生じている可能性があり障害エリアは両サイド併せてー2点とした。

参※19)当サイト関連記事 「壁面間隔20m超」のセオリーはこちら。

丁寧な設えの部分も

テラス席前縁は木質の立て格子で表装されている。

総評

ホール客席の過半数を取り巻く軟質タイル張りの硬質垂直完全並行壁は予想以上に実被害が大きい!

永続使用を考えているなら早急に改修すべし!1993年当時の市の建築課施設担当者は責任物!

デジタヌの独り言

壁面は硬質のタイル張りが基本、1階は客席背面を・2階バルコニー席背面は3面を取り囲んだ形で小ホール同様の吸音スクリーンが設置されているが、...

バルコニー&テラスの形状、前面ガードへの縦格子表装、円柱の露出、段付き折上げた緩やかなカーブ―の凸型天井等の音響拡散体(※191)でたっぷりと残響(※192)の厚化粧をなさっているようだが、8角堂のほおばった素顔ではネ...。

参※191)当サイト関連記事 音響拡散処理と音響拡散体となる要素はこちら。

参※192)当サイト関連記事 「エコー」と「後期残響」は別物はこちら。

今後の改修に期待

とは言っても、「できた子供とホール?」は育てなければならない!

そこで、差し迫った問題としての重低音(低周波振動)障害対策として、21列の両側壁をホール出入口ドアぎりぎりまで使って「面取り」壁を追加する。

2階席サイドテラス席背後壁面は、斜め配列座席の隙間?を利用して、山形パネルを追加しアンギュレーション(屈曲)処理を施す

出来れば各フロアー床面から1.8m高さの範囲内でよいから、最新の木質グルービングパネル(※193)の内傾スラント設置に換装すべきである。

尚改修に当たっては、この手の「出来損ないホール」の改修に経験豊富なYAMAHAさんに相談すべし!(※関連記事、預言者YAMAHA現るはこちら

まちがってもN田音響を頼らぬように!

参※193)当サイト関連記事 1/4波長程度の「グルービング(溝)加工」をほどこした壁面用パネル の効果はこちら。

壁面パネル換装・改装時の留意点

出来れば両サイド20席(1番&42番席)は撤去し、「床面から高さ1.8m」のパネルを内傾スラント設置すること!

人の座っていない空間領域(1m以上の上空)の壁面を内傾させても意味(耳が?)が無い!

ホール音響評価点:得点75点/100点満点中

※885席(車椅子6台分含む)のコンサートホールとしての評価

§1 定在波」対策評価;得点48点/配点50点
  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価する。
  • ※客席側壁が ホール床面積の1/3以上に及ぶ範囲を「完全平行な平面壁」で囲まれているときには 配点25点に減ずる。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§2 残響その1 「初期反射」軽減対策評価;得点10点/配点25点
  • 木質パネル等の素材基礎点25点から硬質壁材基礎点12点の間5段階で素材基礎点を与える。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて基礎点とする。
  • 基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§3 「音響障害と客席配置」に対する配慮評価;得点14点/配点20点
  • ※壁際通路&大向こう通路の有無、天井高さ&バルコニー・テラス部の軒先高さ、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で配点から減じて基礎点とする。
  • ※基礎点に障害エリア客席数比率を乗じて算出する
§4 残響その2「後期残響」への配慮評価得点3点/配点上限5
  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価。
  • ※上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

※音響評価ポイント詳細は「"ホール音響ナビ"に用いた用いた評価法とは」をご参照ください。

算出に用いた値;

定在波評価

基礎点B1=配点50点ー障害発生エリア数2=48点

定在波障害顕著席数;0?席

初期反射対策評価

※プレーンな軟質窯業材使用のため基礎点16点とした。

基礎点B2=素材基礎点16点ー障害発生エリア数5=11点

初期反射障害1壁面障害 54席(36席/1階4列~21列両脇、10席/2Fサイドテラス席、8席/2階大向う25列21~28番席)

初期反射障害2 天井高さ不足 8席(4席/1階大向う21列両脇、4席/2階脇バルコニー24列1・2・47・48番席)

重複カウント ;ー0席

音響障害席総計;62席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数5=15点

眺望不良席数;0席/1F平土間中央部座席千鳥配列済

音響不良席その1;定在波障害顕著席0?席

音響不良席その2 ;初期反射障害1壁面障害 54席

音響不良席その3 ;初期反射障害2 天井高さ不足 8席

重複カウント ;ー0席

音響障害席総計;62席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

ホールの施設データ

ホール様式 

プロセニアム型式「8角堂」多目的ホール。

客席   

2層1バルコニー)885席(車椅子席6席含む)

1F:791席 2F:94席

可動床、1階平土間中央部千鳥配列、

舞台設備 

巾約36mx約18m 約2面舞台相当、プロセニアムアーチ:間口16m、高さ10m、奥行18m、ブドウ棚(すのこ)、バトン類、道具迫り、仮設脇花道、仮設能舞台セット、鳥屋囲い、金屏風、松羽目、反響板、オーケストラピット&エプロンステージ迫り(可動床客席収納)、

その他の設備 、

楽屋x7(主催者控室含む)、ロビー、ラウンジ

各種図面,備品リスト&料金表

倉敷市芸文館大ホールがお得意のジャンル

Official Website  http://www.kcpf.or.jp/geibun/

倉敷音楽祭

大ホールが倉敷市民会館(※ホールナビはこちら)と並んで、倉敷音楽祭(※フェスティバルナビはこちら)のメイン会場の1つになっている。

舞台演劇以外にも、ソリストのリサイタル、アンサンブルの演奏会等、小編成の室内楽コンサートなどが行われ、ミュージカル、Jポップ関係のコンサートや、往年のアイドル・エンタテイナーのワンマンショウ、ジャズコンサート、歌謡ショー、懐メロ歌手の歌謡ショー、有名タレントの座長ショー、現代演劇、伝統芸能、落語・演芸寄席、大道芸、パフォーマンス・ショー等ジャンルに拘らない幅広い演目でこのエリアの多くの人達に受けいれられている。

またプロ演奏団体、以外にも数多くのアマチュア団体が利用している。

倉敷市芸文館の公演チケット情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら。

アイシアターの音響デザイン

(公式ガイドこちら。)

間口14,7m奥行き15.6m床面積234.89㎡(約142畳)のほぼ正方形をしたフローリング仕上げの平土間イベントスペース。

正方形の1面(入り口ドアーの対抗面)コーナーを大きく(約巾4m)面取りしてあり、変形6角型ともいえなくもない。

フローリングの床で、バトン類を備えており、ひな壇(架設ステージ)とパイプ椅子を並べて「オープンステージの小ホール」として使用されている。

照明スタッフ用「変形8角型」のキャットウォーク(犬走)(※21)が2階相当部分に巡らされている。

低層部周辺壁面は音響スクリーンで表装した吸音壁、

上層部はコーナー部分を面取りした変形8角型で塗装仕上げした一般建築用の石膏ボードで表装されている。

天井は剥き出しの照明用設備グリッド(ブリッジ)を吊した流行のデザイン。

※21、キャットウォークについてのWikipediaの解説はこちら

総評

客席周辺壁面は吸音スクリーンが張り巡らせてあるようだが、

壁面スラント処置、音響拡散処理などは皆無!で相当ワンワンうるさいホールではあろう。

ホール音響評価点:52点

内訳

定在波対策評価点:10点/40点満点(※客席周辺が平行したプレーンな面を持つ垂直壁はx0.5=20点が持ち点と成ります)

残響その1(初期反射)対策評価点:10点/20点満点(※客先周辺石材壁の場合はx0.5=10点が持ち点と成ります)

残響その2(後期残響)への配慮評価点:12点/20点満点

客席配置 20点/20点満点(※客席周辺石材壁の場合はx0.8=16点が持ち点と成ります。)

アイシアターの施設データ

  1. ホール様式 平土間・方形多目的イベントスペース。間口14,7m奥行き15.6m床面積234.89㎡天井高さ約6m
  2. 客席   1フロアー 収容人員 200名、
  3. 舞台設備 オープンステージ形式(7.2m×4.8m)、
  4. その他の設備、更衣室x2、シャワー室(別料金)ロビー、他
各種・図面・備品リスト&料金表

アイシアターがお得意のジャンル

主にセミナー、講演会、市民団体の集会、お稽古事の発表会などに用いられ、ジャズコンサート、小編成バンド、のコンサートや落語・演芸寄席、大道芸、パフォーマンスショーなどジャンルに拘らないバラエティーに富んだ催しが行われている。

アイシアターで催されるコンサート情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら。

付属施設の音響デザイン

練習室

公式ガイドはこちら

1993年開館当時としては、立派な練習室2室を備えている。

幅約9.5mx奥行約9.5m床面積92.97㎡(約56畳)天井高さ約4.8mの第1練習室は2階吹き抜けの天井の高い構造で、1面がバレエ・ダンス練習用手摺り付きの鏡張り(カーテン装備)、壁面はアンギュレーションを持たせた石膏ボード(部分級音構造)天井はプラスターボードの反響板というリハーサルにも使えそうな立派な施設である。

幅約8.5mx奥行き約7.3高さ2.9m床面積66.88㎡(約40畳)の第2練習室も天井は低いが同様の立派な設え。

ルーム音響評価点:(両室共に)96点

内訳

定在波対策評価点:48点/50点満点(ルーム低層部に1対以上の並行したプレーンな垂直壁がある場合は持ち点はx0.5=25点と成ります)

残響その1(初期反射)対策評価点:48点/50点満点(ルーム低層部3面以上がプレーンな垂直壁の場合は持ち点はx0.5=25点と成ります)

豆知識

「方形フェチ」の巣窟、倉敷市本家・施設課

大・小両ホールとも「ホウケイ!」、倉敷本家・施設課は「方形フェチ」の巣窟では有るまいか?

色んな工夫はしてある様だが、何故に施工が面倒な「ホウケイ8角堂に拘る」のか?理解に苦しむ!

「夢殿」に憧れる前に、もっと「ホール・劇場」を勉強し、「壁をスラント」させるなど「基本的な部分(※99)に神経とお金を使うべき」だったのではないか!

参※99)当サイト関連記事 オーディトリアムのデザインセオリーはこちら。

 

公開:2017年9月11日
更新:2022年9月30日

投稿者:デジタヌ


倉敷市民会館 《ホール音響Navi》 TOPマービーふれあいセンター /倉敷市《ホール音響Navi》 


 

 

 



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