狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

三井住友海上しらかわホール 《ホール音響Navi》

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シューボックス型音楽ホール

バブル経済崩壊の憂き目に遭いながら、100周年事業として建設された。

1994年バブル経済がはじけて数年、経営再建の為に不良債権処分・緊縮財政の嵐が吹き荒れていた頃、住友海上創立100周年を記念して建設された大阪の住友生命・いずみホールに対抗して?建設されたコンサートホール。

名古屋市を代表するコンサートホールとして、名古屋にクラシック文化の灯火を灯し続けているホールの一つ。

三井住友海上しらかわホールのあらまし

Official Website http://www.shirakawa-hall.com

バブル経済がはじけて数年後の1994年、経営再建の為に不良債権処分・緊縮財政の嵐が吹き荒れていた頃、住友海上創立100周年を記念して、大阪の1990年開館の住友生命・いずみホール(※ホールNaviはこちら)に対抗して?中区伏見に建設されたコンサートホール。

「金泊仕上げのしゃちほこ」「銅板瓦葺き」の「鉄筋コンクリート模造名古屋城」に代表される、「派で好き、見栄っ張り」の「尾張」気質に象徴される、「見てくれ倒れの愛知県芸術劇場コンサートホール(※ホールNaviはこちら)」に変わって、名古屋市を代表するコンサートホールとして、名古屋にクラシック文化の灯火を灯し続けているホールである。

このホールと、CoCo壱番屋の創業者宗次徳二氏が私財を投げ打って作った宗次ホール(※ホールNaviはこちら)は名古屋の「音楽界の良識」を示し、名古屋市民の誇りともなっている。

しらかわホールのロケーション

ところ  名古屋市中区栄2丁目9番15号。

名古屋駅から地下鉄で1駅伏見駅を南北に通る伏見通り沿いに2筋目の三倉通りに面した場所にある。

すぐお隣はポーラ化粧品で有名なポーラビル、通りを挟んで真向かいは名古屋商工会議所で更に白川通りを渡った白川公園には名古屋市科学館、名古屋市美術館等が有り、付近には、富士フイルム名古屋ビルや、みずほ銀行、山口銀行、三井住友銀行、山口銀行などが立ち並ぶ、金融・ビジネス街でも有る。

しらかわホールへのアクセス情報 

最寄りの駅 地下鉄東山線・名城線「伏見駅」

しらかわホールがお得意のジャンル

年間を通じ数多くのクラシックコンサートが開催されている。

しらかわホールの公演チケット情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら

三井住友海上しらかわホール の音響デザイン

ご注意;以下の記事中※印は当サイト内の紹介記事リンクです。
但し、その他のリンクは事業主・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

(公式施設ガイドはこちら)

細部にまで神経の行き届いたデザイン

3層構成

後半がスロープになったメインフロアーと両サイド迄回り込んだサイドテラスを持つ2階バルコニー席を備え、3層目に当たる部分には客席に張り出した音響・照明調整室が配されTそれに続くキャットウォーク(※11)を兼ねたダミーテラスが配されている。

参※11)キャットウォークについてのWikipediaの解説はこちら

ホール後方壁面

客席後端壁面は1.2階ともに木質の音響グリルで表装された吸音壁となっている。

メインフロアー

J列迄の10列全てが平土間構成の前半部と後半部が緩やかなストレート段床の構成となっている。

フロアー周辺の通路は、2階ベランダの影響を最小限にとどめるよう余裕を持って広く取られて入る。

2階バルコニー

6列6段のストレート段床のバルコニー両翼から前方ステージサイド迄2列2段のサイドテラスが伸びており、そのままステージ背後に回り込み通路となっている。

客席部分前面には木製手摺のついた強化ガラスで前面が覆われた格子フェンス柵が巡らされている。

シートは壁面から少し離れて配置され壁面からの初期反射にも配慮してある。

ボールト天井

最上層部壁面から、コーナー反響板で折れ上った天井はヴォールト(※1)になっており、ボールト中央は緩やかなカーブを描く凸面にシェーピングされており床面との完全平行をキャンセルしている。

※参1)「ヴォールト」デザインについてのWikipediaの解説はこちら。

壁面を覆う音響拡散体の数々

凝ったデザインの壁面

内壁はアンティーク家具のような凹凸加工を施した異形のレッドオーク材パネルを用いた表装で、オーディトリアム全体としてサイド壁面六ヶ所に装飾柱を配してある。

2・階サイドテラス背後には片面6か所、正面に2か所の装飾柱が配されている

3層目に配されたキャットウォークテラスとダミー窓を持つサブヴォールト

3層目の壁面は全面プラスターボードで表装され最上部は連続したコーナー反響板を形成し天井に折れ上がっている。

左右6か所と正面ステージ背後2か所の装飾柱の間は上部に教会風のサイドヴォールトが刻まれ、柱間は観音扉を配したプレーンな壁面になっている。

サイドテラス席背後壁面

サイドテラス背後には6か所の装飾柱の間5か所に少し張り出した縁取り(サッシ)のある観音扉が配置され、1階同様の異形パネルが僅かにハノ字に開いて設置されている。

メインフロアー周辺

メインフロアー客席周辺では上層部に至る装飾柱の間に更に中間装飾柱が嵌められ左右片面6本の装飾柱の間は、表面を山形の凸面に成型した観音扉と同意匠の壁面が交互に配されている。

ステージ周辺

額縁付きの山形に窪んだ凹面パネルのセグメントを並べて表装された壁面が取り囲むステージは、ホリゾントに向かってややすぼまった台形で左右の壁面は平行しておらずこの部分のみ定在波には配慮してある。

総括 元長久手の山野に巣くっていた微酔い狸の独り言

名古屋で人気を2分するホール

「豪華絢爛派手好きの織田信長」、「質素倹約・質実剛健・実利優先の三河武士・徳川家康」どちらも愛知県民を表す気質であろうが...、前者の旗頭を愛知県芸術劇場コンサートホール(※ホール音響ナビはこちら)とすれば後者を代表するホールがこのホールでは無かろうか、いずれにせよご当地名古屋で人気を2分するホールの一つには違いない。

バブル崩壊後の緊縮予算の煽り...

せめてあと5年前に計画し1991年に開館していたら、オルガンがあったのでは?

さしずめ「刀折れ矢尽きる」とでも言ったところか、バブル経済崩壊後の「削減に次ぐ削減の緊縮予算」の都合で設置が見送られたので有ろう「パイプオルガン」、ステージ背後の2階部分の壁面に「ぽっかり空いた空間」が寂しそうである?

惜しい2階にある2列のテラス席

惜しむらくは2階テラスで「名古屋感覚」が出てしまったのか?欲張って2列配置にした点であろう、レッドオーク材の異形壁からの初期反射は不快感を感じる程では無かろうが、人1人分程度の隙間?は空いており、1階大向こうとは異なり釣鐘現象による影響(※41)は少ないが背後に壁面が迫っているのは事実。

最も元祖ザ・シンフォニーホールにせよ、「いずみホール」も2列テラスなので、この辺が商業ホールの限界なのかもしれない。

...と言う事で、狸穴総研・音響研究工房・『厳選後世に伝えたい・真の銘ホール50選』に選ばせていただく。

参※41)当サイト関連記事 『第2節 定在波音響障害とよく似た釣鐘現象 はこちら。

流石損保

オーディトリアム間口16.5m 奥行き31.5m 平土間部分天井高さ約14.7m

※室温28℃、海面標準気圧1013hPaの時の音速 348.6m/sec で計算してあります。

  • 間口方向定在波周波数成分 ;約10.6Hz/0.5λ、 約21Hz/1λ
  • 奥行き方向定在波周波数成分 ;約5.5Hz/0.5λ、 約11Hz/1λ
  • 高さ方向定在波周波数成分 ;約11.8Hz/0.5λ、 約23.7Hz/1λ

基本的にステージ以外は屏風状に水平方向にアンギュレーションを付けた垂直壁で、定在波の高調波成分を抑制して壁面間距離で定在波を可聴帯域内ぎりぎりにとどめて、健康被害を無くす手法(※30)を狙ったようだが...

高さ方向については前途した天井ヴォールトで発生そのものを阻止している。

もちろんステージ上ではていざいはが生じないように両側壁はハノ字型に客席に向かって広がっている。

参※30)当サイト関連記事 第2項 間口16.5mのシューボックスホール!の心地よさの秘密とは...はこちら。

但し 残念だが...

壁面は微妙に開き角を持つ0.5m前後幅のパネルで表装されているが、波長1m周波数にして約348Hz以上の定在波の倍音列周波数成分をしっかり抑え込むのと同時に、実際上は前途した数々の装飾同様に音響拡散体(※31)としての働きを賄っていると考えたほうが良さそうである。

定在波は単純なサイン波でも無ければ1波長でもないので...

standing_wave.jpg

つまり、このホールでは「サイズは学んだ」が付則としての「壁面スラント」は学ばなかったようで、ステージ上を除く全域が「定在波音響障害」エリア(※71)となっていて「音響障害」(※72)を起こしている!

但し前途したようにステージ上の「楽師」は定在波の魔の手からは逃れている。

せめて、座席は扇形スロープ扇形段床としてほしかった。

まあオーナーにとっては不本意な結果に終わったが、これがシューボックスホールの難しいところで、ある部分だけをまねても、いい結果には終わらない典型であろう。

今後壁面改修を行い真のシューボックスホールになっていただきたいと願う次第である。

改修についての1ポイント

背後壁と同様に左右両壁を「音響格子+吸音壁」とするか「スラントパネル」に換装されることをお勧めする。

参※31)当サイト関連記事 第3節 音響拡散に用いられる壁面装飾オブジェ"音響拡散体" はこちら。

参※71)当サイト関連記事  第1章 standing wave(定在波)は音波とは異なる物理現象!

参※72)当サイト関連記事  第2章 定在波で起こる音響障害『ミステリーゾーン』

音響評価 version.2 revision.6 /2020.12.16

ホール音響評価点:得点24点/100点満点中

※700席 (可動席、車椅子スペース7席分含む)のコンサートホールとしての評価。

※評価ポイント詳細は「"ホール音響ナビ"に用いた用いた評価法とは」をご参照ください。

※前提条件 音響障害エリアについて

「以下の座席ブロック」を個々の音響障害ブロックと見做します。

  • ●メインフロアーは「平土間部」「スロープ部」を夫々別ブロックと見做します。
  • ●上層階バルコニー、左右サイドテラスを夫々1エリアとして見做すこととします。
  • ●サイドテラス(桟敷席)は各階の左右を夫々別ブロックと見做します。
  • ワインヤード(アリーナ)形式については"各棚"を夫々別ブロックと見做します。

§1 「初期反射」軽減対策評価;得点14点/配点25点

※以下詳細は第1節 「初期反射」軽減対策評価:配点25点をご参照ください。

  • ※音響障害席の有無にかかわらず側壁面の表装(素材)に応じて「持ち点」とします!
  • ※表装の内硬質側壁部などの低得点表装の表装ランクを全体に当てはめます!
  • ※グルービング処理を施した木質パネル等の軟質壁材基礎点25点から硬質壁材基礎点13点の間6段階で素材基礎点を与えます。
  • 障害箇所1点/1箇所で基礎素材点から減じて持ち点とします。
  • ※基礎点に音響障害客席数比率を乗じて算出します。

§2 定在波対策評価;得点4点/配点50点

※以下詳細は第2節「定在波」対策評価の項目をご参照ください。

※各フロアーの配置・形状、壁面形状、をオーディエンス周辺壁面(概ね人の背の高さ:約1.8mの範囲内)の設えで評価します。

※基礎点に音響障害エリア客席数比率を乗じて算出します。

間口方向定在波
  • 扇形ホール・スラント設置壁以外「垂直完全平行側壁」部分のフロアー・バルコニー部では間口定在波が生じているとみなします。
平土間部分
  • 後列段床で保護!されていない全席を定在波音響障害席と見做します。
扇形またはハノ字段床部
  • (後列でスッポリ囲まれている)「深い扇形段床スロープ」(ハノ字段床を含む)部分では、両端の席を定在波音響障害席としてカウントします。
ストレート段床部

全席定在波音響障害席と見做します。

上下方向定在波
  • 完全平土間部分上部がスラント天井がまたは波状天井でない場合は全席を定在波音響障害席とします。
  • 天井の、小さなヴォールト(窪み)、格天井は定在波対策とは認めません。

§3 「客席配置」に対する配慮評価;得点1点/配点20点

※以下詳細は第3節 「音響障害と客席配置」に対する総合評価:配点20点をご参照ください。

  • ※定在波対策・初期反響対策に「眺望対策(前列障害)」を加味した値で評価します。
  • ※配点から障害エリア数を引いた持ち点に障害エリア客席数比率を乗じて算出します。

§4 「後期残響」への配慮評価;得点5点/配点上限5

※以下詳細は「後期残響」への配慮評価点:配点上限5点をご参照ください。

  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で評価します。
  • 上限5点の範囲内で上記1点/1アイテムで加算評価。

算出に用いた値  version.2 revision.6 /2020.12.16

初期反射対策評価

※規定により素材持ち点 20点とした。(反響音の強度順素材持ち点)

基礎点B2=素材基礎点20点ー障害発生エリア数5=15点

1)ホール後端部の"釣鐘現象"音響障害席 ;23?席(23席/1階S列全席)

2)側壁初期反射音響障害席 ;0?席

3)天井高さ不足音響障害席;43?席(23席/1階S列全席、21席/2階後部座席2F列全席)

重複カウント ;ー23席

音響障害席総計;43?席

定在波対策評価

基礎点B1=基礎点50点ー障害発生エリア数5=45点

1)間口方向定在波音響障害席;621?席
(a)メインフロアー、各階ベランダ部分全席!;549席

(b)サイドテラス(桟敷)部分;72?席

36席/2階右サイドテラス後列全席、36席/2階左サイドテラス後列全席、

2)奥行き方向定在波音響障害席;44?席(23席/1階最後部座席S列全席、21席/2階最後部座席2F列全席、)

3)上下方向定在波音響障害席;44?席

重複カウント ;ー88席

定在波障害顕著席総計;621席

客席配置評価

基礎点B3=基礎点20点ー障害発生エリア数5=15点

眺望不良席数;0席/1階平土間中央部座席千鳥配列済

初期反射音響障害席 ;43?席

定在波障害顕著席 ;621席

重複カウント ;ー43席

音響障害席総計;621席

算定式 

評価点V=基礎点X(総席数ー障害座席数)/総席数

施設データ

  1. 所属施設/所有者 三井住友海上名古屋しらかわビル/ 三井住友海上火災保険。
  2. 指定管理者/運営団体 三井住友海上火災保険。
  3. 開館   1994年

ホール様式 『シューボックスタイプ』音楽専用ホール。

  1. 客席   2フロアー、2階テラス 収容人員700席 (可動席、車椅子スペース7席分含む)

  1. 客席仕様;(※公式客席配置図・座席表はこちら)、天井高さ(最高部)約14m 1スロープ2層 
     
  2. 収容人員700席、(車椅子用スペースX7台、含む、)
    • 1階固定席X428席、1階(オーケストラピット部可動床可動席、車椅子用スペースX7台含む)、1階平土間中央部千鳥配列、
    • 2階席X272席、2階テラス席
    • フローリング、
  1. 舞台設備 オープンステージ、間口:14.9m 奥行:9.0m 高さ:14m 、セミオーケストラピット(可動床)

  • 各種図面,備品リスト&料金表。

付属施設・その他 

  • 付属(共用)施設 ;共用施設配置図・フロアマップこちら、
  • 付属施設 楽屋x7、ホワイエ、エントランスロビー、リハーサルルーム,バーラウンジ、、アーティストラウンジ
  • フルコンサートピアノ(スタインウェイD-274、ベーゼンドルファー290、YAMAHA CF3S、チェンバロ(アトリエフォンナーゲル社製)他

施設利用ガイド

施設利用料金案内 使用料金表 はこちらへ

リハーサル室

(公式施設ガイドはこちら)

床面積108㎡(約65畳)のフローリング床のリハーサル室を設けている。

片面がバレエ、ダンスレッスン用の手摺りのある、1面鏡張りに成っていること。

アンギュレーションを持たせた天井反響板で定在波に対処している。

壁面も勿論アンギュレーションを持たせ、壁紙で表装した「一般住宅用」の石膏ボード。

ここまで丁寧な設えのリハ-サル室もすくない。

ルーム音響評価点:98点

§1,「定在波対策」評価点:49点/50点満点

  • ※ルーム低層部に1対以上の並行したプレーンな垂直壁がある場合は、満点x0.5=25点をベースに減点算出。

§2、「初期反射」対策評価点:49点/50点満点

  • ※ルーム低層部3面以上がプレーンな垂直壁の場合は、満点x0.5=25点をベースに減点算出。

豆知識 

しらかわホールのこれまでの歩み

三井住友海上しらかわホールは、1994年11月、名古屋・伏見にクラシック音楽専用の中規模ホールとして開館しました。当時の住友海上が創業100年記念事業の一環として建設したものです。その後2001年10月に住友海上は三井海上と合併し、三井住友海上となりましたが、ホールはそのまま新会社に引き継がれました。...<公式サイトより引用>

※参照覧

※1、第11章 ドームとヴォールトに関する解説はこちら。

※2、定在波対策については『第4章 セオリーその1 "定在波の駆逐" と "定在波障害の回避策"』をご覧ください

※3、音響拡散体については、『ホールデザインのセオリー 第9章第3節第1項 音響拡散処理と音響拡散体となる要素』をご参照ください。

※4、直接音、初期反射音、残響音についての(株)エー・アール・アイさんの解説はこちら。

※5-1、定在波に関する解説記事 音響工学の基礎知識"平行した対抗面間で生じる『定在波』"はこちら

※6、定在波障害の実被害については『ホールに潜む ミステリー ゾーン (スポット)とは?』をご参照ください。

 

 

公開:2017年11月 5日
更新:2022年9月30日

投稿者:デジタヌ


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