狸穴ジャーナル・別冊『旅するタヌキ』

かつしかシンフォニーヒルズ /葛飾区 《ホール音響Navi》

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「モダニズム」に影響された「合理主義者」のザイナーによる、なんとも不思議なセオリー無視のディール処理(意匠)が多くみられる「見れば見るほど訳のわからない」モーツァルトホールと秀逸なアイリスホールのガイド記事。

このページの目次

かつしかシンフォニーヒルズのあらまし

かつしかシンフォニーヒルズは、1318席のモーツァルトホールと298席のアイリスホールを中心に、ギャラリー(展示室)・カフェテリアなどの機能を持つ本館と、会議室・視聴覚室・レクリエーションルームなどを備えた別館が、ペデストリアンデッキで結ばれています。 <公式サイトより引用>

生まれは、葛飾柴又...でおなじみトラさんの故郷「柴又」がある葛飾区、「寅さん記念館」と並んで、葛飾区の新名所と成っている。

かつしかシンフォニーヒルズのロケーション

  • 所在地  東京都葛飾区立石六丁目33番1号

東京の東部、東部は「寅さんの生まれ故郷葛飾柴又」、江戸川を挟んで隣は千葉県松戸市、西は隅田川を挟んで荒川区、ほぼ中央を南北に流れる中川に近い京成電車・靑砥駅に近く、京成本線と押上線に挟まれた一角のその名も「シンフォニーヒルズ前交差点」の西角にある。
周囲は下町の住宅地で、お隣の私立の病院と共にひときわ目につく建物と成っている。

国道6号線に向かって西方向に400mほど行ったところに葛飾区役所がある。

途中に、オリンピックがあり道を挟んで北側に区立の清和小学校、立石中学、都立南葛飾高校が南北に連なって建っている。

「オリンピック」の南側にタカラトミーの本社がある。

かつしかシンフォニーヒルズへのアクセス

京成押上線: 京成立石駅より徒歩10分
京成本線・押上線:青砥駅より徒歩7分

かつしかシンフォニーヒルズ の施設データ

Official Website http://www.k-mil.gr.jp/institution/symphony/index.html

  1. 所属施設/所有者 葛飾区文化会館/葛飾区。
  2. 指定管理者/運営団体 キョードー東京共同事業体/葛飾区。
  3. 開館  1992年5月23日に開業

付属施設・その他

  • 付属施設 、練習室x3、別館会議棟(会議室x12、レクリエーションルーム、練習室x3、アトリエ、ヒルズレストラン他
  • 施設利用(利用料金等)案内 詳しくはこちら。

※ご注意;以下※印は当サイト内の関連記事リンクです。
但し、その他のリンクは施設運営者・関連団体の公式サイト若しくはWikipediaへリンクされています。

『モーツァルトホール』の音響デザイン

(公式施設ガイドはこちら)

プロセミアム形式のシューボックス型多目的ホールではあるが、可動プロセニアム、重量級の反響板を用い、ホール客席部と一体化しシューボックス型コンサートホールとなる、最近流行のデザインを採用している。

モーツァルトホールは、オーケストラ演奏を主目的にしたホールです。

ウィーンフィルの本拠地にあるムジークフェラインザールと同じシューボックス(長方形)型空間を採用し、国内でもトップクラスの優れた音響性能を備えています。
音楽だけでなく、ミュージカル、舞踏、演劇など、"音"にこだわったさまざまな舞台芸術活動にも利用しやすく設計されています。<公式サイトより引用>

緩やかなスロープを持つメインフロアーと、2階バルコニー席の2層構造のホール。

目立たないわずかなアンギュレーションを持たせたわりと大き目の石材(大谷石?)で表装された垂直壁面を特徴とする。

所見と総評

ほんとに変なデザイナーである。前面木質パネルにしておけば...

詳細を「見れば見るほど訳のわからない」ホールである!

セオリー(※2)通りの丁寧な設えののアイリスホールに対して、大胆と言うか、「挑戦的」というか...。

参※2)当サイト関連記事 第5章 芸術ホールにおける"オーディトリアム"の音響デザイン・コンセプト はこちら。

シューボックス型に対する配慮(認識)が不足した意匠デザイン

シューボックス型と扇形では基本的な手法が異なってくる。シューボックス型つまり基本的な「直方体」では「対抗する六面」が全て並行してしまう。

平行すると、初期反射(※3)がいつまでも無くならず「ワンワンホール」と成りやすい。

そこで、基本デザインは「アイリスホール」の様に客席周囲の壁面を「僅かにスラント」させて並行と成らない様にデザイン(基本設計)する。

参※3)当サイト関連記事 『建築音響工学総覧 』第3巻 多目的ホール での諸悪の根源 "過大な エコー"はこちら。

上層部壁面での音響拡散(残響創出)

さらに、これだけでは後期残響(※3)に必要な散乱波が生じないので「音響拡散体」を壁面の要所に配置する、「アイリスホール」では上層部の「装飾柱」と梁台座風の「コーナー」装飾がこれに当たる。

このホールでは、下層部では見られなかった「アンギュレーション壁面」を用い、アイリスホール同様の「装飾円柱」、さらにはテラス前面に「装飾軒」を設け「音響拡散」を狙っている?

参※3)当サイト関連記事 第3節 音響拡散に用いられる壁面装飾オブジェ"音響拡散体" はこちら。

このホールで最大の「欠陥」は壁材選択の誤りである、

客席周囲が石壁で、上層部が木質?

ホールデザインを経験したデザイナーであれば「クライアント(施主)」の要求でも無い限りこのような無謀とも言える壁材アレンジメントは行わない!

肝心要の客席フロアーが「銭湯の洗い場」状態で反響渦巻く世界と成っている。

特に壁際2・3列は聴覚と視覚による方向感覚が合わなくなり「ホール酔い」を起こしかねないし、両サイドの対抗壁面反射により初期反射が増幅され凄まじい響きとなるであろう。

実際、少しでも初期反響を押さえるべく「当ホールご自慢」の上層部にある「演劇用照明BOX」の扉を全開にしたままで、オーケストラやピアノリサイタルが行われている。

通常のホールデザインを無視した意匠デザイン

今まで解説した様に、「壁面形状」「材質」、全てにおいて上下180°反転されている意匠である。

セグメント反響板と天井両サイドのコーナー反響板を用いたホール天井意匠

天井は客席フロアー面との定在波(※4)対策の為セグメント天井を用いている。

これも「?」要素ではある。

通常のシューボックスホールでは、「洋の東西を問わず」、「組格子天井」を用いるか「アイリスホール」の様に飾り張りと折上げた天井を用いる。

なぜなら、「飾り梁台座」「飾り梁」、「折上げ組格子」で音響を拡散させ「心地良い残響」のシャワーを醸し出すか為である。

参※4)当サイト関連記事  第2節「高さ方向定在波の音響障害」回避策 はこちら。

扇形の「レビュー&ショー劇場」に適用する手法の数々

以上述べた様なデザインは総じて扇形の「レビュー&ショー劇場」に適用する手法である。

シューボックス音楽ホールに適用した例は少ない。

(※少ない適用例:豊田市コンサートホールのホールナビはこちら。)

ミュージカル興業にも問題が多い舞台設備

一方、コンサートホールとしてでは無く「宝塚大劇場」のような「レビュー・ショー専用劇場」と考えた場合でも問題が多すぎる。

オーケストラピットは設営できても、脇花道が無い!舞台袖が狭い!、為に

舞台転換が難しい。

高床桟敷に近い2階テラスは秀逸だが、

「飾り軒」以外は軒が無い二階テラスは秀逸だが、セオリー無視のディール処理(意匠)が多すぎる。

どうもこのデザイナーは「モダニズム」に影響された「合理主義者」のようで、

自己主張が強すぎた感はある
 
アイリスホールが秀逸なだけに残念ではある。

巨大な銭湯の「洗い場」?

と言うわけで「このホール」はどう見ても「ブーミー」な響きの天井の高い「銭湯の洗い場」的なエコー(初期反射)たっぷりのエコールーム(※5)であるように思う。

1階2階とも壁毛話から2列目まではオススメできないシートではある。
京都コンサートホール大ホールもそうであるが、プレーンな面で構成された、この手のアート的「現代建築」は「音楽ホール」には向かないと言わざるを得ない。

参※5)エコーチャンバーについてのWikipediaの関連項目は こちら。※本物のエコールームでは定在波対策(平行壁面対策)はしっかり施されています。

ホール音響評価点:65点(暫定概算値)

§1,「定在波対」策評価点:36点/50点満点

  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、天井形状、天井高さ、等の要素をそれぞれ減点法で算出。
  • ※客席側壁がプレーンな垂直壁で「完全平行・平面」の場合は、満点x0.5=20点をベースに算出。

§2、残響その1 「初期反射」対策評価点:10点/25点満点

  • ※壁面の素材・形状、客席配置、その要素で減点算出。
  • ※(コンクリート、人造大理石、タイル・陶器製などの)硬質材の客先周辺壁材仕様は、満点x0.5=10点をベースにして減点算出。

§3,客席配置への評価点:14点/20点満点

  • ※壁際席、大向こう席、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で減算。
  • ※客席周辺壁材が硬質壁の場合は、満点x0.8=16点をベースに減点算出。

§4,残響その2「後期残響」への配慮評価点:5点/5点満点

  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で減点算出。

※関連記事「後悔しないコンサート会場の見分け方」まとめ  はこちら。

モーツァルトホール(大ホール)の施設データ

  1. ホール様式 、『シューボックスタイプ』プロセニアム型式多目的ホール。
  2. 客席   2ロアー 収容人員 座席数は1318席。2階席(548席)

    オーケストラピット 105席 1列~3列
    固定席 665席 4列~22列

    可動床、1
  3. 舞台設備 、、大迫り、故迫り、ブドウ棚(すのこ)、、可動プロセニアム、可動反響版、オーケストラピット(可動床)、
  4. その他の設備 、楽屋x7、リハーサルルーム、

大ホールがお得意のジャンル

オーケストラコンサート以外にも、オペレッタ、ミュージカル、ポップス関係のコンサートやエンタテイナーのワンマンショウが年間を通じて数多く開催されている。

モーツァルトホールで催されるコンサート情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら

『アイリスホール』の音響デザイン

(公式施設ガイドはこちら)

アイリスホールは本格的なオープンステージ形式を採用し、舞台と客席が一体感を得られるように設計されています。
特に、ピアノ、室内楽の演奏に最適のホールです。

また、アイリスホールは、客席部分の座席を格納し床を舞台として利用したり、舞台を床面まで下げ客席として利用できるようにした床可変機構を採用していますから、より幅広い芸術発表にお役立ていただけます。<公式サイトより引用>

所見 特徴的な壁面

長さ幅のことなる木質ブロックを煉瓦状に積み上げて壁面としている
客席周辺はわずかに内傾させてあり、中層部に溝を巡らせている
上層部との間に装飾梁を儲け音響拡散体を兼ねて天井に回り込む装飾コーナー、からセグメント天井となっている。
中層部には装飾柱も設けてあり、対抗する平行面を富士込めるで字員である、この手のボックス型で問題となる、対向面反響、定在波は見事に抑えられている。
これらの見事なディティルにより「無様な」「マジックボックス」残響調整箱(吸音ボック間)は駆逐されている!

総評

真に「見事な設え」のホールである。

残念なのは、座席配置、壁際の席は(施主の)区施設担当者の欲が出たのであろう。

ホール音響評価点:90点(暫定概算値)

§1,「定在波対」策評価点:35点/50点満点

  • ※各フロアーの配置・形状、壁面形状、天井形状、天井高さ、等の要素をそれぞれ減点法で算出。
  • ※客席側壁がプレーンな垂直壁で「完全平行・平面」の場合は、満点x0.5=20点をベースに算出。

§2、残響その1 「初期反射」対策評価点:18点/25点満点

  • ※壁面の素材・形状、客席配置、その要素で減点算出。
  • ※(コンクリート、人造大理石、タイル・陶器製などの)硬質材の客先周辺壁材仕様は、満点x0.5=10点をベースにして減点算出。

§3,客席配置への評価点:17点/20点満点

  • ※壁際席、大向こう席、平土間部分の見通し(眺望)不良、それぞれ-1点/1箇所で減算。
  • ※客席周辺壁材が硬質壁の場合は、満点x0.8=16点をベースに減点算出。

§4,残響その2「後期残響」への配慮評価点:5点/5点満点

  • ※壁面形状、音響拡散体(相当要素)、テラス軒先形状、天井構成、その他の要素で減点算出。

アイリスホール(小ホール)の施設データ

  1. ホール様式 『シューボックスタイプ』音楽専用ホール。
  2. 客席   1フロアー 収容人員 298席、1固定席 171席階、可動席 127席 A列~G列可動床、平土間中央部千鳥配列
  3. 舞台設備 オープンステージ形式 :間口:12m 奥行:8m 
  4. その他の設備 、楽屋x3、リハーサルルーム、

アイリスホールがお得意のジャンル

年間を通じソリストのリサイタル、アンサンブルのコンサートが開催されている。

アイリスホールで催されるコンサート情報

チケットぴあ該当ページへのリンクはこちら。

その他の付属施設

練習室

大小あわせて3室の練習室。1室は完全防音ですから、ロック等の練習にも利用できます。<公式サイトより引用>

デジタヌの豆知識

かつしかシンフォニーヒルズこれまでの歩み

1937年、葛飾区役所が現立石1丁目付近から移転してきた。

1962年 区役所が立石5丁目に移転。現在地へ移転一時的に体育館として利用されていた。後に当館建設に伴い閉鎖された。

1992年5月23日に開館。

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公開:2017年12月 4日
更新:2022年9月30日

投稿者:デジタヌ


東京宝塚劇場/千代田区有楽町《ホール音響Navi》TOPなかのZERO /もみじ山文化センター《ホール音響Navi》


 

 

 



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